木挽町のあだ討ちはココアの味がした


時代劇小説を読むことは少ないけど、ミステリー要素を感じるあらすじと、表紙に描かれた椿の花に惹かれて読んでみた。
椿は 花の形そのままにポトリと地面に落ちることから生首が落ちる様子に見立てられて、侍が不吉だと忌み嫌う花だったらしい。
平家物語の冒頭で有名な盛者必衰という言葉が浮かんだ。

手前ども役者は、河原乞食だの人外だのと言われ……その一方で、ご贔屓下さる皆々様からは、神仏の如く崇められ、手前で手前が何者かのか分からなくなっちまう時があります。だからこそ、肚を据えてかからねえと、あっという間に世間の声に振り回されて堕ちちまう。

木挽町のあだ討ち

「あだ討ち」は、なんというか 草食動物が肉食動物に立ち向かっていくような危うさがある。
それをする側とされる側には圧倒的な力の差があるような感じがするし、
すると決めた側の俗世を離れた生き方がそれを助長させていると思う。

引用したのは、木挽町にあだ討ちを成し遂げにきた菊之助にとって、
「森田座」が居場所になったことが 偶然 じゃないことが分かるから。

だって、たった一度の気のゆるみが命取りで、
賞賛と誹謗中傷が紙一重だと分かっているからこそ、
フラジャイルな存在から流れる モスキート音よりもうんと高くて細くて繊細な音を聞き分けられるもの。

物語を飲み物に見立てると、
喉元が一気に火照るテキーラと思っていたけど、
すべてを語るのは野暮だといった「森田座」の人々を通して、
食道から胃にじわじわと流れていく温かなココアを飲んでいるようだった。

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