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君の未来が見たくなった【読書感想文】


突然ですけど私、とてつもなくバッドエンドを嫌う人間でして。だって物語の中でくらい幸せであってほしいじゃない。物語にリアリティは求めないのよ。

だからやっぱり読んでいく中でこうなってほしいなあという気持ちが芽生えてきちゃって、結末を予想しにかかるわけですよ。思ってた結末と違うとちょっと不機嫌になります。面倒な女だわ。

さてさて前置きはこのくらいにして。
記念すべき1冊目の感想文です。
たまたま本屋さんで出会ったこのお話。タイトルに惹かれて買ってみました。

瀬尾まいこさんの『君が夏を走らせる』

このお話、何が印象に残ったかって、

私が願った結末ではなかったのに、願った以上の感動を与えてくれたお話

なのです。


あらすじ

ろくに高校に行かず、かといって夢中になれるものもなく日々をやり過ごしていた大田のもとに、ある日先輩から一本の電話が入った。聞けば一ヶ月ほど、一歳の娘鈴香の子守りをしてくれないかという。断り切れず引き受けたが、泣き止まない、ご飯を食べない、小さな鈴香に振り回される金髪少年はやがて-。きっと忘れないよ、ありがとう。二度と戻らぬ記憶に温かい涙溢れるひと夏の奮闘記。
『君が夏を走らせる』

紹介文

『君が夏を走らせる』

読んでいくうちに思った。この「夏」というのは彼自身のことなのだと。

駅伝に燃えたあの「夏」は仲間、そしてこの「夏」は鈴香。背中を押してくれる、いや、正面で待っててくれる「君」がいるからこそ、彼は走ることができる。

「誰かのために走れる君はこれから先、
どこででも、どこへでも、走っていけるよ。」

もしどこかで、16歳の彼に会えたなら、
そう声を掛けてあげたい。


感想

なんてかっこつけて書いてみたけど、紹介文ってかなり難しいね。

もうほんとにいいお話すぎて、読み終わった後思わず抱きしめてしまった。

不良少年と1歳の赤ちゃん。

決して交わることのないように思える2人が、互いの存在を意識しながら、同じ時間を共有し、徐々に心を許しあい、生活している姿が本当に微笑ましかった。

だからこそ思ってしまった。
「2人の時間がもっと続けばいいのに」と。


欲張りなもんで、ついついそんなことを思ってしまったわけなんですよね。

「人生は限りがあるから面白い。限りがあるから頑張れるんやで。」

でも、何かのドラマかアニメかでこんな感じのセリフがあったのをふと思い出した。

そうか。

「ゴールがあるから、思い出は輝くのだ」

終わりがあったからこそ、鈴香と2人で過ごした夏は特別な思い出になったのだ。

だから、
このひと夏の思い出は、

彼が次の場所で走るための自信になるのだろうな。

と思ったけど、それはまた少し違うのかもしれないと思ったりもした。


「大田くんが走るのは、今まで通ってきた場所じゃなくて、これから先にあるってこと。まだ十六歳なんだもん。わざわざ振り返らなくたって、たくさんのフィールドが大田くんを待ってるよ」
『君が夏を走らせる』p

中学の陸上部時代の顧問、上原先生の言葉である。

「走る目的を過去に求めるのではなく、未来で見つけなさい」

「過去に囚われずとも、これから先の未来であなたを必要としている人はたくさんいるよ」

そう聞こえるのは私だけなのだろうか。

このひと夏の思い出は人生を変えるきっかけになったわけじゃない。

このひと夏の思い出はきっと、

彼が人生の中でがむしゃらに走った瞬間の一つにすぎない

のである。


それ即ち、

必要とされる時には、どこででも、
誰かのために駆け出すことができる


という彼の不器用な生き方を表すものなのではないかなと思った。


どこででも走り出せる力を彼は持っている。
誰かのために駆け出すことのできる力を彼は持っている。
これから先の人生、彼は何度でも、誰かのために、どこまでもがむしゃらに走るのだろう。
この夏と同じように。

もし少しだけ願ってもいいのなら、私は次のフィールドでがむしゃらに走る彼の姿が見たい。

君の未来が見たくなったのだ。

願わくば私も、

君のように、誰かのために駆け出せる、

そんな人間になりたい。


実はこの作品、スピンオフ作品なんだそう。

全てを諦め、やらないからできないふりをしている中学生の大田くんに、今度は会いに行きたいな。

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