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助詞を含めて「連体形の用法・係助詞・より・こそ~已然形・こそあらめ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その54★ぬれぬさきこそ つゆをもいとえ(厭え)★今こそ別れめ いざさらば

助詞を含めて「連体形の用法・係助詞・より・こそ~已然形・こそあらめ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その54

★ぬれぬさきこそ つゆをもいとえ(厭え)

★今こそ別れめ いざさらば
(む・推量意志・已然形・め)


★ぬれぬさきこそ つゆをもいとえ(厭え)

体が乾いているときは、少しでも濡れないようにと露をも避けようとするが、いったん濡れてしまえば、濡れることなどかまわなくなってしまう・一度過ちを犯すと、もっとひどい過ちを平気で犯すようになる・最初は夫に内緒でメールをするくらいの仲だったが、あっというまに恋愛関係に陥って、今では毎日のように不倫を重ねている

○春の色の いたりいたらぬ 里はあらじ 咲ける咲かざる 花の見ゆらむ 

       古今集九三  名詞を補う
詠み人知らずの歌である。作者の疑問がおわかりだろうか。
春の色の(格助詞の主格・春の気配が)
いたりいたらぬ里はあらじ(四段いたる連用形プラス四段いたる未然形プラス打ち消し「ず」連体形プラス里プラスラ変あり未然形プラス打ち消し推量じ終止形・春の気配が及んでいる里と、及んでない里というような差などないだろう。)
咲ける咲かざる花の見ゆらむ(四段咲く已然形プラス完了存続り連体形(下に名詞を補う)プラス四段咲く未然形プラス打ち消し「ず」連体形プラス花プラス格助詞の主格ガプラス下二段見ゆ終止形プラス現在推量らむ連体形・連体形止め・どうして咲いている花も咲いていない花が見えるのだろう)

○ 花の散ることやわびしき 春がすみ たつたの山の うぐいすの声 

            古今集一〇八  係り結び
わびしき で意味がきれています。春がすみ と わびしとは関係ありません。歌合わせの席上で作っています。
散ることやわびしき(係助詞や疑問プラス形容詞わびし(失望、困惑、苦痛、悲嘆の気持ち・わびしは、物事が思うように行かずに困惑したり落胆したり、やるせない気持ち)連体形・やの結びの連体形・桜の花の散ることが辛いのか)
竜田山のウグイスの声(たつたのやま、竜田山は現在の奈良県生駒郡三郷町の西方の山で、紅葉の名所・春霞の立つ、という名のついた竜田山で鳴くウグイスの声の響きは)

○ み吉野の 山の白雪 踏みわけて 入りにし人の おとづれもせぬ

        古今集三二七   連体形止め
雪の吉野にはいった人が作者の友人であるならば、その友をおもいやり、別離の悲しみを思い、詠んだ作品であろう。
み吉野の(接頭辞み・吉野の(奈良県吉野には俗世間を逃れた貴族達が別荘を構えていた)
山の白雪踏みわけて入りにし人(上一段入る連用形プラス完了ぬ連用形プラス過去き連体形プラス人・白雪を踏みわけて入ってしまった人が)
おとづれもせぬ(下二段おとづる→音を立てる・訪問する・便りをする・安否を尋ねる・おとづれ(連用形の名詞化)係助詞も・サ変す未然形プラス打ち消し「ず」連体形→連体形止め→便りもくれないことよ)

○なぜここで連体形が使われているのかと思ったら、どうするか。


①適当な名詞を補うことで意味が通じるか
②係り結びではないか
③文末で感動をあらわそうとしていないか
④主語の末尾 そのままの形で名詞と同じ働きをして主語になってはいないか。

○係助詞には、その強さに差があり、最弱の「は・も」は無視されることが多い。


係助詞のか・や  疑問と反語 係助詞 最強の「こそ」
中強の「ぞ・なむ・や・か」
最弱の「は・も」

○係助詞をどう扱うか。


花や 咲きける   
① 係助詞を(  )に入れて、無いものと考える。
② 文末の結びを終止形にする。 花 咲きけり
③ 「や・か」なら、疑問か反語かを考える。
④ 助詞を補って訳す      花ガ咲いたカ

