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2023年の相場展開について

合理的逆張り?

金融各社より来年の相場見通しがまたぞろ発表されている。概して年前半は軟調、年後半は堅調と見る向きが多いようだ。足下、マクロ面は景気減速とインフレ鈍化がそれぞれ見えており、景気は失速寸前でインフレはピークを過ぎて八合目といったところである。そこから、来年前半は景気が失速するもインフレは六~七合目とまだ高くFEDも引き締め継続年後半は景気回復の初期に移行しインフレは四~五合目まで降りてきてFEDは利下げ転換、というのが市場で共有されているストーリーであろう。

このストーリーを真とすると「年後半にはFEDが利下げして株が上がるのだから今のうちに株を買っておこう」という逆張りもまた合理的となる。そし実際、足下の相場は将来の株価上昇を前借りすることで一定程度支えられているだろう。今年何度も経験したのは、インフレ率のコンマ数パーセントの下振れでFED pivotを予期し噴き上がるパチンコ相場であった。従前からウォッチしている利上げと株価の水準比較では、金利上昇(≒利上げ織り込み増加)に株価はあまり反応しなくなっている(下図)。原油など各種資源価格が落ち着いていることもあり、将来の利下げ(からの株高)を予見して今のうちに仕込んでおこう、という筋が一定程度存在することが示唆される。

リセッションは来るのか?

話を戻すと、景気悪化→インフレ鈍化→FRB利下げ、という簡潔なロジックには二つの点検が必要である。
1.景気はどの程度悪くなるのか
2.景気とインフレの反応係数はいくらか
という点である。

景気悪化の程度については、「リセッションに陥るものの市場崩壊を起こさない程度の浅く短いリセッション」という(随分と都合のいい)展開が見込まれている。景気については参考指標がISMだったり雇用だったりGDPだったりと時々でブレているが、FRBに行動変化を促すという点では雇用を見るのが間違いないだろう。その雇用は言うまでもなく強い結果が続いている。

雇用が強い背景には、突き詰めると個人消費が強いことがあるとみられる。実質個人消費はコロナ前と変わらない勢いで増加しているが、足下が8%前後のインフレであることを踏まえるとその粘り強さが窺える(下図)。過去60年のリセッション局面で多くの場合個人消費が前年割れしていた(8分の6回)。今後インフレが鈍化する場合、実質個人消費にはテクニカルに押し上げの力が働くことになる。個人消費の前年割れは回避されるのではないだろうか。

では何故消費が強いのかと言えば、FRBによる引き締めを経てもなお家計資産が潤沢なためであろう。家計純資産(対可処分所得比)は減ったとはいえまだ高く、家計部門は空前のキャッシュリッチである(下図)。70年代のオイルショック期ではインフレが資産を目減りさせていた。08年のリーマン・ショックでは株安と不動産安のダブルパンチで年収の120%が1年で吹き飛び2000年代の蓄財を全て無に帰した。こうした悲惨な過去と比べれば、足下の家計財政はなお健全である。

血栓と化した家計資産

他方、周知のとおり家計資産の多さはFIRE層の発生を通じ労働供給を細らせている。膨大な家計資産が米国経済における「血栓」と化し、需給両面からインフレ圧力をかけている。血栓がなくなれば血圧(=インフレ)も下がるが、前述のとおり市場は株の買い場を探っているわけであり、血栓は簡単には無くなりそうにない。

市場予想のインフレ見通しが楽観的、と言いたいわけではない。家計資産という血栓は残るも、他の血栓が剥落することでインフレ全体としては鈍化していくだろう。スエズ運河の座礁、コンテナで溢れた港、消えたトラック運転手、足りない半導体、戦争による資源高などの影響はフェードアウトしており、その結果はISM製造業/非製造業に含まれるコスト指数の動きに表れている(下図)。血栓が剥がれ血流が正常化した結果、製造業企業ではコスト上昇が止まっている。人件費がコストの大宗である非製造業では家計資産が賃上げ圧力となりコスト上昇が続いている。既にCPIでも観察される通り、足下のインフレは財が低下、サービスが上昇という局面であるが、これまで述べた通り、こうした動きは構造要因によるもので景気の強さや弱さとはあまり関係がないのではなかろうか。景気(=雇用)が強くともインフレは財主導で下がる、という展開が来年前半に鮮明になるとみられる。

年前半が買い場、秋に分水嶺に

その後、年後半はサービス主導でのインフレ鈍化にバトンタッチされることにより、インフレは23年を通じて減速基調が続くことがメインシナリオである。2022年は上下ともにボラが激しい中で株は下がったが、2023年は再度激しいボラが訪れつつも方向は上と見る。なお、以前作成したモデルによると短期的なトレンドについては下向きに変わってしまっている(下図)。変数の一つである金利が徐々に上がっているのが原因であるが、世界的に年末年始の休暇を過ぎれば機関投資家による債券買いにより金利は低下、株価は反転上昇すると予想する。

リスクシナリオは、来年後半も家計資産という最大の血栓が溶けきれず残ったままになることである。FRBは、より強い薬を使うかどうかの判断を迫られるかもしれない。22年秋にはインフレ「上昇」のピークアウトに焦点が当たりFED pivotがトレンドを作った。23年秋にはインフレ「鈍化」のピークアウトが話題となりFRBは政策金利の高め誘導を続けざるを得ない(≒利下げしない)と判断するリスクがある。23年は年前半にかけて相場は上昇、秋にかけて雇用と賃金の血栓が無くなっているかどうかが相場の分水嶺になると予想する。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を勧めるものではありません。

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