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その情熱は、全てを貫く ~佐伯 庸介『帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中』を読んで~

 実の所今週の本紹介は別の作品で書こうと考えていた。だが、この作品があまりにも面白かったため、急遽予定を変更することにした。私が元々本が中心に関わってくる物語が好きという贔屓めいた色眼鏡をかけていることは否定しない。しかし、それを抜きにしてもこの作品に込められた本に対する愛情は凄まじいことこの上ない。表紙を開いて真っ先に目にするカラーイラストに添えられた一言から物語を締める最後の1行にまで十全にしみ込んだ情熱を知ってしまうと、発信を少しの感想だけで終わらせるのはあまりにも惜しい。ということで今回は『帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中』の紹介をしていく。少しでも興味を持っていただければ嬉しいことこの上ない。


あらすじ

 ある貴族の邸宅図書館の司書の職を失ったカリア=アレクサンドル。その噂を聞きつけた彼女の友人でもある帝国皇女はカリアにある仕事を斡旋する。その職は帝立図書館の司書。しかし、場所は戦場の基地だった!

 彼女に託された仕事は2つ。1つ、日夜敵対する魔族と戦う兵士たちの士気高揚のために設置された図書館の管理。もう1つ、ロストテクノロジーであり戦場における切り札となる魔導書の修理及び管理。

 こうして基地に赴いたカリアの戦いは幕を開けたのだった……。

詳細と注目ポイント

戦場と兵士のための図書館とは?

 あらすじ、それよりも先にシンプルなタイトルが示す前線基地に聳え立つ図書館の存在。図書「室」ではなく図書「館」ということもあって設立者の本気というものを感じられる。一見すると交わる事のない異質な組み合わせに見えるだろう。だが読み進めてみるとその疑問は綺麗サッパリ解消される。

 戦争は一瞬で終わるものではない。銃はあれど戦車はない、技術力が発展途中の世界ならば猶のこと。なんなら相手は強くて勝てる戦いであると断言できない。そんな中で兵士たちは大人しく日々を過ごすことができるのだろうか? そういった兵士たちの娯楽の一環として設立されたそうだ。

 兵士と言っても一般平民が多いこともあってか図書館内はどこか活気があって、繁盛している食堂のような雰囲気がある。当たり前だが「図書館では静かに」という人類共通のルールがあった上で、だ。勿論通常の図書館として機能している。だがこのような雰囲気を感じることは相当ないのではないだろうか。個人的には昔通っていた中学校の図書室を思い出す。

 図書館外にも注目したいことがある。それは物語を通した兵士たちの変化だ。境遇も何に感化されたかも様々だけど、先へ進もうと前向きになる兵士たちの心境もハッキリ書かれているのは図書館の物語として面白いアプローチだったと思う。

だけども時々ファンタジー

 ここだけ見れば普通の戦争もの。しかしながら本作はライトノベル。戦争の相手は魔王軍だ。相手として釣り合うのか? と最初は疑問に感じたが、この塩梅も絶妙で1つのポイントとなっている。種族の違いや食べるもの等魔族は人間と違って種族が多くいることを設定に組み込んでいる。

 また、魔法は人間魔族問わずかなり貴重な技術となっていたり、勇者は存在しているが、現実に寄った考え方をする人物だったりと、ファンタジーな要素は確かに存在するものの、かなりの制約がかかっている。そのため、ファンタジー世界でありながら、現実味を帯びた奇妙な世界観を楽しむことができる。

どこまでも変わらない本への愛

 序盤のトークでも軽く触れたが、やはりこれは外せない。世界観自体もかなり興味深いが、何よりもカリアの情熱抜きにこの作品を語る事はできない。

 その前に、あらすじで少し触れた魔導書について少々。この世界には魔法が貴重であることは先の通り。ロストテクノロジーのようなものとなっている。魔導書は古い過去に作られた所謂オーパーツの一種のような扱いになっている。そんな普通の本とは違う扱いとなる魔導書も普通の本と捉えて、厳しい状況に挟まれながらも葛藤する姿がもう兎に角印象深かった。戦場という特殊な場所でないと書けない描写だなぁと感じた。

 また終盤の話にほんの少しだけ触れると、最終章のサブタイトル「図書館にようこそ」も読み進めながらどういうシチュエーションなのか予想していたのだが、あまりにも予想外で納得のいく回収だった。戦場にいようとファンタジーな世界観であろうとも「本が好き」という私達現代人にも伝わる普遍的なテーマを貫いている姿勢はそう簡単に忘れられないだろう。

さいごに

 ジャンルとしては戦争物だが、決して最前線の派手なバトルが主役ではない。でも、暗くない戦場と娯楽という私達にも通じやすいテーマのおかげで、最初から最後まで読みやすかったというイメージも強かった本作。

 ラノベ好きでもラノベ以外のジャンルが好きな読書家、更には本に関わる全ての方にも読んでほしい。物語を楽しみ、他人にそれを知ってもらうことの楽しさを思い出させる。そんな1冊でした。

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