○古文で見られる疑問文の形の整理


パターン1 
係助詞「や・か」がある場合 → 花や 咲きける。
ア 疑問なら 花が咲いたか
イ 反語なら 花が咲いたか。いや咲いてない。
ウ 詠嘆なら 咲いたなあ

パターン2
「いか」のつく語 →いかに・いかで・いかなる・いかが
「な」のつく語  →なぞ・なんぞ・などて・なにしに・なにか・なにかは
「いづ」のつく語 →いづら・いづち・いづこ・いづく・いづへ
いかなるものぞ よからむ
ア 疑問なら どんなものが良いのか
イ 反語なら どんなものが良いか、いやどれも良くない
ウ いかなるものも良からむ→ どんなものでも良いだろう

○ 世の中は 何か常なる 飛鳥川 きのふの淵ぞ けふは瀬になる    

   
古今集九三三 

(疑問か反語か か係助詞)疑問・反語をあらわす。連体形で結ぶ。

 生まれ、死んでいく人の世界は移り変わりが激しい、それに比べ、自然は悠久の姿、いつも同じ姿を見せているはずだ。がしかし、その自然ですら、無常には逆らえないのかとの古代人の思いだろうか。詠み人知らずの歌です。
世の中は何か常なる(何か。係助詞か疑問・常→無常の反対・不変なもの・無常→世の中はとどまることなく移り変わる。諸行無常・生あるものは必ず滅びる・断定なり連体形。かの結び・この世の中は、いったい何が不変なものであろうか、何一つ不変なものはない。)
飛鳥川(奈良県を流れる大和川の支流・雨量による水流の変化を起こしやすい。水かさも多く、時には氾濫することもあったようだ。自然は人事に比べて変化は少なく、その変化も緩やかであるはずである、その飛鳥川が・明日という名を持つ明日香川も)
きのふの淵ぞ けふは瀬になる(昨日、水のよどんだ深いところであった場所が、今日は流れの速い浅瀬に変わっている)

○ 風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 君が心か

      
古今集六〇一 

(詠嘆か終助詞)「か」は疑問・反語・詠嘆などの意をあらわすとされるが、実際にはこれらのいずれとも区別し難い場合が多い。

官位は低い作者ですが歌人としては当時から有名で多くの歌合わせに参加しています。作者は男性ですので、無関心な相手の女性への切ない思いがテーマでしょうか。
風吹けば(四段吹く已然形プラスば・風が吹くと)
峰に別るる白雲の(峰→山は平地より高く隆起した地塊、岳は山が連なりそびえるさまを表し、高く険しい、峰は山の中でひときわ高くなっている場所・今まで峰にあった白い雲が風により離れていく・一緒にいた恋人が離れていく・風が吹くと峰から離れて行く白雲が吹きちぎられて絶えてしまう)
絶えてつれなき君が心か(絶えて(絶ゆ)・たへて~ず→全ク~ナイ・形容詞つれなし連体形・君が心か→格助詞が連体格・終助詞 か詠嘆・その「白雲」のように、あなたとの関係がすっかり途絶えてしまった。なんと無常なあなたの心であることよ)

○ 植ゑし時 花待ちどほに ありし菊 うつろふ秋に あはむとや見し

 
     古今集二七一

(疑問か反語か や係助詞)質問・疑問をあらわす。相手あるいは自身に対し呼びかけ、問いかける気持を伴うことが多い。自らに問いかける疑問をあらわす。直後に述べる事実の根拠について推測する時に用いられる、特殊な語法。詠嘆や反語の意を伴うこともある。

大江千里は学者としては有能でしたが、何かの事件に関係して罪を得たのか、官位としての出世はなく不運でした。
植ゑしとき(ワ行下二段→植う・飢う・据う 三語を覚える・下二段植う連用形プラス過去き連体形プラス時・植えたとき)
花まちどほにありし菊(形容詞まちどほし語幹プラス断定なり連用形プラスラ変あり連用形プラス過去き連体形プラス花・花の咲くのが待ち遠しかった菊)
うつろふ秋に(四段うつろふ連体形・「うつろふ」には、「移動する」「時間が経過する」「色があせる、さめる」「心変わりする」・季節は移ろい、花のしおれてしまう秋に)
あ はむとや見し(四段あふ未然形プラス推量む終止形プラス格助詞とプラス係助詞や疑問プラス上一段見る連用形プラス過去き連体形・やの結び・会うと思っていただろうか。思いもしなかったよ。)

