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懐かしくも新しい記憶 ~古宮 九時『Unnamed Memory』を読んで~

 もしかすると普段から私のnoteの記事やX(旧Twitter)をご覧になられてる数少ない方の中には薄々お気づきかもしれない。「こいつ、『Unnamed memory(以下アンメモ)』にドはまりしてやがるな!」と。滅相もございません。既に関連記事2つ出して1話の時点でアニメの毎週録画を設定し原作小説を既刊最新刊まで買いそろえてるだけの新参者でございます。というか『アンメモ』だけでズブズブな上に同作者様の著書2シリーズも積んでる辺り見事なまでに私の性癖を的確に刺激されてるような気がする……。(因みに積んでるのは『Babel』『不可逆怪異』)

 本編は全6巻と一応完結していて(続編もございます)まとまった巻数ということもあって一気にいっちゃいました。これはファンが多いのも納得の面白さ。

 今回は後半部の話は何書いてもネタバレになるアニメ化に合わせて恐らく放映範囲であろう青い背表紙の1~3巻のお話を中心にして紹介いきましょう!


あらすじ

 大きな力を持ち、永い時を生きる5人の魔女がいる大陸。その魔女の中でも最強と言われる『青き月の魔女』は塔に住んでいる。その塔の試練を突破すると願いを叶えてくれるという噂があった。

 最後の達成者が現れてから70年が経った頃、初めてとなる1人で全ての試練を達成した者が現れる。彼の名はオスカー、大国ファルサスの王太子にして子を成せない呪いをかけられた男だった。

 オスカーは魔女に件の呪い相談を持ち掛ける。しかしその呪いも青き月の魔女、ティナーシャと同じく魔女に掛けられたもの。そう簡単に解呪できる代物では無かった。

 代案を探るティナーシャだったがオスカーはその中でも呪いに耐える女性……即ち魔女ティナーシャに求婚をしたのだった!

詳細と注目ポイント

昔読んだタイプのファンタジーだこれ

 私がこのシリーズを読んだ時に感じた印象は「小さい頃に読んだようなファンタジー。でも今風にアレンジされてる?」だった。具体的にはこれ! とタイトルが言えるわけでもないのにどことなく懐かしいし、だからと言って古臭さを感じない。少し整理してみよう。

 まず懐かしい部分について。昔にファンタジーといったら何を思い描いただろうか。ヤバい魔女や強い王子様、凄い武器に色々と凄い怪物! といった具合か? 小さいころまでさかのぼりすぎているせいでファンタジーというよりは童話っぽいような気がするのだが。よくよく考えたら『アンメモ』に全部ある要素だ。確かに本編でも御伽噺と称されることもあった。

 ではもう片方の方も。こちらも先のように新しさというかガッツリ読む小説というニュアンスに近いかもしれない。絵本で読むような御伽噺は語る長さも限られる分起承転結がハッキリしている。だが『アンメモ』は1冊400ページを超える長編だ。その分キャラの感情、特にオスカーとティナーシャのものが詰め込まれている。

 長くなりすぎてしまったため端折ってしまったあらすじの少し後の話なのだが、ティナーシャは解呪の為に期限付きでオスカーの守護者としてファルサスに赴く。そこでの両者とも引けを取らない強さの持ち主であるが互いの事を気にかけている様子や何百年も生きるティナーシャに垣間見える少女らしさは必見だ。

サブエピソードにも抜かりなし

 好きな長編シリーズを読んでるときにに「本編も素晴らしいのだがそれはそれとして日常寄りのサブエピソードも見てみたい」と思ってしまう現象が発生するのはきっと私だけではないはずだ。これは本編がずっとシリアスで緊迫しているときも同様だろう。だが不思議と『アンメモ』ではそういう気持ちがやや落ち着き気味となっている。(それはそれとして読んでみたいのだが)

 具体的に言うとネタバレになってしまうのでそっと触れる程度にしておくが『アンメモ』の軸となるのは文字通り世界を揺るがす壮大なストーリー。だが、どの巻にも必ず数十ページほどで収まる小さな事件がいくつか収録されている。特に1巻目ではファルサスの宮廷魔法士の様子が鮮明に書かれている。

 大きいエピソードも勿論だがこうした小さいエピソードの積み重ねも『アンメモ』の楽しみの1つだと思う。

世間はこういう「3巻がキリが良い」と

 少し脱線してカバーデザインについて少々触れさせていただく。『アンメモ』シリーズものの小説にしては珍しく巻数の途中で背表紙の配色が変化している。3巻までは青ベースに黄色の文字、4巻以降は反転してしている。因みに続編は銀ベースに赤色の文字だ。漫画の単行本だとこれらが変化するのは珍しくないが小説となるとあまり見られない。

 そういう前もった印象も重なり、3巻までと4巻以降で変化が大きい作風となっている。とはいっても分断されている訳でもない。全ての巻が繋がっているため、3巻を読み切ったら自然と4巻も読んでしまいたくなるぐらいだ。

 とはいっても3巻がキリが良いのは確かなことだし、私もその巻の最後のエピソードが滅茶苦茶好きなので勧めるときは3巻まで読んでと言いたい。余談だがこれは公式でも言及されてそうだ。

さいごに

 御伽噺のような懐かしさと感情の動きといった細やかさ。叙事詩という例えがこれ以上ないほどしっくりくる。かといって物語が複雑すぎて理解し辛いことも無く、読みやすいけど詳らかにすると味わい深い。

 ふと思い立った時に振り返りたくなる類いの物語のように感じた。アニメも非常に楽しみにしている。

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