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疾風怒濤に駆け抜けろ! ~馳月 基矢『龍馬 THE SECOND』を読んで~

 反省します。本屋でこのタイトルを見た瞬間、「転生か⁈ 二週目ループか⁈」と気になって私にしては珍しく裏表紙のあらすじを確認しました。全然違いましたよ。何が起きてるんだと気を引いて仕方なかったですよ。こういった誰もが思いつきそうでそうで無さそうな塩梅のアイデアが突如として出てくるものだからライトノベルはやめられない。

 という訳で今回紹介するのは『龍馬 THE SECOND』となります。半年ぐらい前の私にこういうタイトルのラノベが出るよって言っても絶対に信じないだろうなと確信してしまうぐらいラノベでは中々見ないタイプのお話だった。折角なので振り返りながら紹介していこう。


あらすじ

 慶応3年11月15日。近江屋にて何者かが襲いにかかり坂本竜馬は短い生涯を終えるのだった。それはそこから少し先の物語。

 死んだ龍馬の魂は他と同じく〈かくり世〉へ誘われる……が志半ばだった彼はこのシステムに大反対。幼馴染にして黄泉地の案内人をしている友姫ともひめを困らせてしまう。

 そんな様子を知って入り込んできた天照大神アマテラスオオミカミ須佐之男命スサノオノミコト。特に後者は龍馬の事を大層気に入っており龍馬を生き返らせることに条件付きで了承する。それは用意した7つの戦いを乗り越える事。各々が未練を胸に、時を越えた戦いが始まるのだった────。

詳細と注目ポイント

ありそうでなかったタイプのバトルもの

 時々興味本位で歴史人物が出てくる本を読んだりする。ライトノベルでも多い訳でもないが全くないわけではない。だがこのタイプの筋立ては珍しいかもしれない。

 まずあらすじでも出てきた「7つの戦い」とは何なのかについて説明しておこう。とはいっても詳しくしすぎると長くなりそうな気がするのでその辺りは本編に委ねるとする。という訳で滅茶苦茶に大雑把に語ってしまうと「もう死んでしまった刀の使い手と勝負して7連続で勝て。そうすれば生き返れる」だろうか。

 その目新しさもあってかずっと「どうなるんだこれ……?」と先を知りたいという一心でページを捲り続けていたような気がする。それほどまでに未知の舞台設定だった。

 詳しくは後述に任せるが毎回変わる戦いの舞台、個性豊かな相手。思わぬサプライズを挟みながらもどのような決着がつくのか。ゴールは分かっているのにそこに行くまでの道先が未知数なのだ。

歴史ネタが横にも縦にも広い‼

 この作品読んでいてとにかく凄いとしか言い表せなかったことがある。そう、この作品歴史ネタの詰め込み具合が凄いのだ! 最早雑学本。

 「いやいや、一応? 時代劇なんだから当たり前でしょ。いくら何でも大げさすぎ」と思った方も大勢いるだろう。否、これはマジだ。ちょっと長めに書いていこう。

 見出しを見て「横はさておいておいて、縦ってどういうこと?」と疑問に思っただろう。これを書いた私もやや抽象的すぎたかと思ってる節がある。でもこの例えがぴったりなのだ。だって平安時代から幕末まで、広い時代を取り扱っているのだから。

 幾つか歴史ものの物語を齧ってる私でも半分ほどしかネタが分からなかったレベルだ。でも解説とかはしっかりあったので「そういう事があったのか⁈」と納得しながら読み進めることができた。敢えて事前知識を入れずに元から持ち合わせてるものだけで読んでいくのも1つの楽しみ方かもしれない。時には知識としては知ってても予想外の人物の登場が何度かあったりして目を見開いたこともあった。

 刀についても描写が沢山あったことにも注目したい。私がうっかり展開をネタバレしてしまうのを恐れすぎていることもあって言及が控えめなだけだが、帯やあらすじにこれが全面的に押し出されるのも納得なレベルの情報量。これだけ詰め込んだのは勿論どこで仕入れてきたのかも気になってしまう程。

 もちろん、主役となる龍馬の事も忘れてはいけない。隅々に挟まれた史実由来の小ネタは勿論、諸々の方針や考え方もそう来るよねと頷きとにやけが止まらない。

1冊でゴールまで突っ走っていくスタイル

 ここからはちょっとしたネタバレのような気もしなくも無いのだが最後にこれだけは言わせていただきたい。この作品、タイトルに巻数がついていたから長丁場のシリーズになりそうだと踏んでいたのだが、その考えが嘘だったかのようにまとまりがいいのだ。寧ろ続きがあったらどういう方針で舵を取っていくのかが気になってしょうがない。

 これについては読み手の好みの問題かもしれないが私個人としては密度の濃さもあってかなり満足した。それと同時にラストシーンは感慨深いものがあった。どのような終わり方だったかはその目で確かめて欲しい。

さいごに

 今までありそうでなかったスタイルに何が起きるか分からないドキドキ、全力で走りきった時の爽快感。映画を見たような感覚になる楽しい物語だった。最近あまり出会わなかった読後感だった。

 歴史が好きな人にはもちろん、いつもと違う雰囲気のライトノベルを読んでみたい方にも教えたい1作であったと思う。

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