○形容詞には語幹だけの用法がある


①感動で終止 幼し あな おさな
②助詞の連体修飾 憎し にくの男
③~げ~さ~み名詞化 うしろめたし うしろめたさ
④~み原因理由 はやし 瀬をはやみ

○ わが恋は み山隠れの 草なれや しげさまされど 知る人のなき  

 
   古今集五六〇 

(間投助詞や詠嘆)体言に付いて呼びかけの対象であることや詠嘆を示す。

歌合わせの時に、身分の高い方への自分の秘めた恋心を知ってもらおうと作った作品だと言われています。相手の女性はきっとわかったのでしょうね。
我が恋はみ山がくれの草なれや(深山・みやま・断定なり已然形プラス間投助詞や(詠嘆・呼びかけ・をやよ)私の恋は、山かげに生えている草であるからであろうか)
しげさまされど(しげさ・思いの絶え間のなさを草の繁る様子に重ねる・四段まさる已然形プラスど・いよいよしげくなっているけれども)
知る人のなき(格助詞の主格ガ・形容詞なし連体形・「の+形容詞連体形」の詠嘆用法で連体形止め・知ってくれる人もないことであるよ。)

○ さくら花 咲かば散りなむ と思ふより かねても風の いとはしきかな

     後拾遺集八一

(格助詞よりニヨッテ・トスグニ)動詞の連体形に付いて、「~するとすぐ」「~するやいなや」の意をあらわす。

鳥羽院の中宮に仕えた女官でしたが夫と死別後、子どもは養子に出し、自分は出家し尼となりました。西行法師と親交があったようです。
櫻花咲かば散りなむと(四段咲く未然形プラスばプラス四段散る連用形プラス完了ぬ未然形プラス推量む終止形プラス格助詞と・桜の花は咲けば、きっとすぐに散ってしまうだろうと)
思ふより(思うことから・思うことによって・思うとすぐ)
かねても風のいとはしきかな(かねても・前もって、風の吹かないうちから・形容詞いとはし連体形プラス終助詞かな詠嘆・風が好ましくない感じがすることだなあ)

○ もろともに あはれと思へ 山ざくら 花よりほかに 知る人もなし 


     金葉集五五六 

(格助詞より比較の基準)体言に付き、比較の基準を示す。活用語の連体形に付く

作者は十歳で父と死別し、十二歳で僧侶になるために三井寺にはいりました。その後、修行を重ね三井寺の最高責任者となります。山伏として修験道に励み、高山の上で作った作品のようです。
もろともにあはれと思へ山桜(もろともに・どちらも一緒に・あはれ(名詞・しみじみと心にしみること、なつかしいこと)お前のことをしみじみと思う私と同じように、お前も私のことを懐かしく思え、山桜よ)
花より他にしる人も無し(こんな寂しい山の奥ではお前以外に、孤独に耐えて修行を続ける私の心を知る人はいない・加持祈祷の呪力を身につけようと、僧である作者は山岳に分け入り修行中の身であった)

○ 秋風に たなびく雲の たえ間より もれ出づる月の 影のさやけさ

 
    新古今集四一三

(格助詞より動作の起点)体言に付いて、動作の起点となる場所を示す。「~から」「~より」

平安時代、現在の茶道などと同じように和歌にも家元制度というものがありました。作者の父が起こしたものが六条家です。作者は二代目当主として力を振るいました。後に京都の左半分を管理する左京大夫にまで出世します。
秋風に たなびく雲の たえ間より(「に」は原因を示す格助詞ニヨッテ。四段たなびく連体形・横に長くひく・秋風に吹かれて、横長に伸びてただよう・絶え間「とぎれたその間」・格助詞「より」ここから、という起点)
もれ出づる月の影の さやけさ(下二段もれ出づ連体形・こぼれて射してくる・月の影→月の光・さやけしの語幹プラスさ名詞化・澄みわたってくっきりしていることよ・清らかなことよ)
☆現在と同じ意味の影以外に「かげ」には「光・姿」という意味がある。

