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サンタクロースの告白

毎年、寒くなってくる頃になると浮かんでくる大切な思い出があります。
それは、わたしが小学校5年生の初冬に起きた出来事でした。

ある日の夜、母がわたしを2階に呼びました。
子供部屋は1階でしたから、2階に呼ばれるというのは姉たちに聞かれないように深刻なお叱りを受ける時と分かっていましたので、何をしでかしてしまったのだろうと子供のわたしは身を固くして2階に上がりました。

両親の寝室へ入ると、そこには深刻な顔をした母が座っていました。
「なとわ、ここへ座って」
母の目の前を指さされ、わたしは母の前に正座してうつむきました。
何を言われるのだろう、何を叱られるのだろう…緊張で鼓動が速いのを感じていました。
「なとわ、これから話すことを、最後まで落ち着いて聞いてほしいの」
『…?』
「あのね、毎年サンタさんがクリスマスに来てくれていたでしょう?」

ここまで聞けば十分でした。
ついに来た。
友達が毎年毎年騒ぐアレ。
サンタクロースは親なんだよ。サンタなんていないよ。まだ信じてるの?バカみたい!
子供心に、クリスマスカードの字が親に似ているな…などと疑いの気持ちがよぎったこともありましたが、それでもわたしは一途にサンタクロースを信じ続けていました。
最後まで落ち着いて聞いてほしいという母の願いに見事に反し、わたしは発狂して叫び出しました。
「いやだー!!いやだー!!それ以上聞かない!うるさい!やだ!!!」
そして耳を塞ぐと、あーあーあーあーあーと狂ったような大声を出し続けました。

目の前の母は、大粒の涙を流していました。その表情は言葉では言えないような、悲しみのような、寂しさのような、つらい気持ちが表れた悲痛なものでした。
わたしはひとしきり騒ぎ続けると、お願いだから座ってと泣く母の言葉に、しゃくり上げながらも座りました。

「サンタクロースはいないって言うんでしょ。パパとママだったって言うんでしょ」
わたしも涙を止めることができませんでした。
「違う、違うよ!お願いだから、最後まで聞いて」
母は泣きながら話を続けました。
「サンタクロースはね、いるんだよ。でもね、なとわが毎年楽しみに信じてきた、赤い服でトナカイのそりに乗ったサンタさんはいないの。遠い昔の外国に、サンタクロースの始まりの人がいて、その人が貧しい人たちのためにクリスマスの前にそっとお金を届けて回ったんだよ。それがサンタクロースの始まりとなって、そこから世界中の大人たちが、サンタクロースの意思を受け継いで、自分の家族や大切な人たちにクリスマスの贈り物をするようになったの。子供たちには、枕元に魔法のような不思議な力でそっとプレゼントを届けるという大きな夢と愛も添えるようになった。いつの間にかそりに乗った赤い服のサンタさんがサンタクロースとして世界に広まっていったけど、大人になれば、誰もがサンタクロースなんだよ。」
母の話の意味は、とてもよくわかりました。
真剣に耳を傾けていましたし、母が涙を流し続けながらわたしに理解してほしがっていることも強く伝わってきました。
それでもわたしはまだ受け止めることができず、いやだ、いやだと心の中で叫び続けていました。
そんなわたしに、母は続けました。
「なとわ、あなたを今日から大人の1人として認めますから、あなたも周りの人にとってのサンタクロースになりなさい。周りの人に、愛を届けなさい。お金がかかっていなくて構わない。サンタクロースの1人として、クリスマスに大切な人たちに愛を伝える、サンタクロースの役割をあなたも受け継いでいって」

そう言われて思い返すと、数年前からお姉ちゃんサンタより、というミニギフトをもらうようになっていたのです。
あれは、わたしより先にサンタクロースに任命された姉たちがわたしのためにしてくれていたことだったと初めて理解しました。
わたしは母に飛びつくと、すがりついて大泣きしました。
「ママの言うこと分かったよ。わたしもサンタクロースになるよ。だけどね、だけどね、赤い服のサンタさんにいてほしかったよ。死ぬまで信じていたかったよ」
声の限りに泣きました。
そうだよね、そうだよね、ごめんね、と母も泣いていました。

末っ子のわたしも晴れてサンタデビューしたその年のクリスマス以来、我が家では家族でプレゼントを交換し合うことが恒例となりました。
アメリカのように大きなクリスマスツリーの下にプレゼントがどんどん並んでいく光景はワクワクして、あたたかい気持ちになりました。
クリスマスイブ当日は、母が毎年近所の1人暮らしの方々をディナーに招待していたので、我が家のクリスマスは賑やかなものでした。
12時ぴったりになると、メリークリスマス!!とみんなで声を揃え、それぞれにプレゼントを配り(もちろん招待したお客様の分もあります)、大人たちもまるで子供に戻ったかのような笑顔でパッケージを開けました。
それはそれは、幸せな愛と笑い声にあふれたクリスマスイブでした。

赤い服のサンタクロースに別れを告げなければいけなかったことは、今思い返しても胸が痛くなるほど寂しい経験でした。サンタさんさよなら、ありがとう。わたしも素敵なサンタになれるようにがんばります。心の中で、11歳のわたしは泣きながら約束しました。

母に教わったクリスマス文化はわたしにも受け継がれ、結婚後は誰かを招待することが伝統になっています。
小さい子供たちは今もサンタクロースを待ち焦がれて手紙を書いてプレゼントをお願いしていますが、歳の離れた大きなお姉ちゃんはもうサンタの仲間入りをしました。
わたしも母に倣い、娘が小5の冬に同じ話をしました。
娘はわたしのように大騒ぎして狂ったりしませんでしたが(笑)、静かにぽろぽろと涙を流し、わたしが抱きしめると、やはり声をあげて泣いていました。
わたしにも胸の苦しくなる瞬間でした。
と同時に、あの日の母の気持ちを知り、また、娘がサンタになれるほど大きく成長してくれたことに、心から感謝の気持ちでいっぱいにもなりました。

これを読んでくださっている方も、誰かのサンタクロース。
クリスマスを宗教行事ととらえず、誰かにちょっと優しくなれる日、誰かをちょっと幸せにできるかもしれない日ととらえ、ぜひ小さな贈り物をしてみてください。
ハグでも、愛しているの言葉でもいいと思います。
今、世界のあちこちで大きな争いが起きていますね。
宗教を超えて、人種を超えて、イデオロギーを超えて、周りの人にわずかな幸せを…という最初のサンタクロースの願いのような思いが、広がっていきますように。
だから敢えてメリークリスマスというのをやめてみます。
ハッピーホリデー!
読んでくださったあなたにも、幸せがありますように。

今年の我が家のツリーです。
これからプレゼントが続々と並んでいきます!


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