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無限の可能性が今、1つに⁈ ~眞田 天佑『多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉』を読んで~

 もしもここでこの選択をしていたら……という想像をしたことは誰かしらある事だろう。それは決して3次元に住む我々だけの特権ではない。門が足りの中には、IFもしもをテーマにした作品がある事だろう。

 そうしたジャンルの1つ、並行世界というのを新たな観点で書かれた作品が今回紹介する『多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉』となる。実はこの作品、発売直後に買うかどうか悩んで結局買わなかったのだが、SNSのフォロワーの方にオススメいただいき、つい最近購入したのだ。マジで発売日に買っておけばよかったと思っている。

 尚、今回の紹介に関して断りを入れておく。本作は『多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉』と『多元宇宙的青春の破れ、無二の君が待つ未来』の2冊がある。『無二の君が待つ未来』が『唯一の君がいる扉』の結末を前提とした続編となる。その為、今回は『唯一の君がいる扉』のみの内容に触れることにする。しかし、『無二の君が待つ未来』も面白いので興味をお持ちいただけたのなら一緒に手に取っていただきたい。


あらすじ

 ある時は国民的アイドルの幼馴染友永朝美ともながあさみと付き合って、ある時は義妹樹里じゅりのいる過程で生活、ある時はミステリアスな生徒会長南陽菜乃みなみひなのに振り回される。しかし、これらは全て、同じ世界で起きている出来事ではない。それが、ある事故をきっかけに無数の並行世界に渡れるようになった高校生湯上秀渡ゆがみひでとの日常だった。彼は面白そうな青春のある世界を練り歩く日々を送っていた。

 ある時奇妙なことが起こる。それぞれの人間の記憶が食い違う──しかし秀渡にとってはどれも覚えのある、でも矛盾する──現象が全国規模で発生。更に秀渡が観測できる世界が1つになってしまったのだ。当然のことながら秀渡もそれぞれの世界の記憶を持つ少女達に振り回される。パニックの最中、彼は技術の進んだ世界からのエージェントに接触する。そのエージェント曰く、この並行世界のトラブルの鍵は並行世界に関する力を無意識に手にした秀渡だそうで?

詳細と注目ポイント

並行世界を行ったり来たり

 まずはこの作品でのとても自由な並行世界についてからだ。いくつもの並行世界が存在している。それは些細な違いから発生する分岐だったり、根本的な歴史の出来事が食い違っていたり。前者の例えで行くと、本作のヒロインである朝美。彼女がアイドルになる世界もあればそうはならなかった世界があり、秀渡と付き合っている世界もあれば告白を断った世界も存在する。そういった具合だ。

 あらすじにもあった3人の少女と秀渡の関係はそれぞれ別の世界での関係性。いわば分岐が発生する複数ヒロイン有りのゲームで本来1つしか選べない各ヒロインの個別ルートを同時にプレイしているようなものだ(多分)。しかもバットエンドに踏み込みそうになったら正解を選んだ世界に移動すればいい。人生でも選択肢ミスりがちな私としては何とも羨ましい力だ。

 この物語はそんな何でもありで数えきれない並行世界を股にかけて繰り広げられる。

パニック路線? それともサスペンス路線?

 こんな風に数えきれないほどの並行世界が急に1つになったのだからもう大変ったらありゃしない。しかも持っている記憶はそれぞれ別の世界線。しかも日常からテレビの中まで全世界で起きている。これをパニックと呼ばず何と呼ぶ。所属や住んでる場所がそれぞれの主張と矛盾する。それが世界規模で起きているのだからさもありなん。勿論秀渡の周囲も大変だ。なにせヒロイン達はピンポイントで秀渡と親しい世界線の記憶を持っているのだから!

 とまあ前半はこうしたごちゃまぜのパニックが主となってくるのだが、後半からはどうしてこの事件が起きたのか。どうすれば収束できるのかを突き詰める展開に一転する。雰囲気はガラリと変わるがどちらも楽しめる1度で2度美味しい構成となっている。また、複数の世界が交わることによって未知の世界の意外な一面を知れたりするとこにも注目していただきたい。

これは紛れもなくSF(サイエンス・フィクション)

 創作の王道ジャンルとしてSFというものがあるが実の所、私はSFの定義が良く分かってないのである。事実でも嘘でも論理っぽいものを設定に組み込めたらそうなるのだろうか……と日々考えたりする。

 そういう悩みがあるが、本作はSFと断言できる数少ない例だ。何故なら公式でSFって言ってるからだ!

 という冗談はさて置いて、本作は科学技術が発達した並行世界が登場することもあって高度な理論が展開される。そう、とてもガチなやつなのだ。

 あと作風として個人的に伏線の貼り方が好みだったりする。読んだ所感だと少々特殊に感じたが、むしろ未知の技術を紐解いているという雰囲気が出ていてSFというジャンルにマッチしていたように思う。

さいごに

 様々なもしもが混ざり合うというとんでもない状況。それでいて無数の並行世界が出てくるが、そのどれもが無駄になる事が無い構成。読みやすさと最後の結末もあって1本の映画を視聴したかの様な読後感を得られた1作出会った。

 こういった事件があったらどうする? といったもしものシュミレーションから真相まで、全てが詰まっていて満足感もある。実はここで別の選択肢を選んでいたら? ということを現実でも考えたくなってしまった。

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