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将来の社会保障を食いつぶさないために

「割引券の期限がもうすぐ切れる。早くお店に行かなきゃ」そう言って、僕たちは必要ないものを買ったり、行くつもりのなかったお店で食事をしたりします。

割引券がなければ、買わなかったもの買い、行かなかったお店へ行って、「割引券で安く買えた」と得した気分に浸ります。

損したくないから買う!?

”割引券がなければ買わなかったもの”を安く買うことは、本当に得なのでしょうか?「あまり要らないけど、安く買えたからお得!」。合理的に考えれば、要らないもにお金を使わないことが一番得です。

人は損をするのが嫌いです。損をしないように行動してしまう心理的傾向のことを「損失回避バイアス」といいます。

「割引券があるのに使わなかったら損する」という心理に基づいて要らないものを買ってしまうのは、損失回避バイアスの典型例です。


社会保障ももらわなきゃ損?

年金や社会保障費なども、「もらえるものはもらっておかなきゃ損」という意識が日本人には強くあります。

社会保障費は、すべての国民に最低限度の生活を保障するために必要な制度で、日本は他の国々と比較しても社会保障は充実している方で、その意味では生活しやすい国といえます。

未使用で家にたくさんあるにもかかわらず、病院に行くたびに湿布薬を大量に処方してもらうのも、同じような心理でしょう。「病院へ行くなら湿布を出してもらわないと損。いつか使うかもしれないし」

定期的に病院に通っている高齢者のお宅には、飲んでいない大量の薬や湿布があふれていることが珍しくありません。おそらく薬が全て自己負担だったら、そのようなことにはなっていないと思われます。


介護給付費の上昇が止まらない

介護保険サービスは、基本的に利用額の1割だけ自己負担すれことで必要なサービスを利用することができます。(所得に応じて2割・3割の場合もあります)

要介護認定を受けている介護保険証は、介護サービスの「9割引クーポン券」です。この割引した9割分は、国や県や市町村が負担しています(40歳以上から徴収した介護保険料と税金)。

国が負担している分を介護給付費といい、その額は2000年の介護保険創設時から右肩上がりに伸び続け、20年間で3倍近くに膨れ上がっています。また介護給付費の上昇に伴い、徴収する介護保険料も上がっています。


もしも現金給付だったら…

85~89歳の一人当たり介護費は約72万円、医療費は約105万円(2018年 厚生労働省)です。合計で約177万円の介護医療費を受け取っています。

これは絶対にありえない話ですが、もし85歳の人に「年間177万円を給付するから、介護や医療は全額自費で賄ってください」と言って現金で渡したら、全額介護・医療に使うでしょうか?

現金はどんなものにも使えます。介護サービスにも使えるし、旅行代金として使うことだってできます。

僕の勝手な想像ですが、もしも現金前払いで支給したら、介護や医療に使われるお金が減り、サービス量が減るのではないかと考えます。

「せっかくもらったお金を介護・医療にすべて使うのはもったいない。おいしいもの食べよう。楽しいことに使おう。」と考える人が大勢いるでしょう。

ここに疑問が生まれます。

介護医療は最低限の日常生活を営むのに必要なものだから社会保障として給付されています。しかし、現金でもらえるならそのお金を介護医療には使わない。

ということは、省いた分の介護・医療は本当に必要だったのか?という疑問です。もともと省ける介護・医療とはいったい何なのか?


国のお金の使い道を一人ひとりが真剣に考えよう

もちろんこのような制度が現実化することはありません。こんな制度では、本当に必要な人への社会保障給付が不足し、機能しなくなってしまいます。

僕が言いたいのは、国のお金=自分たちの財産という意識を持った方が良いのではないか。ということです。

国のお金=他人の財産と考えるから、もらえるものは使わなきゃ損となるけど、自分の財産ならその使い道をもっと慎重に考えると思うのです。

限りある財源を何に使うか、一人ひとりが真剣に考えることが必要です。

保険料払ってるんだから、社会保障は使わなきゃ損という考え方を改めなければ、人口動態の変化に伴いいずれ日本の社会保障制度は維持できなくなります。

政治家は僕よりも数段頭がいいので、そんなことはとっくに分かっているはずです。しかし、社会保障の適正運用のための縮小策を提示したら、甘いことをいう人に選挙で負けてしまいます。

僕たちは芸能人のスキャンダルに関心を奪われている場合じゃありません。この問題を自分事として考え、議論する責任が僕たちにはあるのです。

マンパワーの面でも介護医療の制度が限界に近付いていることを感じている介護医療従事者には特に、この現実について考えてほしいと思います。


立崎直樹







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