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【読書感想文】女系を重ねる事ってだめなのか?⭐︎山崎豊子「女系家族」を読んだ

ネタバレありです!


登場人物がそれぞれに美しく魅力的で
心理描写も緻密なので、
読みごたえがすごい。
あれ?この人は誰の何だっけ?
とならない。山崎豊子氏の作品は毎回そう。
ストーリーが面白くて、一度読んだら、
やめられない止まらない状態になる。

昭和33年、
大阪船場の老舗木綿問屋である矢島商店の、
大番頭の宇市は、
三姉妹の父である嘉蔵の信頼する人物なのかと思いきや、
かなりの横領をしていた狡猾な七十二才だった。
男性七十二才って、この時代だとあと余命せいぜい五〜十年あるかないかじゃないか?
何にお金を使いたいのか?
という疑問が途中で湧く。

読み進めるにつれ、
使いたいから欲しいのではなく、
幼少の頃から理不尽な思いを飲み込まされた恨みだ、と知る。
彼は頭がいいから大番頭にまでなれたんだろうが、
この知力を使う場は、そこじゃないんじゃないか?と思った、が

もしかしたら、
その大金を、丁稚奉公しなきゃいけない子どもたちへ寄付する、
というサイドストーリーが
あるかもしれない笑

単行本は1963年刊行。
バブル世代が生まれたくらいの年、
と言ってもだいぶ前でピンとこない高校生の方が多いだろうので、
歴史小説の部類にわたしは入れてしまう。

小説の力を思い知るのは、
社会の教科書に載せられない史実を描いてくれている事。
今回も色々な知識が得られた。

個人的には、相続財産の一つである山林
を巡る部分が興味深かった。
山守の存在や、木肌に持ち山の印として日付が焼き込まれていたり誤魔化されていたり、
その世界の暗黙のルールがあったのねと知る。


登場人物(書名の通り女性が多い)の服装は
ほとんど和装と少し洋装。
今で言う大手呉服問屋である木綿問屋の話なので、とにかく衣装が豪華だった。

レビュー等を見ると、ドロドロ過ぎて読み進められなかったという感想も多く見られたが、
感性の違いか?
するっと読めた。
長女の藤代は確かに酷い事をやるし言うが、
思った事は上品な言葉遣いではっきり言うし、
嘘は下手ですぐ白状しちゃうし、
芳三郎との情事におちちゃうし、
わかりやすい美女だと思った。

二女と三女もそれぞれ全然違う性格で、
表情とか身のこなしとか、めっちゃ想像した。

一点だけ、文乃(嘉蔵の妾)の産科検診のシーンは、
和服というのもあり、生々しく激し過ぎて、
女性読者であれば、読みやすいとは言えないものではあった。
それもこれも氏の筆力の成せる技だろうが。

ここでいったん、
昭和33年頃とは、
戦後、所得倍増計画などを背景として、
急激な都市開発が行われるようになったりした時代となる。こういう書籍を読むと、
昭和って長いー。色んな事ありすぎたー。と
思わさせられる。

結末は、残り60ページくらいで怒涛の大逆転。
文乃が、嘲りと辱めを、なんとかかんとか賢く耐えて報われ得な相続をする。だけでも一読者としては十分だったが、それだけにとどまらず、
「男児出生だった場合、成人に達するを待って、矢島家の暖簾を千寿夫婦と共に継ぎ、共同経営を致すべく候」
「藤代は別居して一戸を構え、雛子は他家へ嫁くべく、(中略)この上さらに女系を重ねることは矢島家と雛子自身のために固く戒め申し候」
までいった。

叔母は終始一貫、感じが悪い(ヒールとして置かれている)し、
養子婿が使用人のような物言いをされても忍耐が当たり前、のような場面もあったが、
女系を重ねることってだめなのか?
というのが令和の今の自分が思う事。
男性に虐げられる女性が多い中、その逆があったっていいじゃん。
忍耐した女性の気持ちが少しはわかるんじゃないか?と思ったが、
そうか、令和は、女性も男性も忍耐しない時代をつくろうとしているのだ!

氏の描くエロチシズムってすごいなって思う事がたまにある。
好きだ愛しているのメイクラブのノーマルなもの(ノーマルももちろんいいんだが)ではない世界を、
理知的な文体で書き切る。

女の生理をあらわにし、体をよじって苦闘した文乃の肢体を思い出すと、捻挫した足首の痛みと体を襲って来るぬめるような欲情の交錯に、羞恥もなく、嗜虐を娯しむように情事の深みに陥んで行く自分を覚えた。

「女系家族 下」

上記は藤代と芳三郎(踊りの若師匠)の密会の場面だ。
もちろん、藤代の心情も途中から好意以上のものへ変化していったとは思うが。

京都女子大学卒の才女である筆者が、
熟考して書いていたのか、
さらっと書いていたのかは不明だが、
氏の持っている技の一つだろう。
超頭いい人って、どういう思考回路でこういうのが書けるのか興味がある。

氏は、入念に取材して描く社会派の長編小説家だが、
取材能力が高いだけではない。
だからこそ読者が離れない。。

ほんと、楽しすぎた。
読み終わりたくなかった!


最後に、山崎豊子氏の作品とは、
映画化およびドラマ化された回数が桁外れである。(途中、URLを三つ貼りましたが、noteの規則に則ってない場合、教えていただければ幸いです。)
この作品もまた例外ではなく、
個人的には、2021年のドラマ(キャスト役所広司、宮沢りえ、水川あさみetc)が観たい!



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