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今回から助詞です。まずは終助詞「ばや・なむ(希望)な・な~そ(禁止)な(詠嘆)よ(呼びかけ)」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。この回の終わりに、助詞について、これだけは覚えてほしいと思うことを添付してあります。 古文単語 その50★世の中よ うませる医者に 流す医者 ★吾輩の尊敬する尻尾大明神を礼拝してニャン運長久を祈らばやと夏目漱石

今回から助詞です。まずは終助詞「ばや・なむ(希望)な・な~そ(禁止)な(詠嘆)よ(呼びかけ)」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。この回の終わりに、助詞について、これだけは覚えてほしいと思うことを添付してあります。目を通してください。 古文単語 その50

★世の中よ うませる医者に 流す医者

★吾輩の尊敬する尻尾大明神を礼拝してニャン運長久を祈らばやと
夏目漱石

○ 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず 

      千載集八八四 

(終助詞ばや願望 自分の希望)動詞・助動詞の未然形に付く。接続助詞「ば」に係助詞「や」の付いたもの・自分の行為につき、その実現を希望していることをあらわす。「~できたらなあ」「~したいなあ」

見す ミセル 下二段
ばや 希望 終助詞 未然形接続・短歌の主語は「私は」私はあなたに袖を見せたい 私は涙を流しすぎて血の涙が出て、涙を拭く袖の色が変わっている。私に冷たいあなたに、涙で濡れている私の袖を見せたい
な(詠嘆・終助詞 コトヨ)
あま(海女・漁夫)の袖
だに(副助詞・デサエ)
濡る(ぬる・下二段)
に(連用形と連用形の間・格助詞・ノ上ニモ ひどく濡れても)
し(き・過去の助動詞・連体形 連用形接続)
色は あまの袖の色は
かはる 四段
ず 打ち消し 未然形接続
かわらないのに、私の袖の色は変わっていることが言いたい

○ 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの 御幸 待たなむ   

   
拾遺集一一二八 

(終助詞なむ願望 他への希望) 未然形に接続し、 話しかける相手に対し「~してほしい」という希望の意。「なも」が古代の形。

小倉山(京都のはずれの嵯峨にある嵐山の反対側の山 近くに大井川が流れている 藤原定家が、この山に別荘を建て、この場所で小倉百人一首を選び、名付けたわけです)
峰のもみぢば 名詞で切れている場合、「紅葉の葉よ」と言ったふうに呼びかけの形にするとわかりやすい
心あらば(風流のわかる心が、紅葉の葉にも人間と同じように)あらば(ラ変あり未然形プラスば・あるならば)
みゆき 天皇の行幸・天皇の外出・子供の醍醐天皇に見せてやりたいので
待たなむ(四段待つ未然形プラス終助詞なむ願望・未然形に接続する・待っていて欲しい・その美しい葉を散らさないでほしい)
菅原道真のたたりで、藤原氏一族がどんどん亡くなっていく中での生き残りが作者の忠平です。醍醐天皇の父親の宇多法皇の眼前の紅葉への気持ちを代弁して、作っているというわけです。

○注意
あらなむ 「あってほしい」の意。「なむ」は希望の助詞。
ありなむ 「きっとあるだろう」の意。「なむ」は「ぬ・完了強意・未然形」プラス「む・推量意志」

○飽かなくにまだきも月の隠るるか山の端にげて入れずもあらなむ


古今集
まだ飽きてはいないのに早くも月が隠れるのだろうか。山の尾根が逃げて月を入れないでいてほしいものだ。

○ 冬の池に 住むにほ鳥の つれもなく そこに通ふと 人に知らすな  

  
古今集六六二  
(終助詞な 禁止)終止形に付いて、「~するな」と禁止する意をあらわす。

にほ鳥の→カイツブリ・群れで水面を泳ぎ回るカモ類の隙間に、時々現れてはさっと消えてしまう、小さなカイツブリと呼ばれる鳥がいます。いつの間にか現れ、気がつくと消えて、別のところにまた現れ、まるで忍者のように群れの隙間に出没します。潜ってから数十秒以上は出てきませんし、思わぬところに浮いてきてはすぐ潜ってしまいます。潜水が得意なことから、「潜る(隠れる)」、「浮かぶ」、「息長川(息が長い)」などの枕詞でも使われるようです。
の 格助詞・ノヨウニ
つれもなく(連れも無し・たった一人で連れがいなくて・情(つれ)もなし・知らないふりをする)
そこ(底・其処(彼女の所) 貴方の所に通っていると)
人に・知る 四段・す 使役 未然形接続
な 禁止 終止形接続
冬の池に棲む鳰鳥は雄と雌の仲が良く、水に潜るの得意な鳥だが、いまは連れ合いもなく、一羽だけで水に潜って魚を捕っているけれども、私が素知らぬふりをしてそこに通っていると人に知らせるな。

