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気が付けますか? 些細な違和感 ~雨穴『変な家』(文庫版)を読んで~

 『変な家』という本が人気らしい、という噂はかなり前から知っていた。だが、読もうとしたのはつい最近の事だった。理由は2つ。丁度文庫版が出版されたことと、知り合いに強く勧められたからだった。いつもの知り合いにしては強く勧めてくるのが珍しく既に組んでいた本を読む順番を崩しての読書だった。

 確かに勧める人も出てくるのも納得の面白さだった。それは物語としての筋立ての面白さは勿論、恐らくフィクションであるにも関わらず現実にあったかもしれないというリアリティーを突き詰めた表現が読みやすさとマッチしていて確かにこれは人気が出ると納得がいった。ものが流行る理由を知るにはそのコンテンツに触れる事が一番手っ取り早いなと常々思ったものです。単行本からの文庫化なのだから一定の人気と面白さが担保されてるのもその裏付けな訳だし。

 という訳で今回は私が感じた『変な家』の面白さについて今一度明文化していこうと思う。


あらすじ

 オカルト専門のフリーライターとして活動している筆者の下に知人から相談を持ち掛けられる。良い物件を見つけた物の間取りに妙な空間があるのが気になっているという。

 そこで筆者はミステリに明るい設計士・栗原くりはらに連絡を取る。専門の彼による推測の数々。あくまでも与太話に過ぎなかったその案件がその後も筆者の頭に残り続ける。

 新たな情報を求めるために奇妙な間取りの家についての記事を書いた筆者。現れる情報提供者と紐解かれていく真相の数々。まだこの時は誰も知らなかった。あの家の裏に隠された恐ろしい真実を……。

詳細と注目ポイント

間取りそのものが謎を持つ

 皆さんは間取りを目にする機会はどのくらいあるだろうか? 私は多くは無いがゼロに近い。たまに不動産屋の広告を眺めて家の様子を想像したり、ミステリの現場の図として出会うこともしばしば。あくまでもその建物或いは部屋がどのような空間なのかを分かりやすく表す手段として間取り図が用いられる。だからこそ「家そのものが怪しい」という可能性が認識の外に追いやられたのかもしれない。その為、私はこの作品のコンセプトを知った時に虚を突かれたような気分になった。

 遠目で見ると違和感はない。だが詳しく見たり指摘されたとたん何も無かった図がミステリの舞台、否謎そのものに早変わり。そうしたありそうでなかったコンセプトが何とも興味深い。日常に溶け込みつつも普段は持ちえない着眼点が様々な人の興味を持たせているのは確かなことだろう。

一体全体何があったんだ⁈

 よくよく考えると違和感まみれの家が物語の中心となる『変な家』。当然ながら家は自然発生したものではない。物語は「どうしてこんな家が建ったのか?」という方向にも転がっていく。

 栗原さんの推測から始まり情報提供者の存在。その他新たに手にした情報が絡み合い、時には伏線回収のような挙動も入り混じり1つの真実が浮き上がる。取っ掛かりは家の間取りと変則的ではあるが謎の回収による真相解明のカタルシスは通常のミステリとも引けを取らない。そして怖い。

 幽霊が出てくるタイプというよりかは人が生み出す恐怖に近いのだが、それでも肌が泡立ちかねない。一番恐ろしいのは人間なんだなという心理すら見えかねない。本作はあくまでも栗原さんの推測という前提で語られる部分も多い。しかし作中の真相が紐解かれていくにつれ「まああくまでも仮定の話だよね」と楽観視するよりも「これ以上の最悪のケースが秘められてるかも」と現実味を帯びてしまう。更なる「もしも」が示される文庫版のあとがきもそんな感じだった。言い換えるならば最後まで、ホラーたっぷりといった具合か。

読みやすいミステリと現実感

 あとこれは読んでいて感じたことになるのだが、兎にも角にも読みやすい。ただ単純に易しい文体という訳でもなく、間取り図を始めとして適宜挟まる図表の数々や、地の文が少なくインタビューのような形式やメールや手紙での遣り取りの再現等普段活字に触れていない方にも読みやすいような構成が一貫しているのだ。更にはこの本の元となったのは著者・雨穴先生が投稿した動画だという。

 これら表現方法については賛否が分かれるかもしれないが、こうした普段本を読まない層にも広げられた間口の数々は多くの人に読まれた本となった要因として見過ごすわけにはいかないだろう。

 また、これらの現実によくある文面の遣り取りが、この作品の面白さや擽られる恐怖心の一助になっているのかもしれない。調べてみた所『変な家』の物語自体は架空のものらしいのだが、何も知らずに読んでた段階だとノンフィクションのように思えてしまって仕方が無かった。

 そう考えたのも、この作品が通常の物語文のフォーマットではなく、ありのままを記録したかのようなドキュメント風の設計だったからかもしれない。

さいごに

 物語としての面白さと沢山の人を巻き込んでいかんとする工夫の数々。そのどちらもをバランスよく組み込み1つの作品として成立させている。人気が出るのも当然のとこだと納得がいった。

 こういった日常に溶け込むかのような作品に出合ってしまうと今後間取りを見る目が変わりそうだなと感じたのはここだけの話にしておいて欲しい。

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