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真の師弟は闇の中で ~武葉 コウ『スパイ≒アカデミー』を読んで~

 つい先日まで『このライトノベルがすごい! 2024』に向けての読書集中期間に入っていたためこちらの方を一時停止してしまって申し訳ございませんでした。でもその分得られたものも多くありました。今回はこの期間中に読んだ一冊を取り上げようと思います。この作品に関しては実のところ前々から気になっていたのですが恥ずかしながら読めておらず……。今回の投票を機会に真っ先に読ませていただきました。改めまして今回取り上げさせていただくタイトルは『スパイ≒アカデミー』、先日新たに姿を現した新進気鋭のスパイものです!

あらすじ

 伝説的なスパイ〈蜃気楼〉の終焉は裏切りによる任務失敗だった。残されたのは落ちこぼれの仲間の少女達。彼女らは敵国のスパイ養成機関の潜入という捨て駒同然の任務に送り込まれた。

 それから2年後、死んだと思われていた〈蜃気楼〉が再び目を覚ます。伝説から切り離された彼は偽の経歴と共に現在状況不明の少女達が送り込まれた学園に1人足を踏み入れる、彼女らの救出のために。

 そこで〈蜃気楼〉、もといエドガー・フランクが目にしたのは共学のはずなのに女子しかいない学園、そしてそこに君臨するかつての仲間だった。

詳細と注目ポイント

『≒』について妄想する

 本紹介と言っておきながらいきなり蛇足的な小見出しでごめんなさい。読んでてあまりにもピンときてしまいまして。これだけはどうしても書かなければと焦燥に駆られてしまいました。

 まず私が気になったのはタイトルの『≒』でした。まだ読む前は区切らなくても問題ないし、区切るとしても・で十分。西洋の名前は・の他に=を使うことがあったりするけど、このタイトルもそういった理由があるのだろうか? でも=じゃなくて≒なんだよなぁ……ただのおしゃれ? と考えてました。

 実際に読んでみると、養成機関=学園が舞台になっていますが実際は敵国への潜入任務。勿論バレれば終わり。その学園も専門分野で学科が分かれており、その分け方もスパイらしいそれなのですが、学科同士が競争しあう殺伐とした雰囲気が漂っています。

 状況からしても、学園の方針としても本来の学園ものとは違う様相を見せるこの作品。そういう要素を暗示させるための『≒』なのではないのか。そういう考えが浮かびました。

「スパイといえば」が目白押し⁈

 先ほどの項目でも少し触れたのですが、本作は学園ものであってもただの学園ものに非ず。更にタイトルとジャンルに偽りのないスパイものです。

 前項でも触れた学科の内訳は変装・尋問・潜入・戦闘・狙撃・電子支援・装備開発と、スパイらしいものが見事に分類されています。各学科の得意分野を駆使した駆け引きは必見です。

 また、学科以外にも注目です。本作では学園外を巻き込む出来事もあり、そこに仕組まれた騙し合い等々、学園内での戦いとは一味違った技術の応報が盛りだくさんです。当然ながら騙し合いもありますよ。ネタバレになるので具体的なことはこれ以上言えませんが……。

新たに築く関係性

 個人的に1番印象に残った要素はこれです。新たな関係性。すでに構築しきった関係性。関係性にも色々あるけどこのタイプはあまり見なかったなぁ。どちらも潜入任務という形をとっている為、お互いに正体が明かせない状況になるのです。だから、構築しきった関係との上にまた別の関係性が生まれるという奇妙な状況になっているのです。

 とはいっても全くのゼロかと言われるとそうではないのがまた面白い所。お互いがお互いの事を大切に思っているため、過去の思い出がかたられることもしばしばあり、そこから過去の関係性を読み取ることができます。他人として接しているからこそできる会話もあって、この奇妙な関係性を存分に使いこなしているなぁと感じました。これ関係性はスパイだからこそできるため、他では中々見ないであろう独創性があるのも考えられてるなぁと思いました。

さいごに

 ハラハラドキドキの任務とそれを彩るかけがえのない人間関係。それがたとえ過ぎ去ったものであったとしてもその鮮やかさは現在のそれと遜色なし。記録は闇に塗れても尚輝く人々の素晴らしさが読んでいてとても気に入りました。物語後半に触れることになるためあまり詳しいことは語れないのですが敵のコンセプトがこれまた興味深いもので……。スパイの闇というか主人公の立ち位置に関わってくるような行動理念でテンションが上がりました。色んなキャラの活躍とか本心とか気になるので出ませんかね、続編……。

 スパイものとしても十二分に楽しめる、その上スパイだからできるあれこれをふんだんに盛り込んだ、スパイという立場を考え通さないとできない芸当なのでは? と思ってしまう程です。ストーリーも丁寧に作られていて読みやすいのも注目です。気になる方は是非手に取ってみて下さい。

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