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1助詞の「もぞ・もこそ・し・しも ・を・み」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その55★しがみつきたる女のよがり はてしも あらず 取り乱し 人目なければ はばかりなく絶えいるさまと みえにけり。(しも・強意)

助詞の「もぞ・もこそ・し・しも ・を・み」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その55

★しがみつきたる女のよがり はてしも あらず 取り乱し 人目なければ はばかりなく絶えいるさまと みえにけり。(しも・強意)

○ 玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱り もぞ する

       新古今集一〇三四

(もぞ~タラ困ル) 係助詞「も」は「こそ」あるいは「ぞ」と結び付いて、危惧する気持をあらわす。「~するといけない」係助詞が二つ連続した形になっている場合、将来に対する危惧・懸念 をあらわす

たまのを(首飾りなどに使われる玉を貫いたひも・魂を身体につないでおく緒「絶え」「ながらへ」「よわり」は、緒(ひもの状態)の縁語
たえなばたえね(「絶えてしまうのなら絶えてしまえ」下二段「絶ゆ」連用形・完了強意の助動詞「ぬ」未然形・接続助詞「ば」仮定条件「絶えてしまうのなら「絶えね」「ね」完了の助動詞「ぬ」命令形)
ながらへば(下二段「ながらふ」未然形・接続助詞「ば」確定条件ので・すると・「生き長らえてしまうのならば」
しのぶる(「堪え忍ぶ」上二段「忍ぶ」連体形

よわりもぞする(「~すると困る」「ぞ~する」で係り結び・秘めた恋を堪え忍ぶ気持ちが弱くなって、恋が知られてしまう)

(私の)命よ、絶えるのならば絶えてしまえ。このまま長く生きていれば、耐え忍ぶ力が弱って(心に秘めた恋が知られて)しまいそうだから。

○ 音に聞く たかしの浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ  

     金葉集五〇一

(もこそ~シテハイケナイ)危惧する気持。「~するといけない」

二十七歳の若者が「人知れぬ 思ひありその 浦風に 波のよるこそ 言はまほしけれ・人知れず抱いている思いがあります。有磯海の激しい浦風に波が寄せるように、恋心がしきりと寄せる夜にこそ、この思いを打ち明けたいものです。」を詠みました。その返歌です。人知れず思っています。荒磯の浦風に波が寄せるように夜にあなたに話したいという意味でしょう。作者は熟女、七十歳を過ぎてます。
音に聞く(音は「評判」・噂に名高い)
高師(たかし)の浜(大阪府南部の堺市浜寺から高石市あたりの浜・「高師」に「高し」を掛けた掛詞「評判が高い」)
あだ波はかけじや(いたずらに立つ波、むなしく寄せ返す波・浮気な人の誘い言葉・下二段かく・未然形プラス打ち消し意志じ終止形プラス間投助詞や詠嘆・波をかけないつもりだ・想いをかけないつもりだ・噂に名高い高師の浜のいたずらに立つ波は、かけないように気をつけましょう。)
袖のぬれもこそすれ(「袖が濡れる」というのは、涙を流して袖が濡れるという意味があり、恋する想いで涙を流す・波で袖が濡れるのと、涙で袖が濡れることを掛けている。「も・こそ」はそれぞれ係助詞→後で起きることへの不安・袖が濡れると困りますから。 ― 噂に高い浮気者のあなたの言葉なんて信用しませんよ。袖を涙で濡らすことになるのは嫌ですから。)
噂に高い高師の浦のあだ波は我が身に掛けますまいよ。袖が濡れてしまいますから。――そのように、浮気な人の言葉など、心に掛けますものか。涙で袖が濡れてしまいましょう。

○ かく咲ける 花もこそあれ わがために 同じ春とや 言ふべかりける 

      大和物語三七段

大和物語は伊勢物語のような特定の主人公はいません。実在したと思われる男女のさまざまな話が続いています。生田川伝説や姥捨て山などは、聞いたことがおありでしょう。
かく咲ける(かくコノヨウニ・四段咲く已然形プラス完了存続り連体形・このように咲いている)
はなもこそあれ(逆接の意味で下に続く・一応肯定しておいて,下に反対の意味の事柄を続ける・花もあるのに)
わがために 同じ春とや 言ふべかりける(係助詞や反語疑問・可能べし連用形プラス過去詠嘆けり連体形・係助詞やの結び・私にとって同じ春と言えるでしょうか、とてもそうは言えませんよ)
こんなに華やかに咲いている花もあるのに(殿上を許された兄弟もいるのに、私は殿上できない)同種の木であるはずなのに一方ではこのように咲き誇る花もあるのに…(出雲の国守である)わたしにとってこれをおなじ春であると言うことが出来るのだろうか

