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いらっしゃいませ、殺し屋の街に ~木崎 ちあき『博多豚骨ラーメンズ』を読んで~

 本を読む人ならばライトノベルに限らず人より、他の作品よりも思い入れが強いシリーズの1つや2つある事だろう。『博多豚骨ラーメンズ』は私にとってその分類に入る。まだライトノベルとライト文芸の違いも分かっていなかった頃、ライトノベルを読んでみたいと思って面白そうな作品を調べて回っていた時期があった。その時期にこの作品が丁度アニメ化でプッシュされていた。それがきっかけで最初に読み始めたシリーズの1つとなった。

 ゆっくりと時間を掛けて既刊を揃え、いつしか最新刊を待つようになり、そして完結を見届けることができた。同時期に買い揃えていた他のシリーズは途中で完結したりまだ続いていたりなので、ライトノベルの黎明期に読み始めたシリーズが完結するのでテンションが上がったので今回は『博多豚骨ラーメンズ』を紹介しようと思う。完結を機会に新たな読者が増えることを願う。


あらすじ

 福岡───そこは犯罪が多発している地域であり殺し屋業の激戦区。噂によると人口の3%は殺し屋だなんて話もある。中には悪行が過ぎる殺し屋を殺すことを専門とする殺し屋がいるなんて都市伝説もあったりとか。

 そんな街にも市長選の季節がやってきた。だが犯罪まみれの都市の選挙は一筋縄ではいかないようで殺し屋だけではなく裏社会に潜む様々な人間の思惑が入り乱れ始める。それは都市伝説とされている『殺し屋殺し』屋・その名もにわか侍も例外ではないようで……。

詳細と注目ポイント

どうも、裏社会系アクションです

 タイトルだけを見てどことな~く美味しそうな匂いが漂うが、あらすじから分かるように血の匂いがたっぷりなタイプの作風だ。ではなぜこんなタイトルになったのかというのは記念すべき第1巻を読んでもらえば分かる。個人的にも印象深いタイトル回収の1つなので実際に読んで体感していただきたい。因みに福岡は博多が舞台ということもあって豚骨ラーメンは高頻度で出てくるのでファーストインプレッション的なタイトル詐欺にはならないはず、多分。

 短くまとめると、全体を通して血生臭い、或いは事情があってその領域に足を踏み込む人達の物語といった所だろうか。その中でも日常に近いシーンや季節を感じさせられるイベントも多く、表裏一体という単語を彷彿とさせるような空気感が味わえる。

殺し屋以外にもたくさんいるよ!

 あらすじに関してはもう1つ首を傾げたポイントがあっただろう。そう、あまりにも登場キャラに対する言及が少ないんじゃないかということだ。これに関しては純粋に私の実力不足です申し訳ございません。強いて言い訳するならば理由は2つある。この作品がかなり細やかな群像劇であらすじを詳細に纏めると長くなりすぎてしまうということと、1巻目はなるべくネタバレを踏まずに読んで欲しいという個人的な思いからだ。

 殺し屋の街で繰り広げられる物語だが、そこに出るのは本業だけではない。後ろめたいものに関わる人物も多数登場する。情報屋・警察といった、いかにもイメージしやすい職業の者から復讐屋といったパッと名前を見ただけではどんな職業なのか分からない人もいる。そんな仕事も目的も違う、ただ裏社会に関わる人たちが織りなす群像劇が当シリーズの最大の特徴となる。

 予想外の所で意外な繋がりがあったり、思わぬ伏線があったり。全てを知っている読者だからこそ知る事の出来る真実があったり、それでいて騙される。群像劇の面白さが余すことなく詰め込まれたシリーズとなっている。

 巻数も沢山ある本作だが、基本的には1巻ごとに纏まっている。特に第1巻は電撃大賞の受賞作品ということもあって恐るべき程に綺麗な収束を見せているので機会があればその目で確かめて欲しい。

それぞれのキャラにもスポットを

 人によっては群像劇は登場するキャラが多くて覚えきれないという方もいるかもしれない。実の所、私も記憶力には自信がないので時々苦労している。

 しかし、この作品についてはキャラが覚えにくいということはあまりなかった。1巻目から各キャラに覚えやすいインパクトや職業があるのも一因かもしれない。また、1巻ではカラーイラストで癖の強いキャッチコピーが添えられたキャラクターの紹介があったからかもしれない。だが、個人的にはシリーズとしての視点で見た時に大きな要因があるように思う。

 また、巻数が増えていくと、それぞれのキャラクターに焦点が当たる巻が出てくるのだ。巻ごとに中心となるキャラクターの雰囲気にストーリーを合わせながら。そういうこともあってか、シリーズを追うにつれてキャラクターへの思い入れが強くなっていくのも特徴だ。

さいごに

 美味しそうなタイトルとは裏腹の裏社会群像劇。でも点と点が繋がって最後はどこかスッキリする。群像劇の美味しさセットのようなシリーズだ。群像劇が好きな方は勿論、気になってる方にも味わってほしい1作だ。


 そして何度も書いてきたが、ここでも改めてお礼をしてこの紹介の締めとしたい。木崎先生、並びに『博多豚骨ラーメンズ』に関わった全ての皆様、長い間面白い話を提供してくださって、本当にありがとうございました。或いはご馳走さまでした!

 

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