まだ泣きたくなる日がある/花曇り のち、花散らし
働きはじめて2週目の土曜日
春らしい曇り空の
少しまだ肌寒い日
花屋にはバラや矢車草、スカビオサなど
春から初夏にかけての花が並んだ
「どう?少し慣れた?」
店の外の植物に水やりをしていた私の背に、ぽんと手を添えて声をかけてくれた優しい手優しい話し方 結子ちゃん
結子ちゃんは、長く花のレッスンでの時間を過ごしている仲間でもあり、貴重な花友。もっともプライベートでも仲良くしている人だ
お互い、ひとりで花を習い始め、歳も近くお互いのんびり屋のマイペース同士波長があう
大人になってからできた大切な友人だ
「ようちゃんに私へのご褒美ブーケを作って欲しくてお願いに来たんだよ」
花屋で勤めていると、彼女や奥さんへの花束の依頼は多いが、自分へのご褒美にの花束の依頼も時折ある
初対面のお客様に私のイメージで作ってください。と言われることも
束ね終えてとても喜んでもらえる瞬間はこちらまで幸せを贈ってもらえる
結子ちゃんは、ちょっと珍しい花も好きだけどかわいい花が好きなのを知っていたので、大人かわいいイメージでブーケを束ねた
「ようちゃんは、がんばりすぎちゃうから。無理しないでね。ダメと思ったら逃げていいんだからね。」
花屋で勤めると決めてから何度となく彼女から言われた言葉だ。
彼女自身、大病をして復帰したと思ったらパワハラにあい、適応障害と診断を受け、休職中だ。まじめに働き無理してしまう私たち。
発言が厳しい社長のもとで働くストレスをよくわかっていたからこそ、何度も無理しないで。と声をかけられた
束ねたブーケを結子ちゃんはとても喜んで、何度も写真を撮って私のもとに送ってくれた
幸せな思い出のひとつ
配達へ行く
ヘルプで入っていた時は配達に出たことはなかった
勤めはじめて、配達の説明をされ、最初からひとりでアレンジメント、生花、スタンド生花、観葉植物の配達を任された
配達で一番困ったのは駐車問題だった
道がわからない時は、ありとあらゆる地図アプリを活用し、どうしてもの時は道ゆく人に助けを求めた
旅は人情 世は情け
負けへんで!
頭の中にあったのはその2つの言葉
「これ、置いてきて。一通で狭くて路駐ダメなところだからさっと置いて来てね」
そう言われて託されたのは2段のスタンド生花
スタンド生花とは、よくお店の開店祝いなどで置いてある大きな花である
今回は、ガールズバーのキャストの誕生祝い
場所は2階入り口に設置
スタンド生花2段は1段目の花と2段目の花、スタンドの台、お祝いの札があり、最低でも3回は運ぶことになる
一方通行、狭い、2台は通れない、基本長く停めるの禁止の場所に車を停めて、2階まで3往復してスタンド生花を設置して写真を撮る
というノルマをサッとやる
やるしかない
40過ぎの転職してきた私、負けへんで!
と思いながらなんとか路駐し、駆け足で階段を上り、下り、息を切らしながらスタンド生花を設置
他の配達も終え、意気揚々と帰った私を待っていたのは
「遅い。時間かかりすぎ」の一言だった
路上駐車をしたことがなかった
運送会社の配送トラックを見かけるたび、路駐の仕方、動きをみては尊敬と、今までにない感謝の気持ちでいっぱいになる
少しでも見て学ぼうと停車している場所を注視した
でも全然できないのである
出来ない というか怖い
駐車ができないわけではない
本当に停めていていいのか
捕まらないか
止めている間に何か起きないか
車や、中のアレンジは盗まれないか
また、遅い と言われないか
ただひたすら、いろんなことが不安なのである
不安障害
今思うと、私は慣れない仕事、新しい職場、思うように仕事が出来ない自分に対して少しずつ自分を追い詰め、うまく適応出来ていなかった。そして、ゆるく時間をかけてこころの変調をきたしていった
つまづいてしまう小石は、思わぬところに落ちているのだと知った
つづく
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?