ハロウィンという行事について

 「Trick or treat!(トリック オア トリート)」
 夕方、犬の散歩をしていると、普段住宅内でよく見かける小学生が三人ほど、他所様の家の前で、何やら手元のビニール袋を覗き込みながらガサゴサやっていた。
 そういえば今日はハロウィンだが、さっきの得体の知れない台詞といい、まさかその真似事でもあるまいな…と思いつつ、いつものコースを探索して自宅に戻ると、彼らはうちの近所でまだうろついていた。
 夕方散歩が終わると晩御飯!と、自ら勝手に決めている我が愛犬の手足を洗い、慌てる足を引っ張りながら拭き終わって水を捨てる。駆け上がった彼の後を追うと、既に〝晩御飯〟をがっついている犬の横で、母が目を丸くしてこう言った。
「なんかさっき、子どもらが来てな…〝トリットリッなんとか~〟とかって、お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ~とか言うねん。何かと思ったわぁ…」
 あぁ、やっぱり…ハロウィンに便乗してお菓子をせしめに来たのね。
「お菓子なんかうち置いてないしなぁ…しかもあげるようなもん。よぅわからんけど、何かあげなあかんのかと思って、仕方ないからお土産でもらったこないだの御饅頭、一個ずつ渡しといたわ。一体何なん?あれ…。」
 私は自分が知っている〝ハロウィン〟の情報を母に伝える。母は「ふ~ん…」と頷き、腑に落ちないような顔で続けた。
「そんなん、こんな年寄りばっかりの住宅で…なんのこっちゃわからんわ」
 全く以て正論である。
 嘗て新興と呼ばれたこの住宅も、既に三十年以上の歴史を経ている。それなりに人の入れ替わりはあるものの、古くから住んでいる人の殆どは子どもがいないか、いても既に成長して家を離れた、初老の隠居家庭が殆どである。彼らの子どもが家に居た時代でも、当時の日本にクリスマスぐらいの異国行事は存在しても、ハロウィンなんてものを知っている家庭は帰国子女ぐらいだったのではないかと想像する。しかし此処はそんな家庭が住みそうなセレブ感溢れる住宅地ではない。一般庶民が住む一戸建て住宅の代表宛らな環境にあって、ハロウィンって…。
 最近はアミューズメントパークや人の賑わう場所での行事開催が引き金となって、多少知名度の上がっているハロウィンではあるが、まさか自分の住む地域で行事に便乗する輩がいるとは夢にも思わなかった。
 しかも彼らはまさに〝便乗〟なのである。
 扮装せずに家を回り、菓子をせしめようとする小学生達…。やるならもっと本格的にやれ!と言いたい。趣旨を理解し、せめて扮装ぐらいしろ!と。
 お菓子が欲しいだけの小学生…。そんな子どもがいた時代とは、未だ辛うじて駄菓子屋が普及していた、私が小学生だった頃ぐらいまでで、スーパーやコンビニなどの広く明るい店舗で買い物するのが当たり前になった今の時代には酷く不似合であるように感じる。豊かで物が溢れる飽食の時代に、他所様の家を回ってお菓子を欲しがる子どもがまさか居ようとは…。
 きっとひもじいわけではないのだろうが、我が子でないながら、見ている私の方が恥ずかしかった。彼らの保護者は、子ども達のしていることを知っているのだろうか。知っていて放っているのか、知らないうちに勝手にやっていて知らないままなのか…。
 いずれにせよ、この住宅にハロウィンは浸透しておらず、大人たちは戸惑っているから、やめなさいと言いたい。来年、再び回って来たら、「せめて扮装をして出直して来い」と言ってやろうかと秘かに考え中である。
 因みに我が家にとって十月三十一日は、ハロウィンではなく、先代の愛犬チョコの命日であり、彼の棲む仏壇もどきが美しく清掃され、御供え物で埋め尽くされてから黙祷を捧げられる…という大切な日である。

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