「しあわせ」


その日は大通り沿いのカフェにいた。広い店内が賑わう中、周囲の音も店内の緩やかなジャズも今日の私には似合わない。濡れた湿度の高い音を隠し味にイヤフォンから控えめにそっと流れ込むこの誰もいないテラスが心地いい。車が通ると地に跳ねた水しぶきが躍る。でも私の足元には届かないから気にも留めない。最近知ったお洒落なオルタナティブ。雨上りに射し込む君の声は蕩けて消えたの。彼の無造作な仕草にやっと車道から目線を前に向ける。ひさしぶり。彼の口元が動いた気がしてイヤフォンを取る。けど私は彼を知らない。これからどうしようか。迷った私は「コーヒーでいい?」と尋ねた。

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