○係助詞のちから関係


係助詞 最強の「こそ」  
中強の「ぞ・なむ・や・か」  
最弱の「は・も」


○ 山里は ものわびしきこと こそあれ 世の憂きよりは 住みよかりけり 

      古今集九四四 

(こそ已然形下に続く 逆接)「こそ」と已然形との係り結びで逆接の条件句を作ることがある。

源頼行の娘が、この歌をもとに歌を詠んでいます。「山里は世の憂きよりも住みわびぬ ことのほかなる峯の嵐に」山里は実際住んでみると、もっと住みづらく思える。峰を吹き渡る嵐は、思いもしなかったほど侘びしくて という意味。詠み人知らずの歌です。
山里は ものわびしきこと こそあれ(山里はいろいろ心細いことがあるけれども・逆接の条件の句)
世の憂きよりは住みよかりけり(形容詞憂し連体形・憂きコトよりは・形容詞良し連用形プラス過去詠嘆けり終止形・世の中が思うようにならないことに比べたら、それより住みよいことですよ)

○ きのふこそ 早苗とりしか いつのまに 稲葉そよぎて 秋風の吹く 


     古今集一七二

(こそ已然形 ノニ)

目の前の稲穂の実る田から、以前見た田植えの時の水田のイメージを浮かべ、時の流れを感じさせています。さらにさわやかな秋の風の訪れを描き、澄み切った青空さえ見えるようですね。詠み人知らず。
きのふこそ早苗取りしか(早苗取る(若い苗を苗代から田へ移し替える)こそ已然形・「しか」は過去の助動詞「き」の已然形・つい昨日、早苗を取って田植えをしたばかりだと思っていたのに)
いつのまに 稲葉そよぎて 秋風の吹く(いつの間にか稲葉がそよいで、秋風が吹いている。季節の移り変わりの何と早いこと)

○ 恋すてふ 我が名はまだき たちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか   

     拾遺集六二一

(こそ已然形 ノニ)

平兼盛の「しのぶれど 色に出でにけり わが恋はものや思ふと 人の問ふまで」という歌と、右の歌が歌合わせで勝負となりました。審判は兼盛の勝ちとし、作者は悔しくて拒食症になり亡くなってしまったそうです。
恋すてふ(恋すと言ふ・てふ チョウと発音)
我が名はまだきたちにけり(我が名・私の評判、うわさ・まだき(その時がきていないのに早くから・未だ・早くも、もう・朝まだき→夜が明けきらないこと・四段立つ連用形プラス完了ぬ連用形プラス過去詠嘆けり終止形・噂が世間に立ってしまったことよ)
人しれずこそ思ひそめしか(下二段知る未然形(知られる)プラス打ち消し「ず」連用形プラス係助詞こそプラス下二段思ひ初む連用形プラス過去き已然形・他人に知られないように思いはじめていたのに)

○ 夢にだに 見えばこそあらめ かくばかり 見えずしあるは 恋ひて死ねとか

    万葉集七四九

(こそあらめ・シヨウガナイケレド・良イダロウケレド) 格助詞・副助詞・接続助詞などの後に付き、その意をつよめる。

大伴家持の歌です。夢に人が現れるのはその人が自分のことを深く思っているからだと信じられていた時代です
夢にだに(相手の思いがこちらの夢に現れると、信じていた・夢に人が現れるのはその人が自分のことを深く思っている・ 副助詞だに強調)・せめて~だけでも)
みえばこそあらめ(下二段見ゆ未然形プラスばこそ・~ならば、きっと~・ラ変あり未然形プラス推量む已然形・こその結び・…ならばいいだろうが、…ならばともかく)
かくばかり(かくコノヨウニ・ばかりグライ・ホド・ダケ・これほど)
見えずしあるは 恋ひて死ねとか(見えないということは恋い死にせよというのだね きっと)

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