○こちふかば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな


拾遺集
(春になって)東の風が吹いたならば、その香りを送っておくれ、梅の花よ。主人がいないからといって、春を忘れてくれるな。

○ 吹く風を なこその関と 思へども 道もせに散る 山桜かな  

  
  千載集一〇三 

(な~そ・ドウカ~ナイデクレ)副詞「な」を伴い、「な~そ」の形で禁止をあらわす。

吹く風を 吹く風に対して
なこそ  来(く)の未然形が「な~そ」の間にはいっている。風が吹く。勿来の関(福島県にあった関所)な死にそ(な~そ・原則は連用形をはさむ・死なないでくれ・カ変とサ変は未然形に接続・なこそ・なせそ)そんなに吹いてくれるなと
思ふ 四段
ども 接続助詞 ケレド 已然形接続・思うのだけれど
道もせに(狭し せし セマイ 形容詞の語幹・に 格助詞・風が吹いてきて道も狭いほどに・勿来の関所だから風をせき止めてくれるかと期待していても、全くその反対に風が吹いていて
散る 四段 連体形
かな 詠嘆 ダナア「来る勿(なか)れ」という名の勿来の関なのだから、吹く風も来ないでくれと思うのだが、道を塞ぐほどに山桜の花が散っているよ。
後三年の役を平定したものの、この戦いは個人的な戦いとみなされ、義家は朝廷から功賞を得られません。「天下第一武勇の士」と賞讃された義家は、そこで私財を投じて部下たちをねぎらったといわれています。義家の玄孫(孫の孫・やしゃご)である頼朝の代に見事にこの無念が報われることになります。

○ 花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせし間に 

          古今集一一三  

(な 詠嘆)語句の切れ目について念を押す気持や詠嘆をあらわす。終止形に付くが、命令形に付くこともあり、また係り結びに続く場合、連体形・已然形に付くこともある。 

平安初期に絶世の美女と言われた小野小町が作者です。今でも美人を「~こまち」というのは彼女がルーツです。深草少将が百日目のプロポーズの日に、彼女に会おうとして雪の中で凍死した話は有名です。
花の色(桜の花の色・自分の美貌の様子)
にけり(けしきたの上の「に」は完了「ぬ」の連用形・けり過去詠嘆)
いたづらなり(形容動詞・むだである・むなしい)
世に(世・生活している現実世界・男女の仲)
ふる(雨が降る四段・男女の交際を経験している・経・下二段 連体形)
ながめせし(ながめ・長雨・長雨をながめている・ながむ・物思いに沈んでぼんやり見る・せ サ変・し 過去のき連体形)
春が終わってしまう。青春が終わろうとしている、花の色が色あせていく、自分の若さ、美しさも消えていく、長雨が続いている、恋に疲れている

○ 憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ 激しかれとは 祈らぬものを   


  千載集七〇七

(よ 呼びかけ) 体言に付き、それが呼びかけの対象であることを示す。

憂かりける(憂し・形容詞 連用形つらい・恋人の私に対して冷たい・けり・過去詠嘆)
人(短歌の人は「愛人・いとしいあなた」)
初瀬(長谷寺・観音像があり、おそらく作者は恋人が自分のことを愛してくれるように祈ったのであろう。)
激しかれ(激し・形容詞の命令形・あの人の冷淡さがますます激しくなれ)
と 格助詞・は 係助詞
祈る 四段
ぬ 打ち消しの「ず」の連体形

ものを・ものの・ものから・ものゆゑ

(接続助詞 連体形接続 のになあ・のだけれど・ので)

