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日記エッセイの魅力を知った、『池波正太郎の銀座日記(全) (新潮文庫)』

パリに、母と同じくらいの年齢の友人がいます。彼女はもう40年ほどフランスに暮らしている先輩で、映画や本の話や、近況報告をかねたランチを時々する仲です。そんな彼女からおすすめされて、池波正太郎さんの『池波正太郎の銀座日記(全)』 というエッセイを読みました。

池波さんといえば、『鬼平犯科帳』『仕掛人・藤枝梅安』などを執筆された歴史小説家。エッセイを書かれていることは知りませんでした。

時空を超えて共感、日記エッセイの魅力


時代は1990年前後、銀座が舞台です。
この本は、池波正太郎さんが、死の間際まで連載していた日記をまとめたものです。

1990年頃といえば、私自身はまだ学生。池波さんとは年齢が違いますが、当時ワクワクして観に行った映画のタイトルや、知っている本などが日記のなかにたくさん登場するのです。

例えば映画で言えば、『ミツバチのささやき』『ベティ・ブルー』『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』『八月の鯨』『ニューシネマパラダイス』など。多感な少女時代に、影響を受けた作品たちばかりです。池波さんは、それらを試写で見ていて、感想を述べています。そんな大人たちが書いた論評などを読み、子供だった私は少なからず影響を受けて、映画館に足を運んでいたのかもしれませんね。

後半、昭和天皇が崩御された日の場面が出てきます。学生だった自分のその日と、60代だった池波さんが過ごしたその日を重ね合わせ、またもや2つの違う年代が重なる不思議な気持ちになりました。

日記エッセイ…。あまり読んだことがありませんでしたが、すごく新鮮で惹き込まれました。自分も過ごした同じ1990年前後を、違う年代の方の視点で、時空を超えて擬似体験できるのです。そして親近感が湧いて、共感できるってすごくないですか? 日記エッセイなので、その人の日常の行動や、日々何を考えていたことを垣間見ることができます。時事ネタや、具体的なお店の名前や情景が描かれているのも好きな点です。後世の人(自分)が読んで、あとから振り返ると具体的に照らし合わせることができて面白いので。

もちろんこの共感は、池波さんの筆力があってこそなのでしょうが、これこそが日記エッセイの醍醐味なのかもしれません。

池波さんの粋な生き方、真似しようっと!


今度日本に帰った時は、池波さんみたいに「蕎麦屋でちょっと一杯」とかやってみたいな。そういえば私がこどもの頃、祖父がいつも、夕方から近所のお蕎麦屋さんで一杯やっていました。今思えば、お蕎麦屋さんで一杯って、スペインで言う所の「バルでピンチョスをつまんで一杯」に似ています。昔ながらのお蕎麦屋さん文化を大切にしたいな、と読みながらしみじみ思いました。

あと池波さんは、夜食にポテサラサンドをよく召し上がっていて(かわいい)、たびたび文中に登場します。とにかく、食への情熱とこだわりが素敵すぎなのです。食いしん坊な池波さんは、ご自身のお気に入りのポテトサラダをテイクアウトまでしていて、そういうのもいいな。読んでいると無性にポテサラサンドを食べたくなり、思わずポテトサラダを作ってしまいました。他にも、カブのお味噌汁も作ったし、フランスの黒大根をおろして、大根おろしも作ってしまった。じゅるる…

美味しいものを食べる。たくさんの映画、たくさんの本。画集や写真集を持ってベッドに入る夜。ブランデーとチョコレート。山の上ホテルに缶詰で直木賞候補の本を読む。挿絵やエッセー、旅先でのスケッチ。観劇。画材や万年筆、カバンの買い物。私もそういう粋で、好奇心旺盛な年齢の重ね方をしたーい! 池波さんの生き方を真似しよう。

いつか、池波さんがよく缶詰になっていた、御茶ノ水の山の上ホテルにも泊まりたい。調べると、来年の2月13日から、当面休業とのこと。竣工から86年。老朽化への対応のようです。



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