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絵空事かもしれない夢でも君となら ~瀬戸 みねこ『富嶽百景グラフィアトル』を読んで~

 まず初めに謝っておきます。今回いつもより若干テンション高いかもしれません。それもそのはず、まだ表紙も公開されていない年の暮れ。とあるWebサイトでたまたま『富嶽百景グラフィアトル』という本の存在を知ったのが全ての始まりだった。まずタイトルでラノベで浮世絵関係って珍しいなと惹かれ、次にあらすじを読んで「描いた絵で戦う? それもマンガじゃなくてラノベでやるの?」と興味を持った。結局少しも我慢できずに発売日当日に書店をハシゴして、読んでた途中の本が読み終わるや否や他の積読本を後回しにして手を付けたのだった。

 話はここで止まらない。なんと、内容がここぞとばかりに自分好みだったのだ! バトルも人間関係も全てがブッ刺さってしまったといっても過言ではない。他の読者の方々と語り合いたくて仕方が無いのだが、周囲に読んだ人がおらず、気持ちのやり場もない日々が続いていたのだった……。

 という訳で、今回は今私が1番沢山の方に布教面白さを伝えたい『富嶽百景グラフィアトル』について語っていこうと思う。……え、自分語りが長すぎる? 申し訳ございません、即刻本題に入ります。

あらすじ

 時は幕末。幕府の絵画規制への鬱憤から討幕の兆しが見え始めていた。発端は規制の被害を被った絵師達。彼らは描いた物を具現化させる"画術"なるものを用いて市井を混乱させていた。

 当然幕府も黙っちゃいない。幕府お抱えの絵師を中心とし、これに対抗する組織『四季隊』を結成したのだった。

 そこから少し時は流れて絵をこよなく愛する少年、狩野探雪かのうたんせつがギリギリ成績の末四季隊に入る。しかしそこで相方となったのは優等生の土佐光起とさみつおきだった。

 お互い不本意な中で結成された新人絵師コンビ。彼らは絵師達の思い渦巻く京の地に身を投じることとなるのだった────。

詳細と注目ポイント

ありそうでなかった⁈ 異色系幕末もの!

 初めてこの作品の存在を知った時、最も目を惹いたのは舞台が幕末だったということだろうか。なんとなく現代ものかな? と思っていたこともあり随分と印象深かった。となると時代劇か? と考えるも完全に肯定することは難しい。

 詳細は本編序章に短くも的確にまとめられている為そちらに譲る。しかし、この作品における幕末は私が知るそれよりかなりかけ離れている(とはいえ私の幕末知識も創作由来の全体的にあやふやなものなのだが)。具体的に言うならば幕末と聞いて連想される単語がビックリするほど出てこないのだ!

 今までのそれとはかけ離れた世界観が構築されてることもあり、最初はかなり混乱した。だが読み進めていく内に、一枚岩ではいかない関係性や根は単純だが様々な要素が絡み合って複雑さを増していく思考等、どこか従来の幕末を想起させられる。そこに後述するバトルが乗っかることにより、今までとは違た新たな幕末の世界観が構築されている。

画術バトル、どう切り抜けるか⁈

 それではお待ちかねアクション方面の紹介に移ろう。描いた絵を具現化させる能力自体創作上では比較的ありふれたもののように思える。しかし多数のキャラクターがその能力を使うことと、日本画がモチーフとなっていることにより、トリッキーさが増している。

 まずは前者について軽く。同じ能力の使い手同士が争うという点では能力ものというよりかは魔法での戦闘の様相に近い。だが現実の絵画にも書き手によって得意分野・不得意分野があるように画術でも書き手によって得意戦法があったり抜け道があったりする。特に主人公の探雪はそれが如実に感じられる。1対1の戦闘も見られる第二章は発想の応報が非常に愉快だ。

 また、日本画モチーフということもあって、いつの日かに美術の授業で学んだことを思い出して時折興奮してしまった。本当に薄れ、霞んでしまったものが一気に呼び覚まされる刺激は中々味わい難い。文体だけでもこうなってしまったのだ。いつの日かビジュアルが中心のメディア展開が行われた日にはどうなる事やら……。いやいや、それでも美しくこちらをドキリとさせてくるモノローグも捨てがたい。何とも贅沢な悩みだ。

人間関係がとにかく濃いッ!

 ここまででも充分読んだ甲斐があったというもの。だがしかーしっ! 現実はそう甘くない! ただでさえ面白い要素しかないのに人間関係濃すぎて後半読んでた時のテンションがヤバかったです。文庫1冊という決して長くはない分量の中に出てくる濃度かこれ! ってレベルだった。複雑な情勢の渦中なのもあるのかもしれないけど……。まだブラックボックスな点はあれど探雪・光起周りは一段落してるの本当に凄いと思う。

 勿論、コンビとしてのやり取りやお互いのパーソナリティーが開かれていく過程もワクワクした。正反対な部分は多い凸凹コンビだけどもここぞという時にはしっかり決めにいく姿はとにかく熱かった。因みにこの作品、レーベルの「最高に推せる! 男子バディ&チームフェア」の一環だそうなのだが、その題目にこの上なく相応しい熱さがあったように感じられる。

さいごに

 雰囲気は全体的に少年漫画風。ですが、地の文や1冊の物語としての完成度の高さなど小説媒体の良さも引き出されていてどっちかが好きな方、当然どっちも好きな方にも自信を持って勧めたい1作だった。どうやら念願のコミカライズ企画も動いているらしい。この1冊に浸りながらも、今後の展開が待ちきれない。

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