見出し画像

株式市場は夏枯れを経て再加速しよう

投資家不在の株高

激動の5月末~6月初が終わった。G7会合前後から上昇局面に入った日本株はセルインメイのジンクスを破壊し年金のリバランス売りも乗り越え、バブル後最高値を更新している。米国ではAI関連株も急上昇するなど、意外な株高が続いている。

中国減速の真犯人

経済指標を振り返ると、まず火曜日の中国PMI悪化を起点に市場に波紋が広がった。5月製造業PMIは予想外かつ2ヵ月連続の50割れとなり、中国製造業にここにきて急ブレーキがかかっていることが明らかとなった(図表)。過去を振り返ってもこの急低下ぶりは尋常ではない。

とはいえPMIの悪化で中国景気、特に需要の悪化まで読み取るのはやや行き過ぎとみる。リオープンを期待された家計消費は確かに米国対比で強くはないが、下方屈折しているわけでもない(図表)。EVなどは値下げによる在庫一掃セールで販売台数は確保されており、そうした値下げがデフレ圧力となり金額ベースが物足りなく見えているとみられる。実質ベース、数量ベースならばそこまで悪化しているわけではないだろう。

消費がそこそこな一方で製造業がクラッシュしている背景には、企業と家計の間に過剰在庫が横たわり、需要から供給への伝達が阻害されていることがあるとみられる。上述した製造業PMIの受注指数と在庫指数は緩やかに逆行する関係が窺える(図表)。在庫が溜まったら受注が減り、在庫が減ったら受注が増えるという関係だが、足元は在庫(青線)が2011年以来の高水準にあり、在庫過剰感は相当に強いとみられる。2011年当時はリーマン・ショック後の「4兆元の景気対策」の後始末で苦しんでいた時期であり、当時も中国景気の減速が話題となった。

特に在庫が溜まっているのが電気機器やPC・通信機器である。中国のGDPや雇用の多くを生み出す産業であることから、この分野での過剰在庫が中国景気、特に製造業の足かせになっていると考えられる。

半導体サイクルが示すモノ

過剰在庫問題は中国と取引をする海外企業からも中国悲観論が聞こえる一因となっている。この傾向が顕著なのが半導体で、2019年から21年までの2年間で中国の半導体輸入は2倍に増加したものの、その後2年間で半減し元の水準に戻るなど、「全て無かったことになった」状態である。

一方で半導体株(米SOX指数)はNVDAを筆頭に急上昇している。背景にはAI特需があると言われるが、半導体株は現実の需給に先行して動く性質があり、過去10年の電気機器在庫とSOX指数の比較からは、半導体株がいつ上昇してもおかしくない位置にいたことが窺える(図表)。このまま半導体株が上昇するかは不可知であるものの、少なくとも市場は23年秋に中国の電気機器在庫が反転増加する展開を見込んでいると言えそうだ。

中国→台湾→米国への波及パス

中国で半導体需要が高まることは、台湾や韓国からの輸入増加を招く。台湾輸出受注米ISM製造業に強く連動する性質があり、中国発のハイテク・サイクルが台湾を介して米国と密接に結びついている様子が浮かぶ(図表)。5月の米ISM製造業は46.9と前月から横ばいと言ってもよい水準に収まった。台湾の輸出受注も底入れのような動きを見せており、今後秋にかけてSOX指数の織り込みに沿って回復していくと予想する。ISM製造業が反転を始めればリセッションで株安を煽る筋は一掃されるだろう。

伏兵として働いた雇用統計

「リセッションがない(=景気が良い)ならばインフレで利上げで株下落」というhigher for longerの言説もあるが、週末に発表された雇用統計は雇用者数が上振れ、賃金が下振れというこれまた株式市場にとり100点満点の結果となった。雇用者数の上振れはJOLTS求人の上振れ、さらにその先触れであるindeed求人から想像することはできたが、賃金の下振れは望外と言える(図表)。

賃金の下振れは労働参加率上昇がようやく効いてきた可能性があるだろう(図表)。財政出動→コロナバブル→FIRE→人出不足という自縄自縛に陥った米国経済は、ようやく元の姿を取り戻し始めた。メキシコからの合法・不法移民の復活も労働需給の緩和に効いていよう。新型コロナ発の供給制約はモノに目が行きがちだが、ヒトの供給制約もようやく解消しつつある。

夏枯れはリスクだが秋から再加速へ

以上、各種指標を確認すると、多くの指標が株高にGOサインを出しているように見える。景気は良くなる目途が立ち、インフレも収まる目途が立った。弱めの中国景気と強めの米国景気という奇跡のコラボがゴルディロックスを生み、市場もそのことに気づき始めたようだ。今後は引き続き米国でたまに潰れる銀行をケアすればよく、結局大銀行や財務省が対応するならば騒ぐだけ損ですらある。日本株については急激に上がった後の速度調整、投資テーマが移る際のピットフォールに陥る可能性などから夏枯れのリスクはあるものの、秋以降は米中景気の回復を受けて再度上昇に向かうと予想する。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨するものではありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?