○ 世の中を 憂しとやさしと 思へども 飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば 

      万葉集八九三 

(副助詞し強意)強く指示して強調する。現代語「定めし」「果てしない」に残っている。

山上憶良の貧窮問答歌は有名なので日本史などでも学習済みだろう。福岡県の知事(国司)をしていたらしい。「憶良らは今はまからむ子泣くらむ それその母も我を待つらむそ」なども、ご存じだろう。
世の中を憂しとやさしと思へども(憂しツライ・やさしヤセルヨウダ、タエガタイ・四段思ふ已然形プラスども・世の中  を辛いと思い、身がやせるほど恥ずかしいと思うけれど)
飛び立ちかねつ(連用形に接続~かぬ不可能・飛び立ちかぬ→飛び立つことが出来ない・下二段飛び立ちかぬ連用形プラス完了つ終止形・飛び立って遠くに行くことが出来ないことよ)
鳥にしあらねば(断定なり連用形プラス副助詞しプラスラ変あり未然形プラス打ち消し「ず」已然形プラスば・鳥ではないので)

○ 名にし負はば いざ事とはむ 都鳥 我が思ふ人は ありやなしや

と 
     古今集四一一 

(副助詞し強意コトサラニ)

伊勢物語に出てくる有名な和歌である。
名に し 負はば(名に負ふ・名前として持っている・四段負ふプラスば・その名に都という名前を持っているならば・都のことをよく知っているのだろう)
いざ事とはむ(感動詞いざ・四段こと問ふタズネル未然形プラス意志む終止形)
都鳥 我が思ふ人は(私の恋しく思っている人は)ありやなしやと(ラ変あり終止形プラス終助詞や疑問プラス形容詞なし終止形プラスや・①あるかないかわからないくらい目立たない②真実であるかないか③生きているかいないか。無事かどうか。

○ 時しもあれ ふるさと人は 音もせで み山の月に 秋風ぞ吹く 

      
新古今集三九四 

(副助詞しも・強意コトモアロウニ)副助詞「し」に係助詞「も」が付いたもの。働きは「し」と同じ。現代語では「必ずしも」。

摂政 太政大臣の作と書かれています。誰も来てくれない・秋の風が吹く・寂しい歌です。
時しもあれ(副助詞し強意・ラ変あり已然形→逆接条件・ほかに時もあるのにこんな時期に・折しもあれ→ちょうどその時。折もあろうに。)
ふるさと人は音もせで(サ変す未然形プラスずして・昔からの知り合いの都の人は訪れても来ないので寂しいが)
み山の月に秋風ぞ吹く(深山に寂しく月は照り、秋風が吹いている)

○ 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ 

  
   古今集一六六

 (接続助詞を逆接ノニ)連体形、あるいは体言などに付く・順接あるいは逆接の条件

清少納言のひいおじいちゃんにあたる人が作者です。歌だけでなく笛や琴においても名手だったそうです。孫の清原元輔が清少納言の父ですが、芸術家であり、学者でもある父は後撰和歌集の撰者をはじめ、いろいろな仕事を成し遂げています。
夏の夜は(係助詞は取り立て・他の季節の夜と違って、短い夏の夜は)
まだ宵ながら(宵(よひ)→日が暮れてからしばらくの時間。夜の始めの時分。
・黄昏(たそがれ)→誰そ彼・あたりが薄暗くなったころ。
・暮れかた→日が暮れるころ。
・接続助詞ながら継続ノママニ)
明けぬるを(下二段明く連用形プラス完了ぬ連体形プラス接続助詞を確定逆接ナノニ)
雲のいづこに月宿るらむ(格助詞の連体格・疑問詞いづこドコニに・四段やどる終止形プラス現在推量らむ連体形・疑問詞の結び・月も(西の山かげに隠れる暇もなくて)いったい雲のどこのあたりに宿をとっているのだろうか。

○ 思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり   


   千載集八一七

 (接続助詞を逆接ノニ)

