木下半太

小説家。俳優。映画監督。劇団「渋谷ニコルソンズ」主宰。 大阪府茨木市出身。 映画化にな…

木下半太

小説家。俳優。映画監督。劇団「渋谷ニコルソンズ」主宰。 大阪府茨木市出身。 映画化になった小説 「悪夢のエレベーター」(幻冬舎文庫) 「サンブンノイチ」(角川文庫) 漫画原作で、「黄金少年」を月刊ヒーローズで連載中。

最近の記事

木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」5

   店長の伝説  ここからは店長の武勇伝だ。  三時間半ぶっ続けで聞かされた話をまとめてみようと思う。  途中から意識朦朧で聞いていたので、若干、話の筋がおかしく、もしくはハリウッド的に大げさになるかもしれないがご了承ねがいたい。  簡潔にまとめるので、どうか安心して欲しい(三時間半は地獄だった。レジの横に置いてあるテレビで流していた『タイタニック』が終わったぐらいだ)。  店長は二十代の頃、千葉では伝説のサーファーだったらしい。  ガキの頃から波を乗り回し、地

    • 木下半太 小説 ビデオショップ・カルフォルニア4

      第四話 メーテル、サイボーグ、ジョーズ デグは一日でカリフォルニアを辞めた。  一日中埃臭い麻袋を被り続けて、咳が止まらなくなったのだ。 「やってられるか。リュウもやめようぜ」と初日の帰り道に言われたが、「おれは……もうちょい続けてみるわ」と返した。 「マジで?」デグが目を丸くした。「なんでやねん?」 「お前は学生やからええけど、フリーターのおれは実家でゴロゴロしとったら肩身が狭いねん」 「まあな……」デグが納得する。  もちろん、嘘だ。好きなだけテレビを観ながら

      • 木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」3

        第3話 ビデオショップ・カリフォルニア  一週間後、デグから電話があった。 『リュウ。バイトみつけたぞ』 「おう。よかったな」 『お前の仕事場やで』 「はあ?」おれはリモコンでエロビデオの音量を下げた。 『ファミマをクビになったんはオレのせいやからな』  デグは変なところで責任感がある。 「職種は?」 『レンタルビデオ屋』 「マジ?」テレビの画面では、島袋浩がOLの胸を揉んでいる。「……なんて店?」 『ビデオショップ・カリフォルニア』  《カリフォルニア》はJR摂津富田駅

        • 木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」2

           第2話 ドラゴンと腕相撲  おれの名前は寿竜。メデタイのかイカツイのかよくわからない名前だ。名付け親は祖母。小学生のとき、祖母に名付けの理由を訊いたことがある。 「藤波辰巳が好きやったんよ」  祖母の答えに愕然とした。せめて坂本竜馬にしてくれよ、と子供心に思った。一生背負っていかなければならない名前をプロレスラーから取らなくてもいいじゃないか。  祖母はプロレスの大ファンだ。プロレスの時間になるとテレビの前を陣取って、煎茶を飲みながら流血するレスラーたちをニコニコと観てい

        木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」5

          木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」

           第1話 ミレニアム、テレクラ、金的    二〇〇〇年の一月一日、午後零時。  おれはテレクラの狭く黴臭い部屋で、鳴らない電話と向き合っていた。  受話器を外し、フックに直接指をかける。テレクラでの基本中の基本らしい。隣の部屋にいる悪友が言っていた。  悪友の名は出口正大。通称・デグ。おれに色々なことを教えてくれる。そして、そのすべてがロクでもない。  どこからともなく除夜の鐘を突く音が聞こえてきた。たぶん、茨木神社だ。   部屋の中にある鏡がある。前かがみでフックを押さえる

          木下半太 小説「ビデオショップ・カリフォルニア」