酸っぱい一周回った空気とゆらゆらと煌めいて揺れる灯りの夜のない街で育った。 みんなが他人のこの世界で、この東京という街の中で、ここだけは知っている人も知らない人も恥ずかしさも後ろめたさも、どこかに忘れてきたような生温かさが大好きだった。 父と母はこの街で出会ったらしい。 大学時代に一緒に映画を撮った仲間も、こっそり水筒に安いワインを入れて講義を受けてたバカなあいつも、切ない別れですっかり落ち着いてしまったマドンナも、みんなどっかで大人になってきちんと仕事をしているらしい。腹
白のチューリップを持つ藤山麻衣子(26)と手桶と柄杓を持つ岸田圭輔(27)がお墓の階段を上る。 お墓の前にしゃがみ手を合わせる麻衣子と圭輔。 × × × 麻衣子、桶を洗っていると目の前で幼い女の子が転び手を差し出す。 少女 「(目に涙をため)ありがとうございます。あの、うさぎさんの、みてませんか?」 麻衣子、笑って耳に手を当てながら 麻衣子 「んんっ、ふんふん、そっかぁ」 少女、首を傾げる。 麻衣子 「ウサギさんね、あそこの大きな木の影で休んでたん
星野源の「いのちの車窓から」を一つ一つ読み進めるほど、もう一回星野源の曲の一つ一つがもっと好きになるし、心にすとんと落ちる言葉と優しさで胸がいっぱいになる
その日は大通り沿いのカフェにいた。広い店内が賑わう中、周囲の音も店内の緩やかなジャズも今日の私には似合わない。濡れた湿度の高い音を隠し味にイヤフォンから控えめにそっと流れ込むこの誰もいないテラスが心地いい。車が通ると地に跳ねた水しぶきが躍る。でも私の足元には届かないから気にも留めない。最近知ったお洒落なオルタナティブ。雨上りに射し込む君の声は蕩けて消えたの。彼の無造作な仕草にやっと車道から目線を前に向ける。ひさしぶり。彼の口元が動いた気がしてイヤフォンを取る。けど私は彼を知ら
雲ひとつない綺麗な青空だから、太陽の光が眩しくてオレンジ色の瞼をゆっくり開けて、新鮮な空気を吸い込んで、深呼吸する朝 なんて迎えられたら素敵だけど、 天気予報によると、明日からは5日間雨みたいです 夏の終わりの台風か、秋の移動性高気圧と低気圧が早めにきたのか(暦の上では立秋ももう過ぎたし)、体だって重たいし 昨日は中々寝付けなくて、寝不足だからか、この雨のせいか何回寝ても寝足りなかった 明日は朝から一日バイトだから、起きるのも気が乗らない 毎日がそんないい日なんかじゃない
気付いた時には公衆電話のボックスの中で090から始まる番号を押していた。trururururu…trurururururu…。 スマートフォンどころか携帯電話すら持っていない僕にみんなは「お前変わってんな」とか「えぇー時代遅れー」とか言う。そんな”遅れてる”僕に彼女は「いいね、縋ってないね君は」と言って豪快にビールを飲み干し、泣きだすのかと思えば僕を見て思いっきり笑った。このむさ苦しく暑いお店の中で僕達に紛れて彼女一人だけ躊躇いもなくビールを頼んだ。そのキンキンに冷え
瞼の中まで侵食するオレンジが鬱陶しい。閉じたままでいる方が難しいから諦めて目を開ける。と、そこには入道雲。次生まれ変わるなら魚じゃなくて鳥だといいね。横になったお腹に小さな鉢を抱える。−−あ、冷たい。 コバルトブルーの爪を雲に透かす。泳ぐ手と溺れる自分。誰か掬ってくれないか。誰も救ってくれないか。新鮮なオーツーを取り入れて古くなったシーオーツーを吐き出す。次祭りに行っても絶対やらない。もうできない。
なんとなく なんとなくだけど電車で口紅は直しづらい 物理的な話じゃなくて心的に 朝の三鷹行きの電車はがらがらで 向かいの座席レーンには杖をついたおじいちゃんが一人だけ たぶんここまで空いてるのは朝少しだらだらしすぎてピークの時間をとっくに通り過ぎてるから 別に大した用でもないし、きょうは1日そんなに予定が詰まってる訳でもないしやんなきゃいけないことがあるわけでもない だけど何かしないと、そろそろ何かしないとって、思ってはいる ただ何も始めれてないだけ ただそれだけ この電
ちくたくちくたくおとがする 1秒が消えて1秒が産まれる音がする このまま夜を待つのかこのまま朝を待つのか 彼女の言葉が呪いみたいに消えない 階段の足音も少しずつ暮れてく太陽も 全部が止まれと心で何度も唱えた 止まれ、止まって、お願いだから 止まってよ 上に見えるのはドライフラワーと青空 左に見えるのは眩しくて閉じたカーテン 右に見えるのは白いアコースティック 手にはiPhone 文字も綴る、指を滑らせる、文字を奏でる 頭はからっぽ、体は動かない 誰か動かしてよ 時
忘れても後悔しない 壊れても良かったと思える それくらいには今は自分を見失ってない
始まりがあれば終わりがある 終わらせなきゃいけなかった っていうより、きちんと終わらせたかった きょう、最初に会うきっかけになった友達に全部を話してきた もう結構前に別れたこと、向こうに新しく彼女がいること、付き合ってる今の彼のこと 長い長い、本当に長かった思い出をもう思い出さなくてもすむように きょうでもう忘れてしまうようにと 彼は嫌がるかもしれないけれど、 いや口に出したらやっぱり嫌がってたけど それでもやっぱり出会えてよかった 15歳から19歳の初めまで
今考えてみたら何を求めて一緒にいたんだろう本当は何も求めてなかった なんて、 今はもう色々過ぎたことで、これも全部今だから言えることで それはあの人とのこれからとかこの先とかもう二度とは来ないことを知っているから それに今はもう一緒の未来を見たいわけじゃないから それだから、それだけだから言えること たくさん泣いた たくさん傷ついて、たくさん傷つけた でもそんな思い出もだいぶ褪せてごみ箱にとっくの昔に泣きながら入れた写真もアルバムも今頃はもうきっと姿かたちも残してはいない
この映画を見終わった時、私が最初に思ったことは、どんな形であれジョーカーが幸せを見つけることができてよかったということ Happy、Happy、Happy この映画には Happy=幸せ という言葉が何度も出てくる ジョーカーもHappyと呼ばれていた そう呼んでいた母親が最終的にジョーカーをどん底から、悲しみから、抜け出せなくなる最終打になった 一度でも人を殺したことがあるか、ないか その単純な線引きで前者の人は抜け出せない呪いのようなものがつきまとうもののような気がした
自分を見つめ直したら、叶わない夢がたくさん溢れてきて、後悔する前に消える前に、零れ落ちてくる涙でしか存在を確かめられない 昨日はあたってごめん 困らせてごめんね 自分が、わからなくなる
余裕がほしい お財布と体に栄養補給したい
外泊が増えた大学一年の秋 9時半にやっとおうちに着いて朝帰りでも、もうこっそり静かに玄関のドアを開けることも緊張感もなくなった お母さんは何も聞かないで まーーたママの朝ごはんの時間に帰ってきた〜 タイミングいいんだから って言って 自分用に温めたスープを目の前に出す オーディオから曲が流れる 流れる 大切な物を無くしたよ 今になって気づいたのが遅かった 大切な物を無くしました 大切な物を無くしましたって 気づいたのが遅かった なんてよくある話で笑っちゃうよな 明