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あかんたれにいちゃん12

生まれてはじめて殺意を抱いた

兄に貸したお金は返ってこない。毎回、支払期日に何かが起こる。
兄の報・連・相がいつも遅い。こちらから聞かないと連絡してこないので
イライラする。結果、激怒する。負のスパイラルに陥る。
借金の返済期日は迫る。金策に頭を悩ます・・・・。
そんなことを繰り返しているうちに、兄への猛烈な怒りがこみ上げてくるようになった。そして、電話口で兄を怒鳴ることも多くなり、家族を驚かせてしまうことも少なくなかった。
ついに「あいつさえいなければ、我々家族は幸せに暮らせたのに・・。あいつさえいなければ・・・。あいつが家族じゃなければ・・・。」そんな強烈な思いが湧き上がり、生まれてはじめて殺意を抱いたのだ。
私は悪くない。悪いのは兄だ。握る手に力が入る。歯ぎしりに力が入る。
その情動を抑えるのに別のエネルギーを使い、私はボロボロだった。

キラーストレスに屈する

相当なストレスを抱えていることはわかっていた。だがら、自己防衛のためにストレス発散策をいくつも講じていた。休日には家の近くの温浴施設の露天風呂で竹林を眺めながら、ボーッと過ごしたり、大好きな友人たちと食事会をしたり。できるだけストレスを発散するように努力していたのだが、兄に抱いた怒りは、キラーストレスになって私に襲いかかった。怒りというエネルギーがいかに強く、そして、それは相手だけでなく自分も滅ぼしていくこと感じながらも、どうにもコントロールすることができなかった。また、その頃、仕事も多忙を極め、心身が蝕まれていることに気づく余裕すらなかったのだ。

ある2月の3連休の初日、出勤時に突然横っ腹が痛くなり、歩けなくなってしまった。熱もあがってきたので早退し、必死に我慢して一晩を明かした。
子供が受験生であったこともあり、インフルの可能性を疑い、妻に救急病院の受診を促された。救急病院で診察を受けると白血球の数値が異常であり、即、他の医療機関での精密検査を手配された。なんとか自分で運転をしてたどり着いた病院で即入院と告げられた。上行結腸憩室穿孔(簡単に言うと腸に小さな穴が空いた)との診断を受けた。腸はストレスの影響を受けやすい。まさに、キラーストレスにやられてしまったのだ。

「どのぐらいの入院ですか」とドクターに尋ねると「手術なら10日ぐらい。でも、傷口からの感染リスクもある。抗生物質での治療も今の状態なら可能かもしれないが、そうすると2週間から3週間ぐらい入院することになると思う」と言われた。その時、私はドクターに対して怒りを感じてしまったと同時に、治療をしてくれるドクターに対して怒りを感じる自分が完全におかしくなっていることに気づいたのだ。

入院は人生初めてのことであり、仕事のことや自分の体のことなどの不安に押しつぶされて、初日はほとんど眠ることができなかった。結局、手術ではなく、抗生物質での治療を施すことになった。病室にノートパソコンとWi-Fiを持ち込んで、痛みと闘いながら仕事を続けた。1週間以上、点滴だけで食事は採れなかった。精神的なダメージもあり、不整脈も出てきて、両腕に2本の点滴と検査機器をつけて仕事をしていた。あまりにも滑稽な姿であった。
休憩室で、電話をしている他の患者さんが「入院はやることなくて、暇だから、漫画とYouTubeばかり観てるよ」と笑いながら話しているのを耳にし、私はどんな罰ゲームを受けているのだろうかと思わずにはいられなかった。

入院が教えてくれたこと

1週間が過ぎ、入院生活にも慣れてきた頃、なぜ、こんなことになったのか。
自分は悪いことはしていないのに・・・。なぜ、神様はこんな試練を与えるのかと考えるようになってきた。
だが、それまでに、いろんな自己啓発本やスピリチュアルな本に救いを求め、貪るように読んでいたこともあり、「この入院にはきっと意味があるのだ」と考えることができたのが救いだった。私にどんなメッセージを伝えようとしてくれているのだろうか・・・。

それまでの生活を振り返ってみると、いろいろと反省することがあった。
仕事を終えた夜分にお酒を飲んでストレスをごまかしていた。
結果、睡眠は浅くなり、心身ともにリフレッシュできなかった。
仕事でもプライベートでも真面目に考えすぎるために、人を責めることが多かった。自分が無理をすればなんとか難局を乗り越えられると過信していた。
周囲に助けを求めなかった。兄を罵る言葉や感情が自分を傷つけていた。
(自分の語る言葉が自分に影響を与えるという知識はあっても、実践できていなかった。というよりも感情に完全に支配されていたといった方がしっくりいくような気がする)

いろいろ考えた結果、「もうこのままだと人生が終わるよ」ということを教えてくれているのだということに気がついた。今まで何度かサインは出ていたと思うが、無視していたのだ。「自分は健康オタクだから大丈夫」と高を括っていた私は、結局、ハイパワーストレス(キラーストレス)にやられてしまったのだ。

入院中は自分一人では何もできなかった。ドクター、看護師さん、ヘルパーさんのサポートのおかげで、自分は生かされているのだと思った。もし、原始時代だったら完全にあの世行きである。
「自分を変えなさい。今のままでは通用しないよ。」きっとそんなことを気づかせるために今回の入院があったのだろう。イエローカードでよかった。レッドカードが出る前に自分を変えていこうと思った。兄に関することも。

私の入院に関して、兄が私を見舞うこともなく、見舞いの言葉すらなかったことで、「ああ、こういう人なんだなあ~」と納得したというか諦めの境地に達したのだ。もう背負ってたもの下ろそう・・・。
約3週間の入院は、兄が変わることではなく、私が変わる必要があることを
教えてくれたような気がする。
                                 つづく


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