見出し画像

キラキラステップと新生活 ~織島 かのこ『嘘つきリップは恋で崩れる』を読んで~

 新年度、或いは新生活が始まってはや1週間。そろそろ諸々の変化の対応にも落ち着きが見られ始めた頃だろうか? ラノベ的には卒業と進級も一大イベントとなるだろう。それは現実も同じこと。私も新しい図書室の蔵書とかずっと気になって仕方がなかった。中学は割とあった方だったかな? 高大は……うん。この頃にはもう欲しい本は自分で買ってたな。

 話が逸れてしまった。小学校から中学高校、最近では大学までがオーソドックスな教育課程とされるだろう。その中でも最も変化が大きいのは高校から大学なのではないのかとふと考えた。良くも悪くも自分の裁量に任されてることが多いし。中では在学中に成人年齢にもなるし。

 そういう事を考えると数か月前に読んだ『噓つきリップは恋で崩れる』を思い出した。本作はゴリゴリの恋愛ものなのだが新大学生らしさが前面に押し出された1作なのだ。

あらすじ

 新たな街での大学生活。これを機に1人暮らしを始めた相良創平さがらそうへい。なるべく他人と関わらない"おひとりさま至上主義"を掲げる彼の下にある出会いが訪れる。同学年のキラキラした女子七瀬晴子ななせハルコ。出会っただけなら良かったのだが実はアパートのお隣同士だった創平はハルコの真実を知ってしまう。ハルコのキラキラは全てメイクとファッションの腕によるもので本来は地味な女の子だったのだ!

 秘密をバラされたくないハルコと関わり合いになりたくない創平。2人の意思のすり合わせの果てに「ハルコが地味な創平に関わらなくても良いぐらいキラキラ女子になるまでハルコは創平に協力する」とこになったのだった。どうなる2人の学生生活⁈

詳細と注目ポイント

大学デビューはダサくない

 あらすじにも書いた通り、このお話はヒロイン七瀬ハルコの大学デビューが主軸となっている。新たな門出をきっかけにイメージチェンジを図る「○○デビュー」の1種。何故か超個人的にこの手のデビュー系にあまり良い印象が無かったため書籍の情報拾ったぐらいのときは少し警戒していた。本当に原因が特定できないのだが。

 だが、あらすじにも堂々と書けるほどにこの設定と理由はかなり序盤で明かされるし、それも誠実なものだ。それとデビューのイメージが崩れたら? というドキドキがバランスよく共存している。

 創平がおひとりさま至上主義になった理由もきちんと明かされているため、恋愛ものとしてだけではなく人間ドラマとしても楽しませてくれる作品だった。実際私は恋愛要素関係無い場面で泣いてしまったし。

経過時間は1年間⁈

 そういえば今まであまり意識したことが無かったけれど、小説1冊の経過時間ってどのくらいが相場なのだろう? 個人的には数日辺りがかなり多いような気がする。長くて数か月ほど? 『噓つきリップは恋で崩れる』を読んでいて疑問を抱いてしまった。

 一見なんの関係も無さそうなのにどうして? と疑問に思った方も多いかもしれない。普段はこういうことってあまり気にしないしね。そういう事を思わせるほど本作の時間経過が特徴的だったのかもしれない。そう、マジで1冊で1年が過ぎるのだ。

 学園ものは学校行事という名のイベントがたっぷりあるし、何なら独自のものも作ったりしてそれはもう濃密なスケジュール。学校生活が絡む作品は何となく時間経過がゆっくりなイメージが強かった。だからこそ今回その常識をひっくり返されたのだ。

 1冊という決して長いとは言えない時間の中に大学生の楽しみが濃縮されている。日常パートでも大学あるあるなシチュエーションが沢山あるので場合によっては実際の大学生活を想起させるのも楽しみの1つかもしれない。

じっくりコトコト煮詰めていきます

 先ほど「人間ドラマとしても楽しめる」と書いたが本業の恋愛ものとしてはどうなのだろうか? と疑問を抱いた方も少なくないかもしれない。これについては安心して欲しい。100%恋愛だ。

 私の恋愛観がゼロに等しいからなのか、世間でラブコメと言われる作品を見ても「これはまだラブの領域に入ってない」と捻くれたことを考えてたりする。マジで申し訳ない。そんな捻くれたことになっている私ですら火力が高いと断言できるレベルなのでかなりのレベルだと思われる。

 時間経過が早いのと、恋心に気づいてからそれを表面化していくまでのもどかしさが堪らない。更に本作では創平・ハルコの両視点で書かれている為どちらの気持ちも味わえてより恋愛成分が高いのだろう。

さいごに

 恋愛に限らず始終ずっとキラキラが止まらなかったなぁという感想に収まる本作。確か発売直後にネットで話題になってたから物は試しで読んでみたけど予想を遥かに超えてくる面白さだった。緊迫感もあれど最後はホッとするところも良い。不安だらけの新生活にも少し前向きになれそうだ。

 新しいタイプの恋愛ものを探している方に是非勧めていきたい1冊だなと思った。

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,135件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?