見出し画像

助動詞の「ごとし・らし」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その46★紺縮緬のふんどしのわきから、鉄梃(かなてこ)のごときいちもつ、ぐつと差しいだし、けんのみをくわせる様子なり。★女護の島の磯ばたに、あまたの女、南風に向かひて寝ているさま、赤貝を並べたるがごとし。

助動詞の「ごとし・らし」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その46

★紺縮緬のふんどしのわきから、鉄梃(かなてこ)のごときいちもつ、ぐつと差しいだし、けんのみをくわせる様子なり。

★女護の島の磯ばたに、あまたの女、南風に向かひて寝ているさま、赤貝を並べたるがごとし。


○世の中を 何にたとへむ 朝びらき 漕ぎ去にしふねの 跡なきごとし


万葉集 三五一

何にたとへむ(む・推量意志・連体形・何にたとえたらよいだろう)朝びらき(港に泊まっていた船が夜明けとともに漕ぎ出すこと)漕ぎ去にし船(こぐ・四段・連用形・いぬ・ナ変・連用形・き・過去・連体形・こいで出て行った舟)跡なき(なし・形容詞・連体形・航跡がすぐに消える)ごとし(航跡が残っていないようなものだ)

○ わがごとく ものや悲しき 時鳥 ときぞともなく 夜(よ)ただ鳴くらむ 

          古今集 五七八 

(比況・例示ごとしヨウダ)他のものごとと類似または同一であることを示す
同一を意味する「こと」が濁音化した「ごと」に、形容詞化する接尾辞「し」が付いて出来たと言われる。漢文の訓読体に主として使われた。

見るごとし 流るるごとし 美しきごとし 夢のごとし なびくがごとし
ごときなり ごとくなり ごとしなり・古代では「ごと」だけでも用いられた

恋の悲しみに泣き濡れる自分をホトトギスになぞらえ一晩中鳴いている郭公も恋の悲しみに泣いているにちがいないと想像しています。
わがごとく(代名詞わプラス格助詞がプラス比況ごとし連用形・私のように)
ものや悲しき(もの~ナントナク・疑問や係助詞・形容詞かなし連体形・やの結び・何となく悲しいのだろうか)
ほととぎす(初夏に南方から渡ってきて日本に夏を告げる鳥と言われる。昔は夏を教えてくれるほととぎすの初音を待ちわびた。初音を待つのは春を告げる鶯と夏を告げる時鳥だけである。ほととぎすは夜に相手を恋うる時にも鳴くと言われ、忍び音ともいったらしい)
時ぞともなく(ホトトギスは、いつが鳴く時期と言うこともなく・形容詞なし連用形)
ただ(いちずに・ひたすら)
鳴くらむ(四段鳴く終止形プラス現在推量らむ終止形・何か悲しいことがあって、夜通し、ひたすら鳴いているのだろう)

★女護の島の磯ばたに、あまたの女、南風に向かひて寝ているさま、赤貝を並べたるがごとし。

○ 春過ぎて 夏きたるらし 白妙の 衣ほしたり 天の香具山

       
万葉集二八    

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山

  
        新古今集一七五

(根拠ある推量らし)「らむ」が想像しての判断であるのに対し、「らし」は客観的な事実を確認した上での推定をあらわす。「~らしい」「~に違いない」
咲くらし 恋ふらし 燃ゆらし 来(く)らし 為(す)らし

女性の天皇の作品です。父の天智天皇が亡くなると子どもの大友皇子が即位しましたが、持統は皇子を殺し自分の夫の大海人皇子を天武天皇とします。夫が亡くなると自分が持統天皇として即位したのです。
春過ぎて(上二段過ぐ連用形プラス接続助詞て・春が過ぎて)
夏来たるらし(四段来たる終止形プラス推量らし・夏がやって来るらしい)
来にけらし(カ変く連用形プラス完了ぬ連用形プラスけるらしの縮約(過去けり連体形プラス推量らし・来てしまったらしい)
白妙の衣(こうぞの繊維で織り上げた白い布・山の新緑を背景に真っ白な夏用の衣服が)
干したり(四段干す連用形プラス存続たり終止形・干してある)
干すてふ(てふ→と言ふ・干してあると人が言う)
あまの香具山(奈良市と橿原市の間にある百メートルくらいの低い山・うねびやま・みみなしやまと合わせて大和三山と言われる)

○つれづれと ながめのみする このごろは 空も人こそ 恋しかるらし


風雅集 一二二四

つれづれとながめのみする(何もすること無くじっと空を眺めて物思いばかりしている)空も人こそ 恋しかるらし(毎日、雨が降っている。私は物思いにふけっている。雨が空の涙であるのなら、空も人を恋しがっているらしい。)

毎日雨の降る頃、恋人のもとに贈った歌だそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?