虹色の龍の雲
雨が止み、光が差し始めて空が明るくなっていく。
大気中からだんだん湿気が抜け、風が吹き始める。
ベランダに出て背を伸ばし、深呼吸をした。
雨上がりの空は気持ちがいい。
全身にひんやりとした風を受け、空を見上げる。
黒い雨雲は去り、いくつかの白い大きな雲が浮かんでいる。
風に流れる雲は、ダイナミックな動きを見せ大空に壮大な絵を描いている。
日差しを受けた部分は眩しく輝き、影の部分は雲の重量感を見せつける。
流れる雲のパノラマをうっとりと眺めていると、白い雲の合間の真っ青な空間に一筋の細長い異様な雲を見つけた。
まるで虹色の龍。
ゆったりと波打つ長い雲は、淡い虹色だった。
虹の一部分が雲に当たっているんだな。
そう思って虹のほかの部分を探したが、どこにも虹の色は見えず、その雲だけが七色に輝きながら近づいてきた。
こんなことってあるんだ。
大きくなってきたその雲は風に吹かれて背中の部分が背びれのように伸び、赤や黄色の光を発した。
何これ、吉兆なのか,凶兆なのか。
マンション前の道路や他の部屋のベランダや、ほかのビルの窓を見てみたが、誰も気付いていない。
私だけがこの不思議な雲を見ている。
ひょっとして、お迎えか?早すぎないか?
どうしよう。
まあ、あんなにきれいな雲がお迎えならいいかな。楽しそう。
考えてもしょうがないと、せっかくの美しい雲を楽しむことにした。
雨上がりの清々しい空を、気持ちよさそうに駆ける虹色の龍。
怖いような嬉しいような感動とともに見つめる私の目の前で、虹色の龍の雲は大きな白い雲にさえぎられて見えなくなった。
どこへ行ったのだろう。
やっぱり虹の一部だったのかと、しばらく空を見渡していたがそれらしきものは全く見えなかった。
夢でも見たんだろうか。
慌てて撮ったスマホにはちゃんと虹色の姿が映っていた。
きっと龍も、うっとうしい雨雲がいなくなったのでオシャレして青空を散歩したくなったんだろう。鼻歌でも歌いながら。
たまにはいいよね。
絵 マシュー・カサイ「虹色の龍の雲」水彩・ペン
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