参考  恋しとよ 君恋しとよ ゆかしとよ、会はばや、見ばや、見ばや見えばや 

       梁塵秘抄   

とよ・もよ(助詞との結合例 連語 と思うことですよ だよ だなあ)
恋し 形容詞 ナツカシイ コイシイ
ゆかし 形容詞 見タイ 聞キタイ 知リタイ
会ふ 四段
ばや 希望 終助詞 未然形接続
見る 上一段・君が恋しいよ、君の事を知りたいよ、会いたい、会いたい、君に会いたい
梁塵秘抄   今様(平安時代の歌謡曲)
白拍子(ミュージカルダンサー)傀儡師 (くぐつし 旅芸人の集団)などの中世のタレントや下層民に歌われる流行歌が好きだった後白河法皇が編纂したらしい。

○助詞と助動詞につい

助詞と助動詞は単独で 文節 (「文節」とは、意味をこわさない程度に短く区切った文中の一区切りの言葉) をつくることができない ため付属語に分類されています。

助動詞と助詞との大きな違いは活用の有無であり、助動詞には活用があります。

文節とは  文を実際の言語として不自然でない程度に区切った最小の単位ということですが、中学校で習っていますよね。

日本語は 文章、段落、文、文節、単語  というように五つにわけて考えることになっています。
「明日は雨が降ると思うよ」を文節にわけると「明日は /雨が  /降ると 思うよ  」

「明日」は単語 「は」も単語 「明日は」のことを文節と言います。

(明日)という語句は、

この語句だけで意味がわかりますし、「明日 出かける」のように、この語句だけで文節を構成します。

しかし「は」という語句は、

この語句だけでは文節を構成できません。
明日という語句に付属することで、意味が生まれてきます。このような語句を付属語と呼ぶのです。

助詞の簡単な説明をします。「ふ~ん」と眺めてください。

助詞とは付属語で活用がない単語で、はたらきや接続などより、以下の六種類に分類されています。

格助詞

…体言や活用語の連体形について、下の文節に対して関係を示す。  [が の を に へ と より から にて して]
☆  覚えかた  (道)にて問へ 鬼が 野より (声を) からして  

接続助詞

…活用語について、上下の文節の接続を示す。  [ば とも ど ども が に を て して で つつ ながら ものの ものを ものから ものゆゑ]
☆  覚えかた  鬼どもが 友と 土手に 出ながら 出刃を 手にして ものから ものを ものゆゑ 煮つつ  

係助詞

…様々な語について、ある意味を添えて、文末に特定の言い方を決定させる。  [は も ぞ なむ や やは か かは こそ]
☆  覚えかた  連体形 ぞ 焼かなむ こそ已然の はも終止  

副助詞

…様々な語について、ある意味を添えて、下の用言を修飾する。
 [すら だに さへ のみ ばかり まで など し しも]
☆ 覚えかた  ダニすら(死ぬ)まで(酒)さへ(酒)ばかり 飲み など し

終助詞

…文末について、禁止・願望・詠嘆・強意などの意味を添える。
 [な(詠嘆) な(禁止) そ ばや なむ てしが てしがな にしが にしがな がな もがな か かな かし]
☆ 覚えかた  金貸しな 鴨南 そば屋が 夜がなかな

間投助詞

…文中について、語調を整える。[や よ を]
☆ 覚えかた  親よ 感動せよ 詠嘆呼びかけ

○全ての助詞をマスターしようなどと言った学習は やめた方が良いでしょう。(専門分野に進もうとする方は、どんどんおやりになれば良いですが)

よく入試等の問題に取り上げられるものは決まっています。個々の用法等は、多くの古文に触れることで、少しずつ自然に覚えますし、国文学者になるのでなければ、 全て覚える必要もありません。

☆ 助詞について 受験生なら、これだけは覚えるべきだと思えることをあげてみます。

① まず副助詞(し・のみ・ばかり・まで・など・だに・すら・さへ)を覚える

   ☆ 覚えかた ダニすら(死ぬ)まで(酒)さへ(酒)ばかり 飲み など し

②  係助詞 ぞ・なむ・や・か→連体形 こそ→已然形  は・も→終止形 を覚える

③ あとは機械的に処理します。


名詞に 付いていたら、格助詞。
文と文を つないでいたら、接続助詞。
文末に あったら終助詞。


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