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終助詞の「かな・も・かし・ぞかし・もが・もがな・てしかな・にしがな」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その51★袖ひきし 妻に花の香をとめて たててもてなす 亭主ぶりかな★色と言ふものほど仕方のあるものはなし。つひ出来る色も、仕様の悪ければ女が心おきて、させたくても、させられぬやうになりてくるものぞかし。

終助詞の「かな・も・かし・ぞかし・もが・もがな・てしかな・にしがな」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その51

★袖ひきし 妻に花の香をとめて たててもてなす 亭主ぶりかな

★色と言ふものほど仕方のあるものはなし。つひ出来る色も、仕様の悪ければ女が心おきて、させたくても、させられぬやうになりてくるものぞかし。

○ 由良の問(と)を 渡る舟人 かじをたえ 行方も知らぬ 恋の道かな

          新古今 一〇七一 
(終助詞かな詠嘆)助詞「か」に詠嘆の助詞「な」が付いたもの。詠嘆・感動。体言または活用語の連体形接続

由良のと(由良 京都の丹後の由良川の河口付近の海峡
と 戸(水の出入り口 水門・海峡)
を (格助詞 場所をあらわす)
渡る (四段 移動する 行く 来る )
舟人(船頭)
かじをたえ(絶ゆ 下二段 タエル・船の櫓や櫂が無くなって)
行方も知らぬ(行方 行く先 将来 先のわからない恋の道)
知る(四段 未然形)
ぬ(打ち消しの「ず」の連体形・潮の流れのまま、漂っているので何処にいくのかわからない)

○夕されば小倉の山に鳴く鹿の今夜は鳴かず寝ねにけらしも


万葉集一五一一

(終助詞「も」詠嘆)終止形に付く・「かも」「はも」「やも」などの「も」も同じ

夕されば(ラ行四段活用・已然形・ば・ので・すると)に(格助詞)鳴く(活用・連体形・夕方になると何時もきまって小倉山で鳴く鹿が)鳴かず(鳴く・四段・未然形・ず 打消・終止形)寝ねにけらしも(寝ぬ・下二段・連用形・ぬ・完了・連用形・けらし 過去推定・終止形・も・終助詞・今夜はまだ鳴かない。もう寝てしまったのだろうなあ)

○ たもとより 離れてたまを つつまめや これなむそれと うつせみむかし

         古今集 四二五 

(終助詞 かし 念を押す デスヨ)文末・相手に対し念を押す気持、あるいは話し手が自分自身に対し念を押す気持をあらわす。
たもと(手もと)
たまを(宝玉・白玉・男の魂)
つつまめや(包む・四段 包みとる・やさしくうけとめる・め 推量むの已然形・や 疑問・包みとれるでしょうか)
これなむ それ なる(なむ~連体形・コレガソレデアル・断定 なりが省略されている)
と 格助詞
うつせ(移す 四段 そでからそでに移したまえ)
みむ(見る 上一段・む 意志 シヨウ)
この歌は「水の粒が乱れて散っている。この水玉を手で拾ったならば袖にあたって消えるだろうか」という疑問の歌に対して応えた歌だとされています。袂より他に玉を包めるものはないのだから、さあその玉を袖に移してごらん、そうしたら私も見てみよう

○ ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 

   
  古今集二九四

(係助詞も 並列・列挙)取り立てて提示し、それについての説明・叙述を導くはたらき・「は」が確実な、選択された限定的な対象としてその語を示すのに対し、「も」は不確実な対象として、あるいはそれ一つとは限定されない対象として示すはたらき。結びとなる活用語は終止形である。見渡せば花も紅葉も → なかりけり

伊勢物語の主人公とされる美男子の在原業平の作品です。天皇の婚約者に恋をして、その女性と駆け落ちをした人です。
くくり染め
ちはやぶる(荒々しい・勢いが激しい・神にかかる枕詞)
神代(不思議なことがあったという神話の時代の話・今の時代ではもちろん聞いたことがないし)
も(同じ種類のものを一つあげる ~モ)
唐紅(唐から渡来してきた鮮やかな明るい赤)
くくる(絹をところどころ糸でくくって縛り染色する 紅葉が一面に浮かんだ川面を布に見立てている)水くくるとは → 聞かず

