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小説

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#SF小説

檸檬

「つまんないね」
私の仕事は商品の陳列を微妙にずらすことである。丁寧に並べられ積み上げられた商品を少しずつずらし、崩壊する寸前のところで手を止める。そして平然と立ち去る。私が店を出る頃に、誰かの体が触れてそれは崩れてしまう。
店員は不快な顔を隠してそれを並べ直す。崩した客は不運そうな顔をして居るだろう。「私の所為ではない、その運命と均衡が悪いのだ。」という風な面構えをしていやがる。そこに流れる瞬間

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感覚器官

見渡す限り人はいない。みんな消えてしまった。死体など見たくないから自然に分解されて塵になるようにした。今吸っているこの空気の中には彼らの肉も含まれているだろう。少し嫌な気持ちになる。しかし元々の世界からして、死者の蓄積のようなものだ。海のにおいは生き物の死んだにおいだ。

世界とは一体何を指していたのだろう。それは広いものなのか。小さいものなのか。私はちっぽけな存在なわけでも、大きな存在なわけでも

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