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第016話 白いスーツ

 瑛斗先輩と向かったバトルフィールドは、コロッセオみたいな施設ではなく、ただの森だった。

「へぇ~、隠れながら戦ったりできるので、戦略とか考えたりも出来るんですね」
「でも、相手も戦略を使ってくるってことでしょ? 僕たちに勝てるかなぁ……」
「まぁ、遊びですし、とにかくやってみましょう!」

 練習も殆どしていない俺たちが勝てるわけがない。それが分かっていたから、オレは逆に気楽だった。

 森の中には小さな広場にあって、そこでモニターと掲示板、受付けのボタンを見つけた。

「これでいいのかな? 二対二だよね? ルールって三点先取? うーん……?」
「大丈夫ですか?」

 瑛斗先輩が受付けの前でオロオロしていると、白いマントを身に着けたオレたちと同じくらいの背格好の男が声をかけてきた。逆立った黄色い髪をした、ニコニコと人の良さそうなアバターである。

「はい、オレたち今日が初めてで」
「そうなんだ。じゃあ、練習がてらに私達とやります? あ、私の名前はクゥイン」
「ありがとうございます。オレはハチピです。色々教えてもらえると嬉しいです」

 オレたちはこのクゥインと名乗る男から、闘技場の説明を受けることになった。ルールは簡単。先に攻撃を3回当てたら勝ちらしい。

 クゥインと一緒にいる男も白いマントを身につけており、何かのチームなのかもしれないな。

「じゃ、実際に戦ってみよう。私は剣で、彼は弓矢を使う。構成は君たちと一緒だ。弓は後方から木に隠れながら射つといい。剣は木に隠れながら素早く動くことで弓からの攻撃を避ける。そして前進して攻撃するといいよ」

 クゥインはそう告げると、フィールドの奥に消えていった。オレたちも待機場所に移動し、戦闘開始の合図を待った。

「やばいやばいやばい。緊張する!」
「先輩はとにかく後ろからバンバン射ってください」
「わかった……」


――――ピーーーーーーーッ!!


 開始の合図だ。
 オレは木を避けながら真っ直ぐ突き進む。

 いたっ!

 白いマントが目の前をふわりと横切った。そう思った瞬間、クゥインはオレの背後に回っていて、オレはあっけなく一点を取られていた。

「えっ。はやっ!」
「ごめんごめん。先ずはこういうことが出来るよって見せたかったから」

 朗らかに笑うクゥインに、オレはただ立ち尽くす。

 悔しい。でも凄い。
 オレもこんな風に強くなりたい。

 そんな風に思わせるオーラが彼にはあった。

 それから何度も戦ってもらったけど、少しも攻撃を当てることが出来なかった。

「凄いですね! あの、よかったらフレンド登録してもいいですか? もっと色々教えてもらいたいんで」
「いいよ」

 クゥインは快く受け入れてくれた。

 そうしてオレは、時間がある時はクゥインにコンタクトを取り、何度も会った。
 戦ったり、雑談なんかもして、オレたちはすごく仲良くなった。


 ◇

「え? クゥインってG社の社員なの? それって、仲良くしていて大丈夫なの?」

 ハピバ島でクゥインのことを話したら、瑛斗先輩が顔をしかめる。

「別にクゥインはめちゃくちゃいいヤツだし、何も問題ないっすよ。でも、これってG社を知るいい機会じゃないっすか? オレ、今度クゥインにG社のイベントに連れて行ってもらうことになったんすよ。潜入調査、してきますね」
「潜入調査って……。どうせ、アニメみたいだと思ってワクワクしているんだろ?」
「まぁ、そうですね。ははは。大丈夫ですよ、どんなか見てくるだけですから」

 不安そうな瑛斗先輩を言いくるめて、オレは軽い足取りでG社のイベントに向かった。


 ◇

 イベントはネオガイア新ワールドのプレオープン。近未来のSFのようなワールドだった。参加者はG社の社員だけではなく、関係者など各業界の凄い人が招待されている。

「緊張しているの?」

 隣に立つクゥインが背中を叩いてきた。

「そりゃするっしょ! 何ここ、やべー!」
「ここネオガイアにはさ、病気や事故で動けない人も沢山いて、第二の人生を送っている人がいる。そんな彼らのバックアップをしているのが、ここにいる人達なんだよね。私の兄が寝たきりでさ、塞ぎ込んでいたんだけど、ネオガイアのお陰で生きる気力を取り戻したんだ。それって凄いことじゃない? 生きる気力を与えるってさ。心を元気にする仕事を私はしたくて、ここに入ったんだ」
「心を元気にする仕事……」

 オレは自分の夢との共通点に、心が大きく揺れた。


 ◇

「八広……なんだよ、それ……」

 配信より早く瑛斗先輩をハピバ島に呼んだオレは、新しいアバターを身に着けて登場した。
 それはG社の社員である証の白のピッチピチスーツ。

「オレ、あのG社のイベントに行ってから、他のイベントにも何度か参加してきました。色んな人と話して、このままでいいのかなって思ったんです」
「え? どういうこと? 急にどうしたんだよ」

 瑛斗先輩は立ち上がり、困惑した表情でオレを見つめていた。

「S.S.さんからアバターをもらって配信をしていましたが、オレたちの技術って向上しました? 配信に一生懸命で何も出来ていなかったですよね? いや、先輩は色々動画を作ったり頑張ってくれていましたが、オレは先輩に甘えてばかりいたことに気がついたんです」
「それはいいけどさ。ってか、なんなの、そのアバター。S.S.さんからもらったの?」
「いえ、G社からもらいました。オレ、G社の人たちのように心を元気にする人になりたい。そういう意味でもらいました。S.S.さんや瑛斗先輩を敵に回すという意味じゃありません。これはオレの意思表明です。夢を叶えるために、瑛斗先輩に頼らず自分を磨くことにしようと思ってそう決めました」

 短くも長い沈黙が起きる。
 瑛斗先輩は優しいから、きっと八広の思う通りにやればいいって言ってくれるだろう。

「嫌だ」
「え?」
「なんだよそれ。何で勝手に決めるんだよ。一緒に頑張ればいいじゃん。ファンの子たちだって二人が一緒に配信するのを求めているよ?」
「そんなことは分かっていますよ! だけど、もっと上を目指したいんです! 和気あいあいなだけじゃダメなんですよ! 瑛斗先輩は夢、叶えたくないんですか? 配信ばかりしている場合じゃなくて、映像だったり音楽だったり、色々やるべきことあるじゃないですか? オレは先輩に頑張ってほしい。上を目指してほしい。先輩はそれが出来るって、オレ、思ってます!」

 思ってもいない反応で、少し焦ってしまったけど、オレはこれでいいと思っていた。

「夢は叶えたいよ? だけど、G社って……。S.S.さんに恩を仇で返すつもり?」
「G社は別に悪いところじゃない。むしろ共感しています。そういう意味でも、別々でやったほうがいいと思う……。きっと色々見えてくると思いますから」
「八広……」
「すみません、先輩……。オレ、先輩の足、引っ張らないように頑張ります。そうだな……お互いにフォロワー数が一万人になったらまた一緒にやりましょう。オレはオレで頑張りますし、瑛斗先輩も頑張ってください……。それじゃ、また……」

 オレは有無も言わさず、ハピバ島を出ていった。



※バトルシステムについては変更する場合があります。
※いずれ皆さんにも遊んでもらえるようにする予定です。


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後日追加予定!
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