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儚くも残酷な玩具遊び ~fudaraku『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』を読んで~

 今年もこの季節がやってきました! そう、電撃大賞受賞作品のお披露目です! まだそんなにラノベ漁りをしていなかった時期から電撃大賞の受賞作品はそれなりにチェックしてたのでかなり思い入れがあったりしてます。同じ年でも方向性の違う作品が飛び交うことも多く、ラインナップを見てるだけでワクワクします。気になった作品をピックアップして購入するのも慣れたものです。本棚整理したら数年前の受賞作品(初版)がそれなりに出てきそう……。

 そんな中私が今年度1発目の受賞作として手に取ったのは『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』です。本当はもう少し置いておくつもりだったのですが色々あって早急に読みました。どうやらネタバレのあれやこれやがあるそうだので速めに読んだ方が良いらしいというのが建前で……本音は舞台が明治って聞いたからです。だって明治大正の雰囲気好きなんだもん。

 今回はそんな『竜胆の乙女』についてできるだけネタバレをせずに語っていきたいと思います。ちょっと自信ないけど頑張ります。

あらすじ

 明治末期、菖子しょうこは亡き父の跡を継ぐため金沢の地へ赴いた。菖子は3人の下男と3人の商物あきものによって2代目「竜胆りんどう」として向かい入れられた。しかし彼女に寄越された手紙には最低限の事しか書かれておらず、これから何が起こるのか分からず仕舞い。夜になれば分かるというのだが……?

 そうして夜がやってきた。客は人ならざる「おかととき」。竜胆の勤めとは風流で残酷なものを好む怪異をもてなす、そのことであったのだ。

詳細と注目ポイント

恐ろしく、華やかなおもてなし

 今回はいつも以上にあらすじが短いような気がする? はいその通りです申し訳ございません。決して手を抜いているとかそういうつもりは微塵もなく、全体的に独自性があまりにも高くこれ以上精密にするととここで書くことが無くなりそうあらすじが長くなりすぎてしまいそうだったもので……。閑話休題。

 先代竜胆が行っていたおもてなしというのはどのようなものなのだろうか? それは夜にやってくるおかととき相手に商物達を玩具のように扱う遊びだ。しかも商物が非人道的な扱いに帰結することは日常茶飯事だ。そこに多種多様な花や煌びやかな着物、時には音楽や料理が飛び交う。人間にとっては美しさよりも恐怖心の方が勝ってしまう。こういうのが苦手な方は夜中に読まない方が良いのかもしれない。

 かなり独自性が強いのだが、夜の室内で行われる辺りなどは案外遊郭や花街に近しいのかもしれない。それでも人ではないものだけに対して用意された遊びの数々は人間の理解を拒むものも多いかもしれないが。

とにかく怖い「おかととき」

 恐怖心を引き立てるのは竜胆が主催するもてなしだけに飽き足らない。商売相手である「おかととき」も一役買っているに違いない。本編では神とも妖怪の類とも違うとされている。明確な情報は少ない。時には人間を己が住む世界に攫い玩具することもある。実際に相対してみても明確な姿が見えず数が増減したり、声が何重にも聞こえたり等「よくわからない」という印象を強く抱かせる。また、おかととき達の言葉にはかぎかっこが用いられることは無い。本文の会話ではこのようになっている。

───この花はなんという名前なのかね。
「それは浜茄子はまなすでございます」

fudaraku『竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る』p27

 上がおかととき、下が下男の台詞だ。常に罫線を用いたものとなっている辺りにも明らかに人とは違うという得体の知れなさを増強している。

 それだけではなく、人間はおかとときに手も足も出ないという絶対的な力関係もある。興を削いでしまうと最悪の場合その場にいる人間全員の命が奪われかれないと再三注意が為されているくらいだ。その為来たばかりで慣れきっていない菖子がこの場を乗り切れるかという綱渡りのような一触即発のハラハラ感もたまらない。

不思議と謎の詰め合わせ?

 この作品をネタバレ厳禁部分も含めて最も注目の中心となったのは結局のところ「分からない」の濃さだろうか。エンタメ作品、とりわけファンタジーはいかに簡潔に開示することに作者の手腕を問われることがある。だが、この物語においては分かっていないことがかなり多く、更にそれが大きく取沙汰されている。というか主要な登場人物が知っている情報もさほど多くはない。

 だが、目先の描写の怖さに気を取られてあまり気にならない。寧ろ手触りだけで物語が進んでいく様子も怖さを助長している。そういうこともあってか終盤以降の伏線回収が映えるのだろう。些細な謎も沢山あるのでそういう部分に注力するのもまた一興かもしれない。

さいごに

 ライトノベルと言うよりかは、近代に書かれた幻想小説と原点に近い童話を組み合わせたかのような物語だと感じた。それでいてライト文芸らしい結末。ネタバレ注意を大々的に勧告されるのも納得だった。興味がある皆様、はネタバレを踏まないようお早めに!

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