6月5日 ①

 2度目の認定日。嫌な気持ちで出掛ける。
 どう頑張っても、やはりハローワークは苦手。学校を卒業して初めて行ったときより、随分明るく綺麗になってはいる。それでも照明を落とした薄暗い室内や、天井の低い閉塞感は気を滅入らせる。そもそも窓…あっただろうか?
 失業保険の給付を受けるには行かざるを得ない場所だが、就活が進まない状態で、希望を持って出かけたくなるような場所では決して無い。
 バイクで行くと、過去、嫌々出掛けて行った時の記憶が呼び覚まされて余計に気が滅入るので、今回も母に車を借りる。認定時間が前回より2時間も遅くなったので、必要な用事を一通り済ませておくことにした。
 コロナショック以来、畑や散歩以外、大方外を出歩いていない。コロナが原因で出掛けられなくなった場所は幾つもあるが、閉鎖状態を理由に出掛けて行く必要に迫られないため、余程のことが無い限り、買い物すら今回のような必要な外出の際に済ませるようにしていた。
 前の職場があった市の図書館に、約2ヶ月かけて読み切った20冊を返却に行く。緊急事態宣言が解除されて以来、一応機能しているようだが、着いた時間は開館より早く、初めて返却ポストを利用した。
 来た道を戻り、時計と相談しつつ神社に立ち寄る。ある程度の年になってからだが、ここ十数年、初詣に出向く神社だ。きっかけは、やはり就職祈願だった気がする。その年、割と心穏やかに暮らせたことでご利益を感じ、それ以来氏子でもないのに通うようになっていた。今年は祖母の喪中を理由に、初詣は控えたのだが、忌中は駄目だが喪中の参拝は不可ではないのだと、事前に調べて確認出来たため、出向くことにしたのだった。
 日頃、神の御加護を感じることはほぼ皆無である。因って、勝手にも程があると自覚しながら、信仰心は殆ど無いに等しい。昔は神に縋りたくなるようなことばかりで、しょっちゅう心の中で手を合わせていた気がするが、命よりも大事な先代の犬が治らない病にかかり、同時期に祖父も病に倒れた同じ年の秋、きっかり2週間を経て、その両方が旅立って以来、私を守る神はいないのだと確信めいた諦めを感じたのだった。
 こうしてある程度健康に生きている以上、全く加護がないなど、言い切れないとは思っている。しかし、ご利益があると有名などんな神社に参拝しても、私の願いは叶った試しがない。いくら切羽詰まっていても、助けてくれる神はいなかった。本来そういう解釈はするものではないという話もあるが、誰もが口を揃えて「御利益あり」と噂する場所でさえ、私の願いは届かない。世界平和だとかいうような壮大な願い事をしているわけではなく、人として誰にでも起こっておかしくないような細やかと思われるような願いさえ叶わない。努力のしようがなくなって…の神頼み。努力が足りないと言われているのか、賽銭が足りないと言われているのか、単に私が神に嫌われるだけなのか、そのいずれでもないのか、誰も教えてくれないのでわからないままだ。
 因って、神が人の人生をどうにかしてくれるなどということは、私の中では幻想以上にはならない。我が妹のように、参った途端仕事が決まったり結婚が決まったりしてびっくりさせるような人間もいるが、彼女のように身内に迷惑を掛け捲る厄介者であっても、神から見れば私などより救いようのある純粋な存在だと映るのかも知れない。
 私にとって結局、神は必ずしも味方ではない。唯、気持ちの問題で、出向いて手を合わせれば、自分の心だけはほんの少し救われるような気持ちになるのだ。それこそが御利益だと言われると若干もやもやするが、今は神頼み以上に出来ることが見付からない。神が味方ではなくとも、私を多少錯覚させるだけの力は持っている。
 神社には人っ子一人いなかった。駐車場は空。自粛解除とはいえ、静かすぎる気もするが、平日の午前中だ。人々は学校に仕事にと外へ出ているのが一般的。快晴の空の下、独り占めした神の社は、何故か私をホッとさせた。本当なら孤独と疎外感に苛まれて籠っていることに罪悪感が募っては、自己嫌悪に陥るところ。見えなくても神はいるのかも知れない。
 素直にルートを辿り、稽古場を借りている文化施設へ…。納得しにくい申し出を電話で受けた後、詳細が記された封書が届き、電話での通達より内容が緩和されたらしいことが窺えたが、二転三転されるのはややこしい。10月からは業者が入り、消毒のために1時間のインターバルが設けられると記載されていたことから、レッスンの再開はそれまで待つことにした。
 キャンセルではなく、〝変更〟。稽古場は未だ埋まっていなかったので〝変更〟での確保は出来たが、対応した職員となかなか話が噛み合わない。
「1時間フルで使えない間は利用しない」と言うこちらに対し、「7月はどうします?来週あたり、もう少し緩和されるかも知れないんですが…。」と言う。
「いやいやだから…。9月までは利用時間を奪ってまで消毒の時間を設けるんでしょうが。それなら使わないんです」とは言わなかったが、手続きに時間がかかるという話から、それがどのくらいかの提示も無く、待つ?待たない?で七転八倒した挙句、何の資料も受け取らず、次回10月に来たらすべて整っている状態にしておくという言葉を信じて、メインイベントへ向かった。

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