平安時代末期の馬の管理をする仕事のかたわら、歌づくりに励んだようです。八十歳まで毎月、住吉神社に(歌が上手になれるようお参りしたそうです。八十四歳で出家して僧侶となりました。死後、この歌がはじめて千載集に選ばれました。
思ひわび(四段思ふ連用形プラス上二段わぶ連用形(つらく思う・心細く思う・寂しく暮らす・~出来ない)恋人に冷たくされたのを思い悩んで)
さても命はあるもの を(さても→さありても・ソウデアッテモ・苦しみで死んでしまうと思われた命はあるものなのに・保っているのに)
憂きにたへぬは(憂しツライ連体形・下二段堪ふ連用形プラス打ち消し「ず」連体形プラス係助詞は・憂きコトにたへぬモノは・つらいことに堪えられないものは)
涙なりけり(断定なり連用形プラス詠嘆けり終止形・何かに気づいた際の驚き・なりけり)
○ つひに行く 道とはかねて 聞きしかど きのふけふとは 思はざりしを      古今集八六一(間投助詞を)
伊勢物語にも出てきます。作者は在原業平です。 終に行く道とは(つひに・終わりに・最後に・だれでも最後に行く道だとは)
かねて聞きしかど(かねて・前もって・予め・以前から・四段聞く連用形プラス過去き已然形プラスど・かねがね聞いていたけれど)
きのふけふとは 思はざりしを(四段思ふ未然形プラス打ち消し(ず)連用形プラス過去き連体形プラス間投助詞を詠嘆・それがまさか昨日や今日のさし迫ったことだとは思わなかったよ。)

○ 萩が花 散るらむ小野の 露霜に ぬれてをゆかむ 夜は更くとも

        古今集二二四

(間投助詞を)連用形や助詞に付いて、意を強める。

★「を」の見分け方


① 格助詞 上に名詞がある。動作の対象をあらわす。 名をば小野小町と申す。
② 接続助詞 文の途中、和歌の途中にある。上に名詞がない。順接と逆接(ノニ・ノデ・スルト)
③ 間投助詞 文末で感動の表現の場合が多い。自分の言葉を確認して相手に押しつける感じの詠嘆。~ネ

京都と大津の境の猿丸神社に祭られている「猿丸大夫」が作者とされている。古今集では詠み人知らずとなっている。この歌は「秋萩の咲き散る野辺の夕露に 濡れつつ来ませ夜は更けぬとも 万葉集二二五二」という歌を女性からもらって応えた歌とされます。 
萩が花散るらむ(現在推量らむ・萩の花が散っているであろう)
小野の露霜に(野の露。小野(をの)の「を」は特に意味のない接頭辞。「露霜」は葉に付いた水滴・を(夜露の冷たさが強調)
ぬれてをゆかむ夜は更くとも(間投助詞を詠嘆・文中でも使用する・その露に濡れてゆこう。夜は更けても)

○ 山深み 春とも知らぬ 松の戸に たえだえかかる 雪の玉水(たまみず)

       新古今集三 

(語幹プラスみ~ノデ)

後白河天皇の第三皇女の作品「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする」の作者です。
山深み(形容詞深し語幹プラスみ・原因理由・山が深いので)春とも知らぬ松の戸に(四段知る未然形プラス打ち消し「ず」連体形・里では春のおとづれが感じられる季節になったが、雪深い山の家には、まだその気配がない)
たえだえかかる雪の玉水(ふと気づくと松の戸に雪解けの玉のように美しいしずくがとぎれとぎれに落ちかかっているのが見えることよ。)

○ 瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ 

 
    詞花集二二八

 (名詞プラス「を・助詞」プラス「形容詞語幹」プラスみ~ガ~ノデ)
形容詞の語幹に語尾「み」を接続した形で「~ので」という順接の意味。主語を示す格助詞「を」と呼応し、「山を高み」(山が高いので)のように用いる。「を」を省略して「山高み」のようにいうこともある。「を」は格助詞、「み」は形容詞の活用語尾と考えられているが「を」を間投助詞とする説もある。


   伊勢物語六七

(連用形プラスみ、連用形プラスみ~シタリ~シタリ)
かうちの国(大阪府の淀川東岸の地・現在でも、大阪市内から生駒山は一望できる・河内の国にある生駒山を見ると)
くもりみはれみ(「~み~み」は、「~したり~したり」「降りみ降らずみ」は「~したり~しなかったり」の意。曇ったり晴れたりして)
たちゐるくもやまず(「たつ」は「動き始める」という意。雲が湧いて空に浮かぶ。「ゐる」は、「座る・落ち着く」高く登ったり低くたれたりする雲の動きが止まない。)

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