イエローストーンのオオカミ リック・マッキンタイア
「すべてのオオカミが、8のような寛大さや分かち合いの精神をもっているわけではないことをわたしは知った。人と同様、オオカミの性格も十人十色なのだ。」
これはオオカミのシェイクスピア物語だ。
それは「善」と「悪」のように、
「生」と「死」が繰り返される。
けれど、この物語は実際の物語だ。
1995年、アメリカのイエローストーン国立公園にオオカミが再導入されたよ。
人間様が彼らを絶滅させてからと言うもの、カリブーの増えすぎですっかり緑が減ってしまって困るからオオカミ戻した方が良くね?と言うアレですな。
この取り組みの結果はまあ置いといて、マッキンタイアさんの話はそこで暮らしだしたオオカミたちの感動に震える物語(もちろんノンフィクション)だ。
オオカミ観察歴なら世界記録だぜ!っと豪語するマッキンタイアおじさん、この人、人生のうち40年間昼も夜も夏も冬もオオカミたちをストーキングするという、かなりのマニアだ。夏の間の起床時間は3時15分だという。ぼくなんか、そんな時間に世界が存在してるのも知らないってんだ。
と言うわけで、かなり気合の入ったノンフィクションで、実際観察したことでありながらも、シェイクスピアばりの物語性に号泣しながらシャッポを脱いで拍手しまくるという、この値段で壮大なオオカミ劇が見れるならお得すぎて申し訳ないくらい。
それに全編にわたって、ポウくんが目に浮かぶ、彼の行動、彼の仕草、彼の表情、彼の気持ちが思い出される、それで、ぼくは、また泣くんだ。
さて、一番初めに導入したカナダ出身の一家を中心に物語は始まる。
「クリスタル・クリーク・パック」の4兄弟の中で一番小さく、いじめられっ子だった灰色のオオカミ「8」。
彼と、彼の養子である逞しくも優しい黒いオオカミ「21」。
彼らを観察しているうち、ふと思うは、
「その人の性格を決定するのは遺伝か、環境か?」
この本の楽しいところは、純粋な観察でオオカミ個々の性格を記録しているところだ。マッキンタイアさんも人の子ゆえ、好き嫌いもあれど、科学者らしくなるべく公平に見ているようだけど、読者みんながきっと8と21のファンになることは間違いない。
なぜって、彼らはニンゲンの求める理想の「善」を見せてくれるからだ。
まず8の「善」たるところは、初めに母親とではなく、子供らと親密になったことだ。子供らの心掴むのが上手く、優しく、面倒見も良い、負ける振りもお手のもの、それが8だ。
さらに8を勇者然とさせるところに、彼は小さく、見栄えのしないオオカミであるにもかかわらず、クマや、ライバルの巨大なリーダーと対峙しても決して怯まないどころか、巨大な敵リーダーを打ちまかし、おまけに情け深く逃げしてやると言うサムライ精神っぷりだ。
そんな8の侍魂を見て育った21はもちろんサムライになった。
実父の血を受け継いで巨大な黒オオカミに育った彼だが、リーダーになってからも家族の中の道化者を演じ、遊びが大好きだ。
彼らの遊びの描写がたまらない。
「追いかけっこ」「かくれんぼ」「レスリング」「棒投げ」「待ち伏せごっこ」。。。彼らはたくさんの遊びを生み出すんだ、もちろん、おもちゃも大好き、拾った棒や、骨、人間が落としたもの、なんでも咥えておもちゃにする。
彼らは多くの時間を「遊び」に費やす、なぜか。
彼らの一番大事なもの、それは群れの絆、遊びはそれを育てる。
母が子の面倒を見るときと同じように、父と息子の激しい取っ組み合いの中でオキシトシンがドバッと出るらしい。
遊びの多い群れほどストレスが少なく、利他的に行動できる。
そんな中、オオカミの中にも性格の悪いやな奴がいてさ、それが、40っていうメスなんだけど、威張り屋のいじめっ子で家族の平和を台無しにするという。。。まるでぼくみたいな奴でさ。
こいつがこともあろうか21の嫁だってんだから!
どでかい21もこの凶悪な嫁に頭が上がらず。
そんな観察からみんな気づいたのは
「オオカミの家族においては、母オオカミこそがだれもが認めるボスだということだった」
そう、ママンに絶対服従なんだ。
長年のアルファ説が完全が覆されたという!しかも、それを最初に見つけたのもボランティアの女の子だったという!
