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食のサステナブルって?

「あなたという人間は、食べたものそのものです」(You are what you eat)という言い方が英語にはあります。何を食べたか、それが自分を構成しているという意味でしょうか。栄養や健康面、体をつくるという意味だけでなく、おそらく生き方とか知性、脳の働きにも関係しているということではないかと。

大昔の考えでは食の問題とは、栄養学上どうなのか、ということに集約されていたように思います。タンパク質を多くとるとか、青い葉物を食べるようにするとか、ビタミンは大事とか、1日の栄養のバランスを考えて30品目を目標にとか。そういう問題は主として女性、中でも「家庭の主婦」が考えることでした。でも今は「食の問題」といったとき、その範囲がとてつもなく広く、大きく深くなっているように思います。そして誰であれ、女でも男でもどちらとも言えない人でも、若者でも年配者でも子どもでも、どこの国や地域に住んでいる人でも、とすべての人が考えるべき課題の一つになってきています。

自分が日々口にしているものは、どのようにして生み出され、どのような過程や経路を通ってやってくるのか、その行程で起きている問題点はなにか、など知らないことがたくさんあります。

先日、個人宛てのメールボックスにエジンバラ大学から講座の誘いが入ってきました。「Sustainable Global Food Systems」というオンライン講座を受けないかという内容でした。なぜエジンバラ大学から?と思って考えたところ、以前にコーセラというMOOCs(世界中の大学が講座を公開しているネット上のプラットフォーム)で、この大学の動物福祉に関する講座を受けたことがあったのを思い出しました。3ヶ月くらい(無料で)その講座を受けたのですが、とても良い充実した講座でした。

その講座は主として畜産についての動物福祉の考え方で、功利主義という考えを主軸にしていました。畜産といえば、鶏や豚や牛を食品として加工する産業です。おそらくその関係で、わたしのところに今回の講座の誘いが来たのだと思います。これまで食の問題について、そこまで深く考えてこなかったのですが、なかなか的を得た誘いで、これを機会に「食の問題の現在地」を知るのは面白そうでした。

それでさっそくこの講座を受けてみようと申し込みました。もし全コースを受けてその認定証がほしければ、$50弱払えばいいのですが、とりあえず無料コースでスタート。

ところでエジンバラ大学の「Sustainable Global Food Systems」ですが、表示 - 継承 4.0 国際 (CC BY-SA 4.0)というクリエイティブ・コモンズの扱いになっています。講座の中でつかわれている写真の多くは、CC0(パブリック・ドメイン)の扱いです。動画も自由にダウンロードできるようで、すべて「表示・継承」のルールを守れば使用は自由のようでした。

ここからその講座で知ったこと、考えたことを中心に書いていこうと思います。講座は英語によるものなので、一部を日本語に翻訳して紹介することもあると思います。その際は表示・継承のルールに沿っていきます。

第1日目:サステナブルな食のシステムとは? 
これが最初の日のテーマで、どんなことを学んでいくかの概観です。ビデオでは、エジンバラ大学のフィオナ・ボースウィック博士(グローバルな食の保証・安全と栄養学)が次のように話しました。

このビデオでは、食のシステムのキーとなる局面について、そしてそれがどのように互いにリンクしているかを紹介します。食のシステムがグローバル化していっていること、サステナビリティ(持続可能性)の基本コンセプトについて、食のシステムの各段階に関する悪影響に注目していきます。
EdinburghX GSA1.1x Sustainable Global Food Systems (CC BY-SA 4.0)

食のシステムがどのように互いにリンクしているか、なるほど、このリンクというところにまず興味を惹かれました。

なぜ食のシステムを全体として見ることが大切なのでしょうか。
サステナビリティを考えていく上で、製造から消費までの間で、食のシステムのどこがより重要なのか、どこで悪影響が発生しているのか、わたしたちは判断ができません。食のシステムはどんどんグローバル化し、複雑になっているので、生産と消費という食のシステムの関係を理解することの重要さは増しています。
EdinburghX GSA1.1x Sustainable Global Food Systems (CC BY-SA 4.0)

うーん、そうか。食ということを考えるとき、わたしたちは「消費」という側面に多く関わっているわけで(農業などの生産者の方々をのぞいて)、そこに興味が集中しています。誰が、どこでつくり、どのようにそれが自分の手元に届くのか、それをあまり知らないわけですね。知らないがために、どこで何が起きているか、問題点は何かにも無頓着です。いくらで買えるか、どっちが安いか、量が多い(ちょうどいい)のはどれか、どこのメーカーのものが、あるいは産地のものが店に揃っているか、くらいまででしょうか、関心事は。

「ものを食べた瞬間、あなたは食のシステムの一部になる」とボースウィック博士は言います。そして食のシステムの主要な局面として次のことを上げています。

1.生産
2.収穫
3.加工
4.流通
5.消費
6.廃棄

ここでは消費と廃棄も主要な局面として数えられています。現代社会では、わたしたちが食べるものは、工場などで加工、生産される食産業の手を経た加工食品の割合が増えています。さまざまな原料が別々の産地からやってきて、工場で加工され、それがまた食品の原材料となって別の工場へと運ばれ、そこでミックスされたりするわけです。この講座では、加工食品と超加工食品(processed and ultra-processed foods)と呼んでいました。それだけ生産から消費までの距離が遠くなるということ。過程が複雑なため、もとをたどるのが難しくなります。その間で起きていることを知る機会が減ります。

