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ちょっとふしぎな後日談? ~日之影 ソラ『転生、沖田総司 ー新選組異聞録ー』を読んで~

 最近インターネットで情報収集をするようになっても、初めて書店で出会う本はなくならない。今回紹介する『転生、沖田総司 ー新選組異聞録ー』もそのうちの1冊だ。シンプルながらも目を惹くタイトルと背表紙の装丁の本が数冊、新刊の棚にこっそりと並んでいるのを幾つかの書店で見かけたのが妙に印象深い。そこまで目が吸い付くのならばということでついに手に取った次第だ。(実際に購入した場所はアニメイトなのだがそこはそれ。私的にはアニメイトは書店です。異論は認める)

 常日頃から異世界ものに浸っておらず、時折歴史ものも摘まむ私からするとこの相反する組み合わせが新鮮に思えたのだろう。他のメジャージャンルと比べるとラノベで歴史ものってあまり見ないような気がするし。一体どのような物語が繰り広げられるのか、心の奥底で気になっていたのかもしれない。


あらすじ

 慶応4年5月30日、かつて新選組一番隊組長として京で刀を振るっていた沖田総司おきたそうじは当時における不治の病にその身を蝕まれていた。病を治して再び仲間の下へ駆けつけるという思いが天に届くこともなく彼は帰らぬ人となった。

 しかし話はそれで終わらなかった。死んだはずの総司の魂は天国とも地獄とも似つかぬ場所に迷い込んだ。それ即ち異世界。彼はそこで1人の少年の姿を見る。少年の名はリクル・ビクセン。体が弱く才能もなく誰からも見放され、それでも努力しようとする。しかし、リクルが報われることは無かった。彼はいつしか諦めをつけ、その身を投げ出した。

 総司はそんなリクルに過去の自分を重ね合わせていた。だからこそ弱い体で強くなろうとしたリクルを引き留めようとする。だがその声は届くことは無く、総司はいつの間にか地面に打ち付けられた少年になっていたのだ。

 こうして異世界に転生した総司は2つの目標を定める。1つ、弱い体でも強くなれることを今は亡き彼に証明すること。1つ、ひょっとすると同じ世界にいるかもしれないかつての仲間を探すこと。

詳細と注目ポイント

序盤からシリアスでいく!

 申し訳ございません。今回あらすじがトンでもなく長くなってしまった。前置きが長くなるのは珍しくも無いんだけどあらすじでここまでいくことはそう無いと思う。でもこの話の序盤がとてもお気に入りだったから外すわけにもいかず、頑張ってまとめた次第だ。ここまで詳細だとほぼネタバレではないかって? 安心して欲しい、これでもプロローグの4分の3だ。閑話休題。

 まあ、こんな風にこの話、序盤から滅茶苦茶重い。異世界転生って転生するまでは軽いノリでささっと進むという、あくまで私の中での漠然とした常識が覆された。予想外で身構えられていなかったこともあってか読んでるこっちにもしんどさが伝染していた。こういったどこか暗い部分は歴史ものらしい要素なのかもしれない。

魔法な世界を"斬り"抜ける⁈

 さてさて、世界観の話もしていこう。この作品における異世界も例に漏れず魔術が飛び交う。ゴリゴリのファンタジー世界だ。個人個人が特有のものを使うタイプということもあって、どのような術が出てくるのかも見物だ。

 当然ながらただそれだけではない。転生したのはあの沖田総司だ。持ち前の剣の腕で戦っていくのは勿論の事、異世界の技術を取り込んで自身の戦闘スタイルに落とし込んでいく所にも注目したい。それでもベースとなる軸はブレないからカッコいい。

 また、この話は総司の1人称視点によって進行していく。普段はシンプルであっさりとした文体が特徴だが、異世界のガジェットを自分の知識を基にかみ砕いていく様子が現代人のそれと少し違うところや、悩みや葛藤のシーンに入ると遊園地のアトラクションのように揺れ動いたりと、辛い所もあるが、読んでいて楽しいモノローグとなっている。

考えさせられる死後への解釈

 転生したのが歴史に名を残し、創作でも生い立ちを知る機会が多い人物だということもあり、この物語では死後への解釈というものがひどく印象的だ。ここでいう死後というのはそのままの意味だと少々語弊があるかもしれない。特定の人物が死んだ後というより、転生という現象によって得られる死をターニングポイントとした行動の方針付けといったところだろうか。

 私達が元の人生を知っているからこそ、作中のキャラがどうしてそう考えるようになったのかが短い描写でも伝わってくる。だからなのか、異世界ものであると同時に偶に聞く後日談を主軸に置いた物語のように錯覚させられてしまうことがしばしばある。よくよく考えれば転生ものってある意味では後日談のはずなのに不思議なことだ。偉人の転生だからこその独自性なのかもしれない。

さいごに

 歴史に疎くなくとも概要を把握していれば問題ないし、詳細な部分はちゃんと捕捉が入っているので、そこで足踏みをしている方も不安にならなくて大丈夫だ。

 最初は興味本位で買ったが、歴史ネタやそこから派生される解釈とモノローグの良さが噛みあって、中々味わえないタイプの読書体験だった。あの時手に取る判断をして本当に良かったと思っている。


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