○世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも

      
  金塊集 雑

(係助詞も 詠嘆)
(終助詞 もが )「~がほしい」「~でありたい」という願望

源頼朝の子どもであり三代目の将軍だった作者は鎌倉八幡宮の銀杏の木の下で頼家の子どもの公暁に暗殺されます。
常に(常に・常なり形容動詞連用形・に断定なりの連用形・どちらとも言えない・常は無常の反対、無常はこの世界のすべてのものは生まれ、滅して、とどまることなく常に変移しているということを指します。無常の風が吹きすさぶとは人の世のはかなく頼りないことを表現しています。この歌の場合、常に変わらぬものであってほしいという願いでしょうか。この世が常住不変であればいいのになあ)
もがもな(願望の終助詞のもが・もがなに詠嘆の「も」を付けた強調表現)
渚(海辺の近く)
綱手→漁夫の小さな船の舳先に付けた綱を他の漁師が引いていく様子。海(あるいは川)を航行する船を多くの人々が陸で引っ張り進ませるものです。)
かなし(愛し・・いとしい・かわいい・身にしみてすばらしい  悲し・・かわいそう・残念だ・生活が苦しい)
なぜ綱手が「かなし」なのか、切ない気持ちがこみ上げてくるのか、よくわからない。目の前の何気ない日常の風景。淡々とした景色。それこそが愛しい。これから先、何年と続いてくれよという気持ちであるという人もいる。

○ 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな 

         後拾遺集六六九  

(終助詞もがな 他への願望)「もがも」 助詞「もが」に詠嘆の助詞「も」が付いたもの・「もがな」願望をあらわす・上代の「もがも」からの転。

作者は当時流行していた痘瘡という伝染病にかかって二十一歳で亡くなっています。
君(普通女性が男性に向かって使うが、この歌の場合、女性に対しての使用である)
惜しからざりし(惜し 形容詞の未然形・打ち消し ずの連用形・過去 きの連体形・貴方に会うまでは、唯一度でも会えたら、この命もいらない、惜しくないと思っていたのに)
命さへ(までも・惜しいと思わなかった命までも)
長く(ながし 形容詞 連用形)
もがな(終助詞 他への願望 名詞、形容詞の連用形プラスもがな
ける(けりの連体形・詠嘆・過去)
かな(詠嘆 連体形接続 ダナア)

○ 天飛ぶや 雁をつかひに 得てしかも 奈良の都に こと告げやらむ 

      万葉集三六七六

 (終助詞 てしかな てしかも にしかな 自分の願望)
「しか」過去の助動詞「し」と終助詞「か」の結び付いたもの・過去の助動詞の已然形「しか」の転用の二説がある。。完了の助動詞「つ」の連用形「て」に付き、「てしか」の形で用いられることが多い。自分の行為につき「~したい」という願望をあらわす。がな 「しか」が濁音化し、終助詞「な」と結び付いたもの。完了の助動詞「つ」の連用形「て」と結び付いて「~てしがな」として使われる。

朝鮮半島の新羅に向かう派遣船の中での作品です。
天飛ぶや(雁の枕詞・枕詞は特定の語の前に置くことが慣習化された語で、五音からなります。言葉を美しく飾る修辞と言われていますが、古い信仰心の名残かもしれません。(ちはやぶる)神、(ひさかたの)光、(あしひきの)山、(たらちねの)母、(くさまくら)旅など、大切なもの、聖なるもの、あるいは非日常的なものとして、尊んだり畏れたりした物が使われています。地名に関係するものも多いのですが、地名とは地縛霊を呼び起こすことばでした。)
雁(常世の国、死者の国と現世を行き来していると考えられていました。空を飛び、便りを届けてくれるとも言われていました。)
得 う 下二段 手ニイレル
てしかも(しか・しかなは完了の「つ・ぬ」の連用形と結びつき、てしかな・にしかなという形を作っています。願望の意味です。一語として扱えば良いと思います。)
こと告ぐ(つぐ 下二段 言づてをする)
やる(おこす・あちらからこちらへ・やる・こちらから向こうへ)
む(意志の助動詞 シヨウ)
空を飛ぶ雁を使いにしたいものだ。奈良の都に言づてを託すことができるだろう。

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