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アホウドリの迷信




「僕はとつぜん父が正しかったことを知った。僕は美しかった。」



・大きな赤いスーツケースを持った女の子 レイチェル・クシュナー
・オール女子フットボールチーム ルイス・ノーダン
・足の悪い人にはルイス・ノーダンの歩き方がある アン・クイン
・アホウドリの迷信 デイジー・ジョンソン
・アガタの機械 カミラ・グルドーヴァ
・野良のミルク/名簿/あなたがわたしの母親ですか? サブリナ・オラ・マーク
・最後の夜 ローラ・ヴァン・デン・バーグ
・引力 リディア・ユクナヴィッチ



翻訳家で有名な柴田元幸さんと、岸本佐知子さんが選んだゼンゼン知られていない作家の短編アンソソジー、マニアが悶える対談付き。
オジサンが読んでも楽しめるほとんど女性作家の短編集。


本ヲ読ムノガ好キデス。。。

なぜか挙動不審に小声でそういうぼくには、おおっぴらに「趣味は読書ですッ!」と言えない胡散臭さがある。

そんなぼくにアメリカ文学の面白さを教えて下すったお師匠さまと言っても過言でない。
ジャック・ロンドン、ポール・オースター、エドワード・ゴーリー、ブライアン・エヴンソン、レアード・ハント、ケリー・リンク、ジュディ・バドニッツ、ミランダ・ジュライ。。。
英語が読めない文盲のぼくにとってなんてありがたいことかね。


あのね、「アガタの機械」これね、気味悪いね、サイコー。
少女ふたりの秘密の機械の話なんだけど、アガタ少女は天才で、何やら機械を発明するのだけど、なんのメカなんだか全く解らないし、作った本人も何を意図して作ったのかゼンゼン語らないという。
何がどう作用するのか受話器を耳に当てると「美しい」ピエロや天使がでてきて舞う、というメルヒェンな機械なのだけど、そんな夢のメリーゴーランドみたいな機械からある日とつぜんゼンゼン美しくない下品で禿げたオヤジが出現し少女たちを震撼させ、その時から彼女らの何かが腐敗してゆくようなオソロシさ。
オヤジの名は「ミスター・マグノリア」、マグノリアは美しい花だが、オヤジはまるで冴えないという。彼がいやらしいゆえの美しい名か?

「私」は親から「アガタ家出入禁止」命令をくらったおかげでなんとか腐敗を免れるのだが、、天才少女アガタは、このオヤジのせいなのか腐敗した人生を送り、ただ、肉の塊と化して引きこもるという。

よくある、子供の頃に何かを踏み外したために人生を醜く台無しにする人の物語は五万とあるのだけど、この堕落はなんだ?
ゲーム中毒の子供の堕落っぷりに似てるが、そこへと子供の世界特有の単純な「美」と「醜」の対比が恐ろしさを煽ってきやがる。
無邪気な子供の醜いものに対する残酷さ。
少女のキラキラした世界が、オヤジが登場した瞬間、突如油じみた汚ならしい世界に変わるという。
ある種の絶対魔力を持つオヤジの存在感とはなんだ?

「オジサン=汚い」という世知辛い世の中を表しているようにも思えるね。
みんなピチピチした美しい者が好きだからね、オジサン、肩身狭いよね、いるだけで犯罪者扱いってもんだよ、ほんと生きづらいよね。
そんなオジサンにトドメをさす翻訳者様たちの言葉。。。


「『わたしは しなない おんなのこ』という歌をうたうのはやっぱりみんな女の子なんです。…『わしは しなない おじさん』だとやっぱり話にはならない。『おじいさん』までいけばまた別の物語が見えてくるかもしれませんが、『おじさん』あたりが一番無理がある。それは、お前に世界の暴力から逃れる権利はないよ、と誰もが思うからだよね。」


ってな、あれだ、少女の物語は美しいけど、オヤジの物語なんか誰も読みたくねーという。
どうしてオジサンはこんなにも嫌われるもんか。
それは、

「暴力を作っているのはだいたいおじさん」

と。

なるほど、「暴力」というところだけで考えるとなるほどそうやもしれない。「お爺さん」だとそんな破壊力もないと。
政治家たちも年齢こそお爺さんだけれど、活力的にはまだまだオジサンの域と。
現にホルモンの影響か切れるオヤジの多発で、この証言が立証されるってもんだ。

まあこれは一種のオジサン差別じゃあないか、まるで暴力に関わらないオジサンもいるんだよ〜ってな、けれど、世界的に広まるこのオジサン嫌いに立ち向かうのもなかなか難しいってもんよ。
「女性専用車両」はあっても「男性専用車両」がないのがそれだ。
毎日シャンプートリートメントしても、ハゲ散らかした頭で「キレイ」と謳っても説得力がないんだ。
事実、オジサンが詰め込まれた車両は「女性専用車両」(ぼくは乗ったことがある!)より圧倒的異臭に満ちているからだ。



「オール女子フットボールチーム」

この物語が、オジサンを救う。
女装趣味のある父は、「僕」にいう、



「お前にスカートとセーターと素敵な下着を着せてやろう。そうしたらお前、きっと自分を美しいと思うぞ」


ええーーーーッ!!!やだよッ!!!なんで僕がチアリーダーになんなきゃいけないんだよッ!!!
女子がフットボールの選手になったゆえ、チアリーダーは男子がやるという。
この作家の書き方、ほんとおっもしろいんだ。
女装を手伝う父と息子のシンケンなやりとり。
なんせ、父はその道のプロだ。


「このひとが僕の父さんなんだ、このひとがいなければ僕の人生は何の意味もないんだ」

そう、これはただのコメディではない、父と息子のまったき新しい関係。「女装」に纏わる父の思い出と僕の青春の笑いあり涙ありの感動物語なんだ。
読みながら、ぼくもこの「父」を尊敬し誇りに思うようになったってもんだ。彼は息子とぼくに人生で一番大事なものを教えてくれたのだ。

どうも、この作品だけ男性作家(イケオジ!)みたいだけど、こんなフェミニンなオヤジが増えたら、世界はもっとやさしくなれるんじゃないかな、と思う。
「オヤジ=暴力」ではなく「オヤジ=愛」であることを願ってやまないね。


「僕らは息子たちを愛し、彼らを人に優しい、いま僕らが踊っている音楽を愛する、そして女の服を着るような男に育てる。そうすれば僕らはきっといつまでも歳をとらず、二人の愛は永遠に続くのだ。」


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