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撃ち抜け、私達の夢! ~Chinozo原作・監修/三月 みどり著『ショットガン・ナウル』を読んで~

 いつからか私は巻数にこだわるようになったのだろう? 先日友人から勧められた本のシリーズが行きつけの書店に1冊しかなく、残りの巻を求めて周辺の書店をハシゴしていた時にふと考えた。よくよく考えてみると私がまだラノベ読みとなる前、図書室の児童文庫を読んでいたころは本に数字が付いていてもそれを無視して本を読むことができていたというのに。今となっては到底できそうにもない。

 そんな折に意図せず似たような状況に遭遇した。先日購入した『ショットガン・ナウル』はどうやら巻数もそれなりに重なってきているシリーズの最新刊だった……らしい。どうして歯切れの悪い言い方になってるかって? この作品が今までの作品のファンに向けたサービス要素はあれど、前の本を読むのが必修という訳ではなかったからだ。寧ろ何も知らない状態で入っても全く問題なかった。本来ならばシリーズ物は本編最新刊まで読んでから紹介文を書くというルールなのだが、サブタイトルにもシリーズ物である事を主張する文言も無かったため、今回は『ショットガン・ナウル』のみの紹介を行う。それほどまでに"良い"話だったのだ。


あらすじ

 ハリウッド女優になる夢を叶えるチャンスを掴んだ七瀬ななせレナは単身でアメリカに向かった。そこでレナが出会ったのは、同じくハリウッドの脚本家を目指すルームメイトのエヴァ・スミスと人気ハリウッド女優のヴィクトリア・ミラー。レナは2人の交流とアメリカでの生活の中で夢を叶える為に必要な物について考えることとなる。

詳細と注目ポイント

時代はおっきくグローバル⁈

 もっと昔、何十年も前ならば日本人がハリウッド女優なんて夢のまた夢だったかもしれない。(実際の所はどうなのかは不明だが)私が初めてこの本に触れた時、さっきのような浮足立った感触がした。でもレナはそれを目指してアメリカに来た。決して衝動的なものではなく、然るべき手順を踏んで。

 確かに現代では学生の年代の子供が留学するのは別に不思議なことでは無い。日本の大学でも海外からの留学生はいたりするし。条件は複数あれど、今や留学は誰もができる環境となっている。

 そんな風に現実的になってきた若者の海外渡航とハリウッドという未だに大きな壁の2つのテーマが架空の要素を出さずに現実の延長線上感を出しているのかもしれない。

 あと個人的な話、海外でも問題なく生活できているレナの語学力が凄すぎて羨ましい。

時間経過と情熱

 個人的に読んでいて引っかかったのは作中における時間の流れ方についてだ。体感だが、とにかく速いような気がした。回想で過去に飛ぶことはよくある事だがそうではない。本編で流れている時間が速いのだ。単巻で年単位で時間が経過する作品はライトノベル内だと珍しい気がする。でも、他の作品と同じような時間しか経過していないような錯覚に何度か陥った。なぜだろうか。

 物語を辿っていくと1つの結論らしきものに辿り着くことができた。通常は風景の変化や行事といった季節や時報的なものを感じさせられる変化が乏しかったことだ。この要因は決して季節の変化に敏感な日本が舞台という訳ではない。アメリカだって季節の行事の派手さは半端じゃない。では何が時間を感じさせてないのか。それは、ハリウッドへの道を詰め込んでいるからだ。

 楽しい思い出があっという間に過ぎてしまうのと同じ原理で、季節なんて忘れてしまうような情熱があるから、時間が経過しているのではないのだろうか。一見違和感のある時間経過にもこういった仕掛けがあったかもしれない。あくまで私の考えでしかないが。

才能がある人は努力をするのか?

 この作品よ読んで最も印象に残ったのが「夢を叶えるのに必要なのは才能なのか。或いは努力なのか」という問いだ。かなり普遍的な話だ。だが、序盤の序盤から捻る事なく投げかけられて、物語の根幹として驚くほど真摯に、丁寧に取り扱われている。

 飛び抜けた才能がある。類い稀なる努力をしてきた。それだけでは越えられないのがハリウッドの壁だ。これは現実でも共通の認識だろう。ここで注目すべきは、レナが才能と努力、どちらも持ち得ていると明確にされている点だ。どっちもあるからこそ壁を乗り越えるのに必要な最後のプロセスの重要性が浮き彫りになっているのかもしれない。

 私は、このテーマを受けてこういった主題は世間で言われる「才能がある人だって努力している」「いや、努力しなくていいから才能があるんじゃないか」という堂々巡りの対立に対する1つの結論のようにも思えた。

さいごに

 正直なことを打ち明けると「ラノベだし……」とか「楽曲原案」ということから軽いノリで読むために購入した(あと買った当時の新刊だった)のは紛れもない事実。だが、ここまで丁寧で素敵な物語に出会えるとは思いもしなかった。読みやすい1人称視点だから小中学校の図書室に置いてあっても全然問題ないと思う。

 実はこの作品の影響で、過去のシリーズにも興味が湧いてつい最近全巻揃えた。短いながらも良い出会いができたのではないかなと考える今日この頃だった。

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