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本を作ってみようin江戸時代 ~ゆうき りん『大江戸恋情本繁昌記』を読んで~

 いつもの事なんだけど、やっぱり本屋さんは謎の魔力持ってると思うんだ。棚をじっくり見ていくと気になる本がいくつもいくつも出てくるし、レジに行く頃にはほぼ必ずと言っていいほど予定に無い本を数冊持ってる。最近は個人の事情もあってかなりセーブされているがそれでもやってしまうのが世の常。

 最近読んだ『大江戸恋情本繁昌記』もその1冊だった。奇抜にして収まりが良いカラーリングの表紙に目を吸われるし、現代人の編集者が江戸時代で本を作るってのも面白そうだと思いまして、つい。作家がメインの作品はいくつか読んだことあったけど編集者メインってあんまり無かったな~というのも決め手でした。

 実際読んでみるとすんごい面白かったです。勿論この1冊で起承転結ありますが、やんわりした謎があったりラストでとんでもない情報が出てきたりと続きが気になって仕方がないので続編祈願も兼ねて今回紹介こちらの本を紹介させていただきます。(※これは私が勝手に思い込んでいるだけです。最初から単巻完結の場合、マジで申し訳ございません)


あらすじ

 令和の出版社でライト文芸を中心とした本の編集として活躍する編集者、小桜天こざくらそらはある日、作家とのトラブルによりトラックに轢かれてしまう。死んだのかと思いきや気が付けば江戸時代(西暦1828年)だった⁈ 外から見れば雷と共に現れ怪しまれる天。しかし謎の侍遠野伊織とおのいおりの機転もあって天は夢か現かも判別つかぬまま江戸暮らしを始める事となった。

 生活している内に江戸の出版事情を知った天は当時の書店、地本問屋にも顔を出すようになる。だが、ある日店主が店を畳むことに。しかし何をたくらんだのか伊織が見せの株を譲り受けることに。そして自分で店を回す予定のない伊織は天に店を切り盛りして欲しいと提案を持ち掛けるのだった。

詳細と注目ポイント

まずはゆったり江戸生活

 作中でも例えられていることなのだがまさしく、否コッテコテに異世界転生或いは転移の導入のような始まり。しかし天が跳んだのは異世界ではなく同じ世界、しかも彼女が生きていたよりもずっと前の時代。もしかすると同じ国、同じ大都会といえども常識はてんで違うものだから異世界と括ってしまっても過言かもしれない。

 そんな風にいきなり主人公が別環境に放り込まれてしまったところから始まる本作。まさかの説明も一切なしでその場で何とかしないといけないという現実味もあってか本題となる本作りの前に江戸の生活が中心となるパートが挿入されている。例えば、町を歩けば足が土まみれになるから室内に入るには足を洗わねばならなかったり等様々なものがある。ただダラダラと描写されている訳でもなく、各々のキャラの登場や今後の展開になる布石もあったり、それ以上に生き生きと書かれているものだからこれだけでも全く飽きが来ない。

同じ世界でも異世界のようで

 天がやってきた江戸時代はその中でも後期の方(幕末一歩手前辺り?)。日本史全体で換算すると近いのかもしれないが、でも生活文化が何から何まで違う。西洋化とグローバル化の影響力が良く分かる。

 本作ではそんな江戸と現代での違いにも触れられているのもまた興味深い。現代から来た天の視点も相まって2つの時代の違いが分かりやすくも面白く書かれている。天がライトノベル周辺の造詣もあることや、江戸にくるまでのシチュエーションが異世界ものに似通ってる所からくるライトノベルの価値観が出てくる所も個人的には分かりやすくて良かった。これも江戸時代の暮らしがありのままで描かれているからこそ鮮やかなものになっているのだろう。

 普段は江戸の喧騒に身を浸しながらも、ここぞと譲れないときに出てくる現代の価値観のおかげで読みやすくも共感がしやすい構成になっていたのもより楽しめた一因なのかもしれない。

支える立場だからできること

 さてそれではここでテーマでもある江戸時代での本作りについても触れていきましょう。先ほどにも触れた生活部分と同じように当時の形態に重きを置きながらも現代の価値観的に「ここだけは譲れない!」という部分は現代でも見たようなものを江戸時代風にしたりとして本が作られていく様子が見ていてとても楽しい。編集者だから内容だけではなく本の大きさなどの外身にもこだわっていく所も更に良い。読む側の私達も本に対する新たな考え方を得られそうな気がする。

 それだけではなく、女性だから下に見られるというリアリティーのある男女の差や周囲で発生するトラブルもありながらも、面白い物語を世に届けたいという強い気持ちがよく表れている一幕にも注目していきたい。

さいごに

 江戸時代では1つの規模が小さく、出版社と印刷所と書店の役割が1つにまとまっているから狭い範囲で本作りの手順を体験できたのがとても良かった。時代物らしい人情やリアルな生活時描写もあれば、転生・転移あるあるなネタもあって様々な方面でクスッと笑えたのもまた事実。もし続きがでるのならば、最後のあのシーンがどのような影響を及ぼしていくのかが気になってしまって仕方がない。

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