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カメラの中に情熱を! ~三船 いずれ『青を欺く』を読んで~

 私は普段映画館に足繫く通う人間ではない。最後に行ったのも数年以上前の話だ。それでも近年の映画の盛り上がりの熱気は頻繁に伝わってくる。興行収入の数値がとんでもないことになってるよ。それに加えて、映画というのは決して映画館で見るとは限らないというのもまた事実。DVD・ブルーレイや地上波での放送は昔からなじみ深く、最近では配信サイトでも見れるという。映画って意外と柔軟性が高いのではないか? なんて思ってしまう。

 今回紹介する『青を欺く』も、映画が中心となる物語である。しかし、先に挙げたそれらとはまた違った形式である。この作品は、高校生達がプロの世界とはまた違う自主製作映画に身を投じる青春ストーリーなのである。


あらすじ 

 城原千太郎きはらせんたろうにはある癖があった。自分が何かに追い込まれた状況を目にしたとき、ウソをついてしまうことだ。例え飛び出たウソがどんなに突飛だろうとも必死になって創り上げた誰かのフリをする。当然千太郎本人もそれは悪いことだと自覚しつつもやめられない、だから癖。

 しかし、千太郎は同じ高校の後輩、霧乃雫きりのしずくにその悪癖を知られてしまう。更に、それを知った雫は自身が監督となる映画の役者になって欲しいと持ち掛けた。

 収益なんてもってのほか。それでもそこには情熱を注ぐクリエイター達の姿があったのだ。

詳細と注目ポイント

そのウソは最早即興劇⁈

 まずはこの作品の鍵と言える千太郎の悪癖について触れていこう。ウソと一括りに言ってしまうと他人を陥れるための行為に過ぎない。だが、ここでのウソというのはまた少し違ってくる。一般的な虚言癖とも別の雰囲気があるのだ。

 これはどこかで聞いた話なのだが嘘をつく時には真実を混ぜる、或いは伝える情報を絞ると良いらしい。とはいっても聞いたのは随分と前の話で明確なソースが示せない上に私の勘違いによる虚偽かもしれないが。だが千太郎の付くウソは完全に彼の想像上によるもの。その中には現実の範囲内で信じるのも無理があるのでは? と疑問符を浮かべたくなってしまうモノもある。(余談だがこの作品は現代に近い舞台設定となっている)だが突如として彼の口から発せられる設定は妙に詳細なこともあってクスリと笑えてしまう。さながら即興劇のようだ。

 更に個人的にミソなのが、千太郎がそれを誇りに思うどころか寧ろマイナスとして認識している所だろう。ちょっとした意外性もありつつ、その上習慣として身についてしまっているというのもあまり見ないタイプで珍しさを感じた。

プロではなくアマの世界

 映画は勿論の事、音楽だったりそれこそライトノベルだったりサブカルチャーのコンテンツ制作を中心とした作品はとても多いように見受けられる。中には高校生がプロの世界に入り込んで……というのもフィクションの中ではよくある事だ。だが本作でメインとなるのはアマチュアの世界。即ち自主製作映画の領域となる。現代のメディア事情も反映され、手軽さが押し出されているのも特徴的だ。

 また、この作品のメインとなるのは高校生活だから、撮影をしながら青春もするというバランス感覚も爽やかだ。このバランスもあってか、予想外の展開になる事もあり、先が予想できなく、それでいて「そう来たか」とワクワクさせられた。

 だからといって素人のやる事だからと軽い感じでもない。練習から撮影までずっと本気で取り組んでいることがしっかりと読み取れる。更には製作規模が小さいため、違う役割同士の人間との関わり合いや、1人1人にもスポットが強めに当たっている。特に、監督の立場にある雫はメンバーの中で1人だけ年下なのだが、そんなことも忘れてしまうぐらい撮影はずっと彼女中心にまわっている。それ以外にも注目所が多い彼女ではあるが、私としてはこの監督としてのスタイルにとても好感が持てる。勿論、役者同士のぶつかり合いや、プロの世界とアマチュアの世界、2つの壁を感じさせる場面もあったりする。

誰にだってウソはある

 主人公はウソつき。そう何度も言ってきたが実はこの作品、他の映画製作メンバーもかなり濃い。全てひっくるめると全員ギャップ差があると言っても過言ではない。それでもみんなが映画という1つの目的のために行動している姿がなんとも気持ちいい。

 また、そんな彼ら彼女らがどうして映画を撮る道を選んだのか、その動機にもご注目いただきたい。それぞれの性格があった上での動機となっているからスッと入ってくるし、ギャップがあるからこそ意外性もある。この辺りはネタバレにもなってくるためこの辺りで留めておこう。

さいごに

 1巻の時点でも満足度が高いのに2巻では更にギアが上がってきて、これぞ映画製作青春ストーリーと唸ってしまった。特にあのラストのまとめ方はズルい。こんなの続き欲しくなっちゃう。編集部の方、ご検討宜しくお願い致します。

 本作は現在(2024年8月時点)既刊2巻で、特に2巻目は丁度夏の時期の話となっている。興味のある方は是非とも彼ら彼女らのアツい青春を目に焼き付けてほしい。いつだって、誰であって、全力で取り組む姿って最高だ。

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