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懐かしきドバイ②:歴史、体制、イスラム教


前回までの1~4は、以下ご参照願います。

5.歴史・政治体制

今でこそ眩いばかりの摩天楼都市ドバイであるが、かつては漁業や真珠採取で生計を立てる寒村と、遊牧民がラクダと移動する砂漠が広がる地域でしかなかった。
その天然真珠に依存する経済も、日本の養殖真珠の発展でいよいよ追い詰められたところに、1966年に石油が掘り当てられるという神風が吹いた。

実はこの国、石油産出量ではお隣のアブダビが圧倒していて、ドバイのそれは大したことがない。というか、実に少ない。
それを見越していたのか、ドバイはいずれ枯渇する石油の収入に依存せず、地の利を活かし大規模な港湾や造船所を開発し、商業都市として発展させる道を選んだ。その後は更に大空港やリゾート開発にも注力、この地域随一のハブとして急速に発展し、今日に至る。
今に至るまでドバイを治めるアル・マクトゥム王家の先見の明に、改めて敬服するのである。

そしてこの地域の各王族が治める国々:首長国(Emir)が、アブダビ首長・シェイク・ザイードをリーダーとして、アラブ首長国連邦(United Arab Emirates)を結成し英国から正式に独立したのは、1971年のこと。
国家としては、まだまだ若いのである。
現在のUAEは、アブダビ、ドバイ、シャルジャ、フジャイラ、ラス・アル・ハイマ、アジマン、ウム・アル・カイワインの7首長国から成るが、圧倒的な石油とガス産出量が生む富を持つアブダビが兄貴分として、政治・経済を引っ張っている。
UAEとしては、長男たるアブダビが首都機能も大統領職も持つ。
ドバイはあくまで、次男坊なのである。この次男坊って立場が実はミソ。。

6.イスラム教

UAEはイスラム教の国である。
イスラム教って日本人にはあまり馴染みが無く、それどころかアルカイダやタリバンのような狂信的な原理主義者と短絡的に結び付けられ、なんか怪しくて怖い宗教、という先入観があると思う。
しかしながら、中東だけでなくインド、アジア、アフリカに多くの信者がいて、世界人口の1/4以上がムスリム(イスラム教徒)。
イスラム教の教義は人間にとって普遍的価値があるからこそ、これだけ長い間多くの人々の信仰の対象となっているに違いないのだと思う。

イスラム教徒には、「アッラーの他に神は無し」の誓い、一日5回のお祈り、断食、喜捨、メッカ巡礼という義務がある。
その一方で、殺生(当然!決してテロを容認などしてはいない)、偶像崇拝、姦通、飲酒、豚肉を食すこと、利子所得を禁ずる戒律がある他、女性には更に諸々の制約が課されるが、実はこのイスラムの戒律、国や地域によってその運用に実は幅がある。
サウジアラビアなんて大変。厳格な戒律で、当然酒など一滴も飲めないし、宗教警察が町中の至る所で見張って取り締まりを行っているのだ。
一方で、古くから交易を生業とし、往来する外国人にオープンな商人の町として繁栄してきたドバイ。
近代的なインフラの整備のみならず、まさにこれらイスラムの戒律を寛容にすることで、世界中の人が来やすい、住みやすい環境を整えたことが、この町の急速な発展の源と言っていい。

そうは言っても、この地で暮らす以上、イスラム教の慣習と全く無縁ではいられない。ドバイ生活で実感した独特な習慣を記しておきたい。

①週末は木曜・金曜?

イスラム教国では、ムスリムにとっての安息日は日曜日ではなく金曜日で、お休み。
そして週休二日制の場合、前日の木曜日と金曜日が休みとなる。
最新事情は知らないが、サウジ等のように教義に厳格なところは勿論、UAE国内でも「木・金休み」の会社は割と普通にあった。
ところが、さすがに「土・日休み」のグローバルスタンダードとのズレがビジネス慣習上不便なため、商売人の町・ドバイでは「金・土休み」にする弾力的対応が一般的になっていった。
それでもアブダビやシャルジャ等、戒律を重んじる首長国は「木・金休み」が結構残っていて、同じ国なのに地域ごとに週末が違う実態が面白く、不便でもあった。

②お祈りは欠かさずに

1日5回のお祈りの時間になると、「アッラ~フ アクバル~」から始まるアザーンが、町中のモスクから大音量で鳴り響く。
このアザーン、イスラム教の教義たるコーランと思っている人が多いが、実は「さぁ、お祈りに行きましょう」という、単なる呼びかけである。
当然アラビア語で意味は全くわからないが、浪曲調のゆったりした響きは、慣れてくると耳に心地よく聞こえ、イスラム教国にいることを実感する。

お祈りはモスクに行かずとも、どこでもメッカの方向(部屋の天井に印がしてある)を向いて行えばOK。
ショッピングモールやホテル等の公共の場所にはお祈り部屋があるし、オフィスでも時間になると、仕事を中断しその辺に絨毯を敷いて跪き、お祈りする。
お祈りは義務。仕事中であっても、これは邪魔するわけにいかない。
そうは言っても、カタールに出張した際に雇ったタクシーの運転手が、お祈りを理由に運転を一時中断、アポに遅刻する羽目に遭ったのには参った。。
あとお祈り前に手足を清めるのであるが、事務所のトイレの洗面台に足を投げ出して洗うので、どこもビショビショにされるのにも困った。。

③豚肉は絶対ダメ!

