【詩】イヤホン

その子は、音楽を聴くようにしか世界を捉えることができなくて、だからわたしは、その子と世界を繋ぐ唯一の架け橋だった、だなんてそう思っていたのに、次の日にわたしは抽斗の奥底にしまわれて、それからは、わたしそっくりのわたしの代わりが、その子のすぐ近くにいた。きっと消耗品だから値段が付くんだ、値札の貼ってあるすべてのものは、とわたしはそのとき知って、でもその子はずっとそれを知らないままだから、きっと、液晶を隔てて画面を覗き込むみたいに、周囲を流れ続ける音楽をただ聞き流すみたいに、そのまま生きてゆく。繋ぎとめることなんて、その子には本当にどうでもよかったんだろうね、いや、わたしだって本当はそんなことどうでもよかったんだ。断線して、音がぜんぶ途切れ途切れになって、わたしは終わって、土に還って、値札もつかない、それがきっと理想で、自分から死ぬひとはきっと、もう世界と繋がりたくないと思うから死ぬのだ。
死ぬことでしか、プライスレスになんてなれないよ、世の中、値切るのが上手いひとばかりだから。以上、税抜き100円の戯れ言でした。


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