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イノベーションの法則

イノベーションを生み出すための法則はあるのか。恩師との会話中に勧められた書籍「日本の革新者たち」や最近の日本の地方自治体との交流(例えばこれ)から、今までデンマークに特徴的だと思っていた事項なども日本で少なからず見られ、文化を超えたイノベーションの法則はありそうだとの思いを強くした。

日本の革新者たち」(2016年)は、野村総合研究所未来創発センター2030年研究室室長の齊藤義明さんによる著作。日本の100名以上の起業家(革新者)たちとの対話により、導出されたイノベーションの法則が描かれている。日本の革新者たちの考え方、アプローチ、戦略的思考なども興味深いながら、突き抜け新しいビジネスや社会の形を作り出している先駆者たちの姿に胸が熱くなる。

発行されてから7年が経過しているが、果たして、その学びは受け継がれ、そのイノベーターの裾野は果たして広がっているのだろうか。

共通する姿勢

備忘録程度であるが、書籍で紹介され、かつ、デンマークにも見られる姿勢として、興味深いと思った事項は次のようなものである。

NeedsではなくWantsであること

イノベーションは、Needsを見つけることが重要であるといわれる。スタートアップや事業創生の第一歩は、Needsを特定することであるという考え方だ。もちろん、米国の影響を大きく受けている北欧のイノベーションシーンにおいても、ニーズの深掘り調査や、一般的な市場調査などは、常に実施されている。

ただ、スタートアップ界隈ばかりか、毎日の生活の中であったとしても、北欧においては「自分が何をしたいか」という自分起点が、ニーズよりも重要な位置を占めていることが往々にしてある。どちらかというと、社会的なニーズは、後付けのことも多い。このような表現は、言い過ぎに聞こえるだろうか。

自分起点の重要性は、Me-To-Weデザインでも主張されていて、(提唱者のNina Simonは美術館訪問者を対象にしているが、私はそれをシステム・社会デザインに応用できると考えている)、まずはMe(私)がおもしろいと思うところを昇華させることで、We (われわれや社会)を考えることができるとしている。

いずれにせよ、自分が必要を感じているなど内からのモチベーションで始まらないイノベーションは、イノベーションを起こそうと考えているイノベーターが困難に出会った段階で、いとも簡単に瓦解してしまう。そして、イノベーションにおいて、困難はFeatureであり、Bugではない。つまり、困難は、必ず直面することであり、出会わないことはありえない。だからこそ、自分起点でないイノベーションは、生き残れない。

エンタメを武器として使う

デンマークでデジタル化を進める時、デンマーク政府は積極的にエンタメを活用した。日本でも時折見られるようになっているが、例えばタレントを活用して注目を集め、そこから知見を社会全体に浸透させようとする方法だ。北欧では、真面目なトピックが「お祭り」になっていることも多い。例えばLGBT、例えばデジタル化。誰でも、楽しそうな舞台があり、美味しい食べ物が揃い、有名人が登場するお祭りであれば参加したい。そんな市民心をくすぐる楽しそうなシリアストピックのイベントが北欧は目白押しである。

「環境意識の高い一部の消費者だけでなく、大多数の消費者を資源循環にむけて動かす必要がある」P158

「日本の革新者たち」

何か新しいことを社会全体にトップダウンで広めようと思っても、よっぽどの強権国家でない限り、市民はついてこない。まずは、関心を持ってもらうことが重要だけれども、関心を持たない層にも触れてもらうためにはどうするべきか。前述のMe-To-Weデザインで述べたように、まず、何かしら大多数の当人が面白い!と思ってくれるポイントを探す必要がある。

イノベーションプログラムのその次

イノベーションの醸成を狙うワークショップ系のプログラムは、今までも数多く提案され、Chapter 4で紹介されているイノベーションプログラムは、そのうちの一つである。出版された2016年当時は、まだ目新しかったのだろうか。

今では、食傷気味のイノベーション・ワークショップかもしれないが、それでもこのイノベーションプログラムは、隅々まで細かく戦略的に練られた枠組みが秀逸だ。

ちなみに、アイディアが出た後、そのアイディアが消えて無くならないように、その思いが形になり事業として育っていくために、伴走するサポーターやアドバイザー、継続させるための仕組みが必要だろうと思う。私はそれが、リビングラボなんだと思っている。

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