星と鳥と風~32 意思との遭遇

私は来た道を
悦びに満ちた心で歩いた
(水晶は一つも手にしていないが)

自分でした事と言えば
地層の文献を読み漁った事と
車を2時間以上走らせた事
急な崖をよじ登った事
くらいなもので

大した知識もない中で
1日目にしてすぐに
その場所に辿り着いた奇跡は
実は
奇跡ではなく
質然だったのだと思える。

風の案内が入る辺りも
私にとって
とても
重要な事だったのだろう。

*当たり前でしょ*

人里離れた山奥で
出逢えた喜びにも感謝して
身も心も
軽くなった私は
満足と安堵からか
お腹が空いてきた。

【時間は12:00をとっくに回っていた】

私は
キャンプ用の椅子とテーブルを
林道脇の木陰に広げて
家から作って持ってきたお弁当を
素晴らしい景色を眺めながら
いただいた。

辺りは沢から流れる水の音と
鳥の声
風が揺らす木々の葉の音だけで
私は疲れた耳までも癒された

【それにしても自然の中で食べる食べ物は
どうしてこんなに美味しいんだろう?】

この小説を読んで下さっている
皆様はご存知だと思うが
私の祖父は
何か特別な日には
必ず祖母にお弁当を作ってもらっていた。
(私は自分で作るが)
その気持ちがなんとなく分かる気がする
ここに来るまでにも、幾度となく
美味しい食べ物屋の誘惑があった。
だが、大事な人や
自分が、自分自身の為に用意したものは
出来合いのものでは感じれない
何か特別な
【魔法】

かかっている。

【祖父もこんな気持ちだったのかな?】
と、思い耽りながら頂くと
米粒一つ一つまで有り難く感じれて
生きている純粋なエネルギーで満ち満ちた。

そして
同時に祖父の言葉も思い出した

*山には山の神様がいる 
海には海の神様がいてな
いつも人間は試されているんだ
こんな山奥に来ると
誰にも何にも見られてない気になって
ゴミを捨てたり、魚を乱獲したり
勝手気ままに横着するやつらがいるが
まぁ、それが神様に暴かれた本当の自分の姿って所だ*
【星と鳥と風~14話、釣り先生より抜粋】

祖父の教えが蘇った後
私は先程挨拶した山神様が気になった。
そういえば、ゴミを拾ったり、お供物もしたが、それは軽くで
辺りはまだまだゴミが散乱していたな。
それに、倒れていた夫婦の神さんの、女性の方の像は
触っていいものかどうか。
少しの間、迷ったが

あんなに素晴らしい
【自然の神秘】
を見せていただいたお礼に
私は片付けをする事にした。

結局、ゴミは、5リットルの袋
3袋分あった。
そして

【失礼します】

と言って、像を立て直した。
真っ直ぐに立たせたかったが
中々そうはいかず
お互いが寄り添うように並んだ。
それはそれで
微笑ましかったので
私はそのままにした。

それから祀り物の陶器を持って
沢におり
綺麗に洗って、私は再度
盃に酒を注いだ。

*今日は暫くぶりの夫婦でのお酒を楽しんで下さい*

像は満面の笑みを浮かべているようだった
それは私の気のせいかもしれないが
2人は長年連れ添った、とても素敵な老夫婦にも見えた。


【未来で私もこうして、隣で笑い合えるだれかがいるのだろうか?】


ふと、そんな事を想っていたその時
像の前に、太陽に照らされた七色の光
が見えた。

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