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古典的、だけど斬新 ~かつび 圭尚『大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?』を読んで~
ライトノベルから体を1歩引いてサブカルチャー全体に視野を広げた時、王道と呼べるジャンルは何になるだろうか? そう聞かれると私は考える間もなく異能バトルものだと答えてしまいそうだ。これといった根拠もないただの趣味でしかないのだが。
この手のものについては様々な能力が入り乱れることが多い。作品内でもたった1つに焦点が絞られることは多くはないだろう。
そういう訳で『大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?』(このタイトルは誤字ではありません。"っ"は10個と公式様が明言しておられます)を読んだ時は異能バトルというよりかはエスパーものという風に感じた。色々なものが飛び交うのも悪くない。だが、1つに絞ることの面白さを『テレつな』で再認識することとなった。
あらすじ
富裕層の子供達が通う高校、その唯一の特待生である有栖川譲と1年間の留学から帰還したばかりの赤坂彼方。は初対面そうそういがみ合っていた。なぜかって? 面識こそなかったがお互いが存在を知っていたのだ──2人の間だけに生じるテレパシーによって。
世間では陰謀論とされる不正能力者だとバレないように日常を送る2人だったがある出来事を境に何者かに真実が漏れてしまい、挙句の果てには誘拐をでっち上げられしまう。全てを切り抜け日常に戻るため、一触即発の逃避行が始まるのだった。
詳細と注目ポイント
1つに絞るからこそできること
それでは詳細について順にみていこう。まずはタイトルにもあるテレパシーについてだ。フィクションに馴染みのある方には不要かもしれないが念には念を入れて簡素な説明を入れておこう。端的に言うと「他人が言葉に出していないが考えていることを読み取ることができる」といったところだろうか。範囲等細かな部分は作品に委ねられているが大まかなことは今の1文で十分だろう。
さて、話が遅くなてしまったが『テレつな』内のテレパシーの話に入ろう。使用者は譲と彼方の2者間のみ。どれだけ距離が離れていても片方の心拍数が上がった時に発動する。この能力のせいでアクシデントが起きたりとお互いかなり苦労している印象が強く残っている。
ここに挙げた以外にも2人のテレパシーについては緻密な設定が練り上げられている。それは感覚的なものもあれば科学的なものもある。特に最も重要になるであろう受信速度については完全に常識の意表を突かれた。
最初はいくら主人公といえどここまで能力の設定を詰め込むのはやりすぎではないのか? と猜疑してしまった。しかし、このテレパシーを中心に物語が展開される様を見て、その考えが真逆の物だと気が付いた。1つの能力だけに焦点を当てるからこそここまで練られたものになったのだと。
いざ逃避行……その前に
本作の帯の売り文句として「青春×SF×逃避行アクション」と記載されている。SF要素はややネタバレになってしまうので皆さんの目で直接確かめていただくとして、ここからは逃避行と青春の方にも触れていくとしよう。
この作品の主軸となるのは予測不能の逃避行劇だがその前の日常パートも欠かせない。今後に向けた布石を散りばめつつも譲と彼方がどういった人物なのかを笑いと共に知ることができる重要なパートだ。怪しい部分はあるもののどういう経緯で起爆するのかが読めず、ドキドキする緊迫した場面もある。それを含んでも思いっきり楽しめた。
更に、このパートがじっくりと展開されたからこそ逃避行中の2人とその周囲の関係性の変化に共感しやすくなると思われる。そういった意味でもこの日常パート無しではこの作品を語る事は出来ないだろう。
もしかすると成長譚
『テレつな』のシリアス部分を支えるものの1つはバックの奥深さかもしれない。巨大企業とその陰に潜むもの、陰謀論とそれを追い求める人々。それらは逃避行中も容赦なく付きまとう。また、近未来の世界観なのに名家云々の古典作品のような設定があるのも珍しい。特に譲の家族の話は今も胸に残り続けている。数としては控えめながらも世界観のほぼ全てを覆いつくしているかのように錯覚させられるカバーの良さを思うと1巻でのまとまりの良さは類を見ない部類かもしれない。
その全ての関わり具合の塩梅もまた興味深かった。全てを程よい感覚でひっかけて譲と彼方の2人の感情に物語を帰結する構造の仕上がりは凄いとしか言いようがない。やりすぎるととっ散らかるリスクもありながら1つの世界観としての完成度の高さには感服させられた。
さいごに
1つ1つの表面上だけだと王道な物語のよう。だが通して読むことで初めて浴びることのできる斬新さ。1巻の情報だけでも深く広い世界観。一応、今後の布石らしきものもあるが、本当に続きがあった場合、ここからどのような広がりを見せてくれるのか非常に気になる1作だった。登場人物の関係性も奥が深いものだから、機会があればまたお会いしたい。
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