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歪んだ運命に抗って ~那西 崇那『蒼剣の歪み絶ち』を読んで~
近年はライトノベルのジャンルも随分多様化したようにも思える。単純にライトノベルを取り扱う出版社やレーベルが増えただけかもしれないが。色んな物語が開拓され受け入れられていることには、普段から自由に歩き回る質の私にとっては嬉しいことこの上ない。そのせいで書籍購入の費用が嵩んでいることには目を瞑るとしよう。
そんな多様性の土壌が拡大される中で出会った『蒼剣の歪み絶ち』はよくぞ世に出してくれた! と感嘆する他ない。大まかなジャンルで分けるとファンタジーやアクションといった王道なものに分類できるだろう。だがそれに収まらない面白さを秘めた1作でもあるのだ。
あらすじ
この世界は完璧ではない、歪みが存在している。そんな歪みを秘めた存在歪理物は世界を破滅させることもあるという。これは、時に規則性が無く、時に破壊不可能体である歪理物を対処する特殊部隊に所属する少年、伽羅森迅と少女、アーカイブ。彼らもまた歪理物に歪められた過去を持っていた。
かつて事件の最中、呪われた剣に「生きたい」と願った迅。その果てに出会った少女。その少女を助ける手掛かりになるかもしれない歪理物が発見される。迅はかねてからの悲願への1歩を踏み出そうとしていた────その先にある運命が相棒の消去であっても。
詳細と注目ポイント
伝奇風味系アクション! (※個人の感想です)
最初の印象はバトル要素ありの現代ファンタジー。だが読んでみると伝奇ものジャンルを彷彿とさせる部分もあった。これに関してはあくまでも私の主観以上のものはないので信じ込まないで欲しい。かくいう私も伝奇ものの定義を調べて、代表作の一例に目を通しても未だにハッキリと理解しきれてない。伝奇ものとは実在する伝説・伝承上の存在と人間との交流を描いた作品群の総称らしいのだが、『蒼剣の歪み絶ち』では実在の伝承の要素はそこまで見受けられない。(迅の持つ剣が神話由来であったりと例外はある)
それでもどうしてそのように感じてしまったのか。やはり歪理物の影響なのだろう。とにかく滅茶苦茶で何が起こるか分からない。被害も大きければそのための避難も大規模だ。そういった被害の大きさからくる恐怖心が私が今まで読んできた伝奇ものの空気感と繋がったのかもしれない。あとネーミングもシンプルでカッコいいのでまだ読んでない方は楽しみの1つにしてほしい。
イメージが捗るアクションパート
この物語についてはアクションパートについてもじっくり語りたくなってしまう。独特な戦闘スタイルの担い手が多いのにも関わらず、イメージがしやすいのだ。例えばアーカイブの綾とりを用いた歪理術(※理の歪みを用いた技術。超能力のようなもの)なんかはその極地といっても過言ではない。普通綾とりを使って戦闘するか! と突っ込みを入れたくなるがそのカッコよさと汎用性の高さの前にはあっさりと受け入れざるを得なかった。余談だが、戦闘以外でのアーカイブの綾とり芸も実に多種多様だった。メディアミックス時にどのように表現されるか今から待ち遠しい。
その他にも歪理物を用いた戦闘も多数あったりする。前者含めて予想もつかない現象が飛び交うが、分かりやすく描写されていることもあって、バトルシーンのイメージはかなりしやすい方だ。戦闘シーンでは他にも心理描写や駆け引きなど様々な要素が絡み合うが、骨子のギミックとその描写だけで理解しきった状態でワクワクしたのがとても印象に残っている。
じっくり深めたキャラクター性
凄いのはバトルだけではない。ライトノベルとして標準的な範囲に収まる文章量の中には、アクションシーンに加えて過去回想や様々なキャラにスポットを当てた閑話が複数回挿入されている。1パート数ページでなはく、その全てが10ページを超えている。本編とは切り離されながらも重要な役割を担う閑話でじっくりと書かれる登場人物のパーソナリティや展開が辛すぎる。なんだかんだで全員気に入ってしまいそうになった。
もちろん輝いているのはサブキャラクターだけではない。主軸となる迅とアーカイブの何とも言えない関係性の辛さ。これを「運命に縛られている」といわずして何という。それでも、悲劇が起こった先に進もうとする姿がなお美しい。個人的にはそんな重要な過去が判明する閑話3が好みだ。序盤からの匂わせが一気に回収される爽快感とストーリー進行の総悲観の組み合わせが奇跡の味わいを出している。
さいごに
最初は連作短編形式のようにも思えたが、1つの大きなストーリーにまとまっているところも非常に好感触だ。素直に続きを羨望するのも良いが、メディアミックスや「間の物語」といった世界観の拡張も楽しみにしたくなる1作だった。実はネタバレを恐れてPVを1本も見れてなかったのでこれから見て少し余韻に浸る予定だ。(余談だが本作は本編のネタバレを含んだPVがあるらしい)
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