近年は加工食品は、パッケージに原材料や含有物の詳細が表示されるようになりました。アレルギーにかかわる原材料についてや、GM(遺伝子組み換え)食品は含まれていない、などの表記もあります。ただお菓子やカップラーメンなどさまざまな原材料がミックスされているものは、見てもわからない物質の名前がたくさん並んでいますし、それがどこからやって来たのか、国内なのか国外なのかも不明です。「含まれる原材料が質や安全性の点で、基準を満たしているか確かめるのは容易でない」とボースウィック博士も言います。

食のサステナビリティとは何かというとき、さまざまな局面が関係し合っている、リンクしているという話がありましたが、この中に、たとえば食産業で働く人々、中でも低賃金で過酷な労働を強いられている労働者の権利といった問題も含まれてきます。また天候不良や貧困のため、安全で栄養価の高い食品にアクセスできない地域の人々の問題もあります。厳密には食品ではないですが、水(飲んで安全な水、生活用水など)へのアクセスも注目すべき点とされます。

講座の中で、食の保証・安全性に関する4つの局面について、受講生が考えて投稿するというアクティビティがありました。4つの局面とは、「アクセス、入手」「安定供給」「利用」「恒常性」。Your Food Shopというタイトルで、自分がどこでどのように食料を得ているか、どのように利用しているかの経験を書きます。

他の受講者が書いていたものを読んで少し驚いたのは、Covid-19による影響で食品の入手が通常通りできなかった、この時期に値上がりしたという人が少なからずいたことでした。特定の国や地域の人というわけではなく、イギリスなどのヨーロッパやアメリカ、南米ブラジルでもそういう人はいました。日本ではホットケーキミックスが棚から消えたとか、納豆やヨーグルトが品薄という情報はありましたが(実際にベーキングパウダーのようなマイナー商品も棚から消えていたりしました)、これは家で子どもと過ごす時間があるので、ホットケーキをみんなが作りはじめた、とか納豆が免疫を高める効果があるという情報によって人が動いた、など切実性の薄い品不足です。その意味で、日本ではいまのところ食品入手への影響は比較的少ないということでしょう。

講座のアクティビティで、わたしもこの4つの局面について、書いたものを投稿しました。ただわたしの場合、他の人と少し違うのは、食品の90%近くは近所のショップで買うのではなく、生活クラブ生協という仕組を利用して手に入れていること。計画購入といって、あらかじめ(約1週間前までに)必要な食品を注文するのです。生産者(農家や畜産農家、漁業関係者、その他の食品会社)と生活クラブ生協、そして購入者(消費者ではなく組合員と呼ばれています)がいて、計画購入プランの中で食材が動いています。

現在は、個別注文で参加可能ですが、以前はグループでの加入のみでした。近所に住む数人でグループをつくり、その単位で注文をするのです。たとえば豚肉を注文する場合、1頭の豚のどの部分がほしいか、グループの中で調整するわけです。先週もも肉のブロックをとったから、今回は肩ブロックにするといったように、メンバーが互いに調整して豚の部位を分け合います。その当時はすべてブロック販売でした(1ブロックは1kgくらいだったか)。生活クラブ側は、生産者から豚を1頭買いし、それを何分の1かにしてグループに分けます。このやり方だと、計画購入はよりうまくいくのだと思います。生産者側は豚何頭分という単位で売れるので、予定が立ちやすいと思います。

現在は個人で加入しているので、好きな食品を好きな量買うことができています。ただ天候不良だったり、注文が集中して農家側の供給が間に合わず、「欠品」になることはたまにあります。また雨が多かったなどの原因で野菜に欠陥(表面に斑点があるなど)が出たときは、農家の方の事情説明のメモが入っていたりします。でも、欠品も含め、それは産地で起きていることによる影響なので、こちらも了解できます。そうか、茨木ではこの5月雨が多かったんだななど、少しだけ産地のことを考える機会にもなります。

さて、ここでまた講座の内容に戻ります。今日(1月21日)のレクチャーでは、農業従事者の人権を含めた権利ということが取り上げられていました。イギリスなどヨーロッパでも、昔は農業従事者の権利はとても低く、賃金がクーポンで支払われたり、奴隷労働のような扱いも多かったそう。産業革命後も、農業従事者は労働者に該当するとは見られていなかったため、権利への認識も遅れたようです。

講座ではロバート・オーウェンというイギリスの社会主義者を実例に、農業などの労働者の権利問題に貢献した人物を紹介、さらに受講者に自分の国や地域でそのような活動をした人物をあげるよう課題が出されました。世界地図があり、そこに自分の住む地域をポイントして書き込みます。ヨーロッパ、アフリカ、南米、インドなどがすでに記入されていました。東アジアは日本も含めゼロ。受講者がいないのかもしれませんが。日本、、、と考えて誰がいるのかなと思ったのですが、パッと出てきません。それでGoogleで人権、農業などの言葉をいれてみたら、「マッカーサー」の農地改革などが出てきました。日本の人権改革を外国人がした、というのもありだとは思いましたが、まだ投稿はしていません。

食のシステムを考えるとき、このように農業従事者の権利といったことが含まれてくるとは思いつきませんでした。農地の所有という点では、男性に所有者が偏り、女性が阻害されている(いた)という問題。また人権として労働時間や賃金だけでなく、従事する産業(農業)を学ぶための教育機会も含まれてくるようです。現在のように、農業が地球環境に及ぼす影響が注目される時代には、作物を効率的に育てる、利益をあげる、ということだけでなく、自分の使用している肥料や殺虫剤、あるいは耕運機がどのような社会的評価を受けるかに至るまで、理解が及ばなければならないということでしょうか。それは農業だけでなく、畜産や漁業でも同じではないかと思います。

食のサスティナブルについては、今後も機会をとらえて書いていければと思っています。

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