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助動詞の「る・らる・す・さす・しむ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その44★舌の先にてなめまはし、いとあたたかなる息を こつぼを 目当てに 吹きかけられたる(吹きかく・下二段・連用形・らる・受身・連用形・たり・完了存続・連体形)心地よさ。

助動詞の「る・らる・す・さす・しむ」を扱います。短歌を中心に用例を提示します。古文単語 その44

★舌の先にてなめまはし、いとあたたかなる息を こつぼを 目当てに 吹きかけられたる(吹きかく・下二段・連用形・らる・受身・連用形・たり・完了存続・連体形)心地よさ。

★前髪を ひいやりあてて のぼせさせ


  ひいやり(うつむいて男の胸に前髪をさらりとあてる)

★枕絵を 高らかに読み しかられる

★入りむこは 聞かずに抜いて しかられる


入り婿(すべてにおいて妻に譲るべき入り婿の存在)

★不落居な むこ小姑を ふくらませ

○ 名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな  

        後撰集七〇一
(助動詞 る 可能)「~することができる」自発と区別が難しい。動作が話し手自身の意志とかかわりなく成立することを示す
思はる 知らる あらる 死なる しはべらる

三条通に住んでいた右大臣が作者です。大和物語に歌が上手と書かれていますが、音楽の演奏も上手な人らしいです。相手の女性は誰だかわかっていません。
名にし負はば(負ふ・四段活用未然形プラスば(もし負っているならば・名前を持っているならば・副助詞し強調)
逢坂山(滋賀県と京都府の間の山・逢ふ→恋人が会って一晩過ごす・恋人が逢ふという言葉を名前で持っている)
さねかづら(さ寝→二人が寝る、ともに夜を過ごす・さねかづら(成長すると次から次へと蔓がどんどん伸びていく。夏に黄色い花をつけ、秋にはブドウのように房になった赤い実ができる。
蔓を繰る・ツルをたぐり寄せる・あなたが来るとツルを繰る
人に知られで(他の人には知ることの出来ない方法で・人は和歌の場合、愛人が多いがこの場合は他人・四段活用知る未然形プラス可能る未然形プラスで(ずして))
来るよしもがな(カ変「来」の連体形・よし(由・手段方法)もがな(終助詞・願望)ツルをたぐり寄せるようにこっそりと貴方に会いに行く方法があればいいなあ)

○ ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき 

         新古今集一八四三
(助動詞 る 自発)「自然と~される」「~しないではいられない」

平安時代に和歌を生み出すグループが二つありました。一つは藤原俊成と定家を中心とする派閥であり、もうひとつは藤原顕輔を中心とする派閥で、この歌は、その家元の子どもの作品です。父顕輔とは仲が良くなかったようです。
ながらへば(下二段ながらふ未然形プラスば・長生きすれば・このまま長生きして時を過ごしていくならば)
またこのごろやしのばれむ(四段しのぶ未然形プラス自発る未然形プラス推量む連体形・(や係助詞・係り結び・疑問)その時にはまた、辛いことの多い、今日この頃のことを、なつかしく思うようになるのだろうか)
憂しと見し世(憂し・ツライ・上一段見る連用形プラス過去き連体形・見た世・辛いと思っていた過去のことが・ぞ係助詞)
今は恋しき(形容詞恋し連体形・ぞの結び)
参考 内裏作らるるにも 必ず作り果てぬ所を残すことなり。           徒然草八二段  (助動詞る尊敬)
内裏(天皇の住居)
作らるる( 四段作る未然形 プラス 尊敬 る 連体形
にも(時にも・をにのはが名詞の上は連体形)
作り果てぬ(四段作る連用形プラス下二段果つ未然形・打ち消し「ず」連体形・作り終わらない)
断定なり終止形

★不落居な むこ小姑を ふくらませ

不落居(ふらっきょ・気まぐれ・物好き)小姑(妻の姉妹)ふくらませ(ふくらむ・四段・未然形・す・使役)

○ なげけとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな

        千載集九二六 
(助動詞す使役)他に命じて何かをさせる、あるいは何らかの事態を引き起こさせる
咲かす 死なす 侍らす

北面の武士をしていた作者は二十三歳で出家し西行と名のりました。家を出るとき四歳の子どもが父を慕ってすがりましたが、西行は仏道修行の邪魔だとして蹴飛ばしたそうです。新古今には九十四首も歌が採用されています。
嘆けとて(四段嘆く命令形・とて(ト言ッテ・ト思ッテ)嘆きなさいと言って)
月やはものを思はする(やは・反語・四段思ふ未然形・使役す連体形・やの結び・月が私に物思いをさせるだろうか、いやさせてはいない)
かこち顔なる(かこつ・相手に原因や責任を押しつけ不満を言う・断定なり連体形)
我が涙かな(私の涙が流れることだなあ)まるで月のせいであるとばかりにこぼれ落ちる私の涙であるよ。

○ わが背子は 仮ほ作らす 草なくは 小松が下の 草を刈らさね

       
万葉集一一 
(助動詞す尊敬)
取らす  寝(な)す 着(け)す 見(め)す

作者は天皇に仕えている女性で祭祀をとりしきっていました。紀伊に旅したとき、臨時の休憩所を作る際に作った作品です。歌の相手は中大兄皇子だそうです。
わが背子は(私の旦那様は)
仮廬作らす(かりほ・仮の小屋・作らす・四段作る未然形プラス尊敬す終止形・お作りになる)
草なくは(形容詞なし連用形プラス接続助詞ば・濁音が清音に形容詞連用形の下では変化する・無いならば)
刈らさね(四段刈る未然形プラス尊敬す未然形プラス終助詞ね願望・おかりください)常緑で長寿の木である松は、霊力の強いものと考えられていました。その下に生えている萱なら、天皇の休まれる小屋を作るのに適当だと言うのでしょう。

○ のど赤き 玄鳥ふたつ 屋梁にいて 足乳根の母は 死にたまふなり

      
赤光 新潮文庫 
(補助動詞たまふ尊敬)尊敬または謙譲をあらわす語とともに用いてその意を強める。

斎藤茂吉の作品です。みちのくの 母の命を ひと目見ん ひと目見んとぞ ただに急げる は有名です。
のど赤きつばくらめふたつ(天井のはりに二羽の雌雄のツバメがとまっている。釈迦が亡くなるときにも様々な動物たちが雌雄二匹ずつ、釈迦の周囲に集まったと言われています。)
たらちねの母は(枕詞・母。母親。親。父にも係っていきます。語源は不詳であるが「タラ」は「垂らす」、「チ」は「乳」、「ネ」は「女性」「甘い乳を出す母」と言う説や乳房が垂れた、母乳が満ち足りたなど諸説がある)
死にたまふなり(しんでいきなさるのである)

○山里は 人来させじと 思はねど とはるることぞ うとく成り行く


新古今集 十七
(さす・使役)
見さす 浴びさす 濡れさす 来(こ)さす

山里は(山里に住むと)来させじ(人を寄せつけないようにしよう)思はねど(思ふ・四段・未然形・ず・打消・已然形・ど・接続助詞・思うわけではないが)とはるることぞ(訪ねられることが)うとく(うとし・形容詞・連用形・少なく)


○ 草づたふ朝の蛍よみじかかるわれのいのちを死なしむなゆめ


あらたま 7
(しむ・使役)
咲かしむ 恋ひしむ 消えしむ

草づたふ(草に沿って動いている・朝の草の上を光をなくして心ぼそげにはっている蛍よ)みじかかる(短くある・螢はつかの間の命しかもたないはかない存在・私も同じ)死なしむ(死ぬ・四段・未然形・しむ・使役・私の命をなんとしても死なせてはならない)な(終助詞・禁止)ゆめ(決して)

る← 四段、ナ変、ラ変に接続(す・さすの「す」も同じ)
らる← 上記以外の上一段上二段下一段下二段カ変サ変に接続
す← 四段、ナ変、ラ変に接続
さす← 上記以外に接続 ☆覚え方 四ナラす、る(よならする)

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