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稲盛和夫さんに学ぶ「病気になって学ばされた 心の大原則」

COVID-19(新型コロナウィルス感染症)はウィルスによって引き起こされる肺炎ですが、同様に細菌によって肺炎を引き起こす感染症の一つとして「結核」があります。稲盛和夫さんは、幼いころに結核に感染した際の心境や、そこから学ばれたことを著書「生き方」(2004)にて以下のように述べています。


 これまで、人生は心のありようでいかようにも変えられるという、人が生きるための大原則について述べてきましたが、実は私の人生は失敗と挫折の連続で、何度も痛い目にあいながら、その法則を「思い知らされた」というのが実情なのです。

 若いころの私といえば、やることなすこと、ことごとくうまくいかず、「こういう方向に行きたい」と希望して、かなうことは一度もありませんでした。どうして自分の人生はうまくいかないのか、なんて運の悪い男だと、天に見放されたように思い、不平不満を募らせ、世をすねたり恨んだりしたことも再三でした。そんな蹉跌(さてつ)をくり返すばかりの人生の中で、すべては自分の心が引き起こしたものであると徐々に悟っていったのです。

 最初の挫折体験は中学受験の失敗でした。ついで、その直後に結核に侵されました。当時、結核は不治の病であり、さらに私の家系は叔父二人、叔母一人をともに結核で亡くすという″結核家系″でした。

オレも血を吐いて、もうじき死ぬのか」 ―― まだ幼い私は打ちのめされ、微熱の続くだるい体を持て余し、はかない気持ちにさいなまれながらも、病の床に伏せる他に方途はありませんでした。

 そのときに、隣の家のおばさんが不偶に思ったのでしょう、これでも読んでみなさいと、「生長の家」の創始者である谷口雅春さんの『生命の実相』という本を貸してくれました。

 中学に入ろうとする子どもにとっては、ややむずかしすぎる内容でしたが、私は何かにすがりたい一心で、わからないなりに読みふけり、やがてそこに、
「われわれの心のうちには災難を引き寄せる磁石がある。病気になったのは病気を引き寄せる弱い心をもっているからだ」

 というくだりを見いだして、その言葉にくぎづけになりました。谷口さんは「心の様相」という言葉を使って、人生で出合う事柄はみんな自分の心が引き寄せたものである。病気もその例外ではない。すべては心の様相が現実にそのまま投影するのだということを説いておられました。

 病も心の投影であるとは、少し酷すぎる言い方ですが、そのときの私にはおおいに心当たりのあることでした。というのも叔父が結核にかかり、自宅の離れで療養しているとき、私は感染を恐れるあまり、いつも叔父が寝ている部屋の前を鼻をつまんで走り抜けていたからです。一方、父は付き添って看病を怠らず、私の兄もそんなに簡単にうつるものかと平然としていました。つまり、私だけが親族の病を忌み嫌うように、ことさら避けていたのです。

 その天罰が下ったかのように、父も兄も何ともないのに、私だけがうつってしまった。ああ、そういうことかと私は思いました。避けよう、逃げようとする心、病気をことさら嫌う私の弱い心が災いを呼び込んだのだ。恐れていたからこそ、そのとおりのことがわが身に起こった。否定的なことを考える心が、否定的な現実を引き寄せたのだと思い知らされたのです。

 なるほど心の様相が現実そのものなのだと、少年の私は谷口さんの言葉を痛感し、自らの振る舞いを反省もして、それからはなるべくよいことを思おうと誓いもしました。しかしそこは衆生凡人の悲しさで、心のありようはなかなか改まらず、それからもまだ、紆余曲折の人生が続くことになりました。…
(稲盛和夫さん著「生き方」より)

今現在、COVID-19と対峙する私たち人類がおかれた現状を振り返りますと、上記の稲盛さんから学ぶべきことが多くあるのではないでしょうか。



中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp


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