1 水中花火

その花火は、水のなかを足掻くように弾けている。
それも長らくその光は、なにかを主張するように迸っていて、なかなか消えてはいかない。そんなこともあるのだと僕は思った。
それは、炎タイプは水タイプに弱いという常識を軽く覆していた。拝啓、そのときだけ友達だった岩下くん。足首に、優しく撫でるような冷えた海水を感じながら、僕は、もう少しだけ生きてみようと思った。自分の周囲で、まだこんな珍しいことが起こっているのなら、それは僕に、まだ生きていろということだろう。そうして、僕を駆り立てていた激しい衝動もしきりに覚めてしまって、僕は砂浜を後にする。そのとき、頭上で擘くような破裂音が聞こえてきた。
打上花火・・・。水面に映る閃光がちらちら揺らめき、生命のように灯り続けている。ずっと下を向いていたから気が付かなかったのだ。僕の周りには、珍しいことなんて何ひとつ起きていなかった。

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