イスラムの戒律は食事にも及び、肉であればハラルと呼ばれる手順で屠殺・処理されたものだけが、食することを許される。
それでも、豚は不浄の動物とされ、これを食べることは最大のタブー。
どこのレストランでも、豚肉を材料とするメニューは存在しない。
味や臭いがどうこうではなく、穢らわしいものという扱いであり、空港の税関で持ち込みがバレると没収は勿論、あっちへ行け、シッシッと追い払われる。
豚が使えなくて最も困るのは、おそらく中華料理だろう。ドバイにも中華料理屋は数多くあったが、どんな高級店でも「豚なし中華」は何とも味気ないもので、イマイチ美味しくなかった。

ところが、そこは寛容なドバイ。一部に例外があるのである。
ムスリムが食すものときちんと隔離できれば豚もOKということで、別の厨房で豚肉を調理し提供するレストランや、売り場の奥の目立たぬ片隅に豚肉コーナーを設けて販売するスーパーもあり、非ムスリムはこれを利用できた。
欧米人向けにハムやウインナーの類は売っていたが、日本人好みの薄切り肉は一部の店しか扱っておらず、鮮度も決して良くなかったが、無いとわかると無性に食べたくなるもので、頻繁に買って家で料理に使っていた。
こんな生活を経験すると、日本の肉屋やスーパーで売られる豚肉がなんと綺麗で美味しそうに見えること!
しかも安い。高い牛肉なんて買う必要ない、と思うくらいである。

④お酒は。。

飲酒もタブーである。
町のレストランにアルコールメニューは無いし、酒はお店でも買えない。
実際、アラブ人たちの息抜きの場は居酒屋やバーではなくて、スタバのようなカフェであり、飲むのはコーヒーやジュース。
恰幅の良い白装束姿で、髭を蓄えた濃い顔立ちのアラブ人が、いちごミルクのようなものを飲む姿を、これぞ男の中の男!と、微笑ましく見ていたものである。

サウジ等の戒律の厳しい国や、UAEでも一部の首長国では、お酒はほんとに一滴も飲めない。
ところが、そこはドバイ!ちゃんと抜け道があるのだ。
政府に許可を得た飲食店では、酒を提供しても良いことになっている。
実際、ホテルのレストランやバーでは、普通にお酒が飲める。
尚、よくお世話になったある日本料理屋は無許可であったが、ビールをこっそり奥で湯飲み茶碗に注いで提供していた。バレると営業停止に追い込まれるのでハラハラものであったと思う。
あと、昼間は閉まっててパチンコの景品交換所みたいで目立たないが、実は酒屋は存在する。
外国人もリカーパーミットという許可証をもらえば、一定量は酒を買える。
アラブ人も人前では飲まないが、実はこういう店でお酒を買って、家ではこっそり飲んでいるのだろう。
下戸の私はパーミットは持っていなかったが、その購入枠はお好きな方には全く足りない量で、あまり意味が無いらしい。
なので、闇のマーケットが生まれる。当時聞いたところでは、ドバイから車で2時間程のアジマンという鄙びた首長国の町に闇の酒屋があり、日本のビールなんかも買えたらしい。
但し、アジマンからドバイに至る道は、戒律にうるさいシャルジャ首長国を通過せねばならず、運悪く検問で全て没収された人もいたようだ。
当然、空港の税関の荷物検査で外国から持ち込んだ酒が見つかれば、没収される。出張者が中東在住者に気を遣って高い日本酒を持って来てくれたりするが、ありつけるのは運良く見つからずに済む場合のみである。
それなのに、ドバイ空港の免税店ではあらゆるお酒が堂々と大量に販売されていて、ここで買ったものなら何本でも持ち込めた。矛盾に満ちた笑い話。

⑤女性に関して

イスラム教は男尊女卑的なところがあるのか、女性への制約は多い。
ムスリムの女性は肌と髪の露出が許されないため、頭にはヒジャブという頭巾を被り、アバヤというつま先まで届くベールのような黒装束をまとう。
中には忍者や黒子のように目だけ出して顔全体を覆ったり、ブルクァという仮面みたいなものを被っている女性もいる。
エレベーターのドアが開いた瞬間、こんな服装の女性の集団と出くわしたりすると、一瞬のけぞってしまったりするのである。
昨今コロナに伴い「マスク美人」なる言葉を聞くが、中東の地で当時よく見た、派手めの化粧を施した目だけを露出する黒装束の女性の姿は、たいそうな美人を連想させたものである。
そしてアバヤの袖からは、いくつもの金のブレスレットを着け、ヘナと呼ばれる落とせるタトゥーが描かれた腕がチラッと見えたりして、エキゾチックな雰囲気を醸し出していた。
尚、女性が写真撮影されることもタブーで、一度無意識にアラブ人のご夫婦にカメラを向けてしまいご主人にたしなめられたことがあった。くれぐれもご注意。

女性に関しての制限と言えば、性を売り物にするアダルトものは一切禁止。
町の書店にエロ本は一切無いし、雑誌のきわどいグラビア写真のページは切り取られるか、黒塗りされている。
映画やテレビ番組も、ラブシーン等の危ない場面は編集でカットされる。
当然、インターネットの検閲も厳しい。アダルトコンテンツのウェブサイトは完全にブロックされる。直接的な画像が出ない出会い系サイトなども、どういうわけかダメだった。
その徹底ぶりに感心しつつ、誰がどうやってチェックしているのか、と不思議に思ったものである。

実は、なんとこちらにもドバイならではのお目こぼしがあった。
いわゆる女性の「夜の商売」は建前上存在しないが、それを目的とする男女が集まるナイトクラブがあり、そこから部屋への「お持ち帰り」を黙認するホテルもあった。
尚、そういう店は通報を受けた警察によるガサ入れで潰れては、ほとぼりが冷めた頃に復活、を繰り返していたらしい。今はどうだか知らない。
ほんとにほんとの話、私自身は一切やらなかったが、全て出張者や取引先の知人から聞いた話です。

#行った国行ってみたい国

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