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ここは新たな怪談が生まれる場所 ~甲田 学人『ほうかごがかり』を読んで~

 突然だが皆さんが通っていた小学校には七不思議というものがあっただろうか。実は私は父と通っていた学校が同じだったので面白半分で聞いたことがあった。その時教わったのが「ウサギ小屋の左隣(右だったかもしれない)を掘るとお宝がある」だった。実際に見つけたとか言ってたけどこれ絶対嘘でしょ。そもそも怪談ですらないし。今振り返るとふざけているようにしか思えないのだがここは怖いものが苦手な私に配慮したということにしておこう。

 どうしてそんな話を思い出したのかというと七不思議がモチーフとなる『ほうかごがかり』が予想を遥かに超えて面白かったのだ。何故ホラーを避けている私がこの本を読もうとしたのかについては話すと長くなるし複雑なのでおいおい。当然ながら怪談特有の怖さもあるのだが、それに対する捉え方や設定が何とも興味深く、勢いよく読めてしまったのだ。


あらすじ

『ほうかごがかり 二森啓にもりけい
 小学校も最高学年になった少年は、黒板に自分の名前が書かれた謎の落書きを発見する。誰が、何のために書いたのか分からないまま文字は消えてしまった。

 深夜。家で寝ていた啓は狂ったチャイムと校内放送・・・・・・・・・・・・で目を覚ます。彼はいつのまにかレトロな制服に身を包んだ状態でいつもの小学校、その屋上にいた。

 いつもと違う雰囲気の校舎、そこにある開かずの間。深夜『ほうかご』に『ほうかごがかり』は集合する。集められた『かかり』の仕事は夜の校舎に"いる"七不思議の雛、人呼んで『無名不思議ナナフシギ』の観察と記録だった。『かかり』は各々の思惑の下『無名不思議』に向き合ったり背を背けたりするのだった。

詳細と注目ポイント

小学生×怪談話の親和性

 この作品の設定についての私のイメージは専ら「取っ掛かりだけだと斬新、仕組みを知れば納得」だ。怪談をテーマとしていることもあって序盤は得体のしれない理不尽さが先行する。確固たる法則ではなく、元から知っている側も手探りな状態という中で出てくる考察の方が圧倒的に多かったりするのだが、そのどれもが妙に説得力がある。

 今回はネタバレを控える都合上テーマともいえる小学生と怪談について焦点を当てよう。これもまた経験談になるのだが、小学生の頃、怖い話が中公に比べて流行っていたような気がする。(私の場合、世代での流行も関わっていると思われるが)七不思議は勿論の事図書室にはホラー系の小説が多数あったし、書店の児童向けコーナーの一角には怖い話の本が子供の目を引くような目立つデザインの背表紙で複数あったのを覚えている。

 そういった経験談を踏まえると、小学生と怪談話は案外普遍的な組み合わせなのかもしれない。

そして怪談は日常へ……

 設定についてもう1つ説明したいところがある。『かかり』と『名無不思議』の関係性についてだ。先と被る所もあるかもしれないが、ここでは物語のギミックについて語っていく。いつもの昼間と異空間のような『ほうかご』2つの時間に渡る駆け引きの構造となっている。

 『かかり』1人につき1つの『無名不思議』が紐づけられる。『無名不思議』は己の成長のために『かかり』を襲い、『かかり』は記録をつけることで『無名不思議』を抑え込む。『無名不思議』は成長すると昼の世界に飛び立てるが記録に成功すると『ほうかご』から出られなくなる。

 少しややこしいかもしれないが読んでいけば分かる事なので説明はここまでにしておこう。この物語は時に日常に侵食してくる怪異に子供たちが向き合っていく様子が克明に書かれている。前向きだったり後ろ向きだったりと多様な姿勢にも注目だ。

クローズドな空間での関係性

 ホラーの要素があるということもあって全体を通した雰囲気は暗い方だ。『かかり』の仕事こそ定期的にあるが彼等にも日常がある。だが、張り詰め気味な空気感もあってか『かかり』の中の人間関係は閉じた空間に近しいような気がする。『かかり』の人数は7人。『ほうかご』で初対面同士になるキャラも少なくない。基本的に仕事は1人になることが殆どだから関われる時間はそう長くはない。そこでどのような関係性が生まれるのか、人間と怪異だけではなく人間同士のそれにも注目していただきたい。

さいごに

 こうして改めて言葉としてまとめてみるととても興味深い構図だ。勿論物語としての面白さばかりではなくこういったジャンル特有の怖さにも抜け目がない。緩急をつけた作品で空間を越えてこちら側まで恐怖に引き込んでくるのは朝飯前だ。それでこそ怪異といったところか。

 この作品の気に入っている部分を全て語ろうとすると細かいシーンにまで触れてしまうので今回はここまでにしておこう。現在巻数は少ないが、最初からエンジン全開でページ数が多くてもあっという間に読めてしまうので怖い話に抵抗の無い方は騙されたと思って手に取っていただきたい。

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