どの群れも大事なことの決定するのはメスリーダーだ。
子供のしつけをビシッとするのはメスだ。
だいたい一番最初に獲物に噛み付くのは体の軽い俊足のメスだ。
メスはオスを殺せるけど、オスはメスを殺せない。
ああ、フェミニストが聞いたら大笑いして喜びそうだ。
というわけで、女王40が君臨する独裁政権においてマスオさんな21。
読んでて、早くその40、追い出しちゃえよッ。って思うんだよね。
でもさ、40も辛いのかもしれないよ。
あからさまに子供たちはみんな21が大好きなとことか、あからさまに21が42(40の妹)のことが大好きなのとか、それにイラつく40の行動が危うくてハラハラする。
よく遊ぶとオキシトシンが大量に出て、穏やかな性格になるらしい。
ということは、ネクラな奴ってのはオキシトシンが異常に出てなくて、それゆえストレスレベルが上がってさらに性格が悪くなるのかもしれないね。
オオカミストレス測定で、いじめられっ子がストレスが一番高いのかと思いきや、リーダーのストレスが最大だという、そう、「決定する」のはストレスがかかるんだ、そう、そして大抵の決定はメスリーダー。。。
「巨体のオスリーダーの38は、子どもたちを守り、食べさせることにかけては立派な働きをしたが、21がいつもやっているような、子どもたちとの楽しい交流の様子は見たことがなかった。38は彼らの実の父親であり、21は養父であるのに、皮肉な話だった。わたしの目には21のほうが家族とより強い心の絆でつながっているように見えた。しかし結局のところ、この二頭のオスは性格が違うだけなのだ、38は周囲とあまりうちとけない性格で、一方の21は、38よりずっと陽気で社交的なタイプだったのだ。」
物語の主役が8と21であるから、どうしても彼らの魅力的な姿に心奪われ、彼らのような者ばかりであったら、と思うよね。
けれど、絶対「善」が存在しないように絶対「悪」もないだろう。
40や38のように一見「難あり」に見える奴らも、種全体からしてみれば、必要な性格なのかもしれない。
もしくはオキシトシンが出ない環境での負の連鎖なのかもしれない。
結局、性格を決めるのは遺伝ではなく、環境なのだ。
というか、詰まるところ、オキシトシンだ!
最近流行りの(ぼくだけ?)オキシトシンがあればすべてうまくいくってもんだ。
遊びで絆が深まると、オキシトシンがブンブン出て、利他的行為が増えて、さらに絆が深まり、子供もたくさん生まれ、その子供らも利他的になり、子の生存率も上がり、子孫繁栄、正のループができるってもんだ。
うちの群れを観察してると、人間同士の間にオキシトシンがちっとも出てない。罵り合ってるし、意地悪しあってる。
けれど、そこに動物がいると、ちょっと違う、なぜか人間同士には出さないオキシトシンを動物に対してはブンブン出してくるんだ。
するとどうだ、ニンゲンにも優しくなるってもんだ、なんとなく円満だ。
なぜか、うちはみんな動物に優しい、動物に対しては罵りなし、暴力なしだ。
どうも、うちの群れは動物に対してはサムライ精神のようだ。
ママは甘い声でヨチヨチ言ってるし、パパは進んで負けてやってる。
なるほど、うちに昔から犬だの猫だのがいたのもきっと、それでうまくやってきたんだろう。
人間関係は崩壊してるけれど、そこにオキシトシン対象が入ってくるとうまくまとまるという。
21が入ってきて、ドルイドが楽しい雰囲気になったみたいにね。
子は親を見て、それを真似る、そして、それを自分の子に受け継ぐ。
性格を形成するのは遺伝だけではない!
それなら自分のヒーローを持つことで、自分の性格を変えれるやもしれない。
血の繋がったブサイクな身内じゃなくていいんだ、素敵な赤の他人を見習えばいい!
これはぼくみたいなブサイクな性格の者にも朗報だ。
1、オキシトシンが出るようにする
2、いけてるヒーローを見つける
これだけで、あなたも「幸せ」になれる!!!
「21はその立派な体格や強壮さを実の父親から受け継いだが、彼を育て、教育し、よき指導者としたのは育ての親の8だった。8は養子として引き取った息子に、オスリーダーであり父親でもあるものは、どう振る舞うべきかを教えた。…21は彼にとっての唯一の父親である8の行動を見て